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     ネット通信教授便り(第78号)  2009.11.17 発行
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発行責任者   :通信教授事務局
発行日     :毎月1日頃(定期)と15日頃(不定期)
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http://igo-school.com/mailmagazine/
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また3ヶ月ほど休んでしまいましたが、これからは間をあけないように
心がけたいと思いますので、どうかご愛読ください。

<碁盤あそび ー その2>

 碁盤には縦横19本ずつの罫線が引かれている。この罫線をたどって、
碁盤の左上の角から右下の角まで行く方法はいったいど何とおりあるの
だろうか。ただし、罫線をたどる向きは、右向きか下向きのみとし、左
方向やや上方向には戻れないものとする。
 このような、碁盤の左上の角から右下の角までたどりつく方法は、ざ
っと想像しただけでも何だかとてつもなく大きな数になりそうである。

 そこで問題を簡単にするために、まずはじめは19路盤ではなく9路
盤で考えることにしよう。9路盤ならば、たどっていく罫線にサインペ
ンで色をつけてゆけば、すべての経路を数え上げることができるかもし
れない。しかし、これを実際にやってみるとなかなか大変で、途中でや
めたくなってしまう。もっとスマートに数える方法はないのだろうか。

 実は、正確に計算する方法はあるのだが、そのやり方を明らかにする
前に、この数がどの程度のものになるか、直感によっておおよその見当
をつけてみよう。

9盤の罫線をたどって左上の角から右下の角まで行く方法は何とおりあ
るか、最も正しいと思われる数値を下から選べ。

@  100 とおり   C  10000 とおり  
A 1000 とおり   D  50000 とおり 
B 5000 とおり   E 100000 とおり

                                             (伊藤、次回に続く)
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小目は定石の中では最も好んで利用され、その基本定石はとても重要
です。このソフトに収録されている基本定石は、「黒の小目打ちに
白の小ゲイマガカリ」を基本形とした84題です。

どの問題も、学習者が黒になって盤面に石を打ってゆけば、一段落
するまで白が応手してくれるという形式になっており、むずかしい
定石もゲーム感覚で楽しく覚えられます。

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この特訓コースは、ネットで指導碁を打ちながら先生が音声で指導する
システムを採用しています。指摘された悪い手についてはその場で先生
から正しい打ち方を指導してもらうことができます。その効果は絶大で
あり、本当の実力(=対局力)をつけることができます。そのため、受講
された皆様から大好評を博しております。 

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第40話(その2) 名人・碁所の成り立ち

江戸時代においては、一般的に九段=名人・八段=準名人・七段=
上手といわれていますが、これは四世道策の時代に段位制が整備さ
れてからのことです。九段即名人は一時代一人が原則でしたが、名
人のいない時期もありました。権威を重んずるからには、当然あっ
てしかるべきことだったのでしょう。
平成九年(1997)10月26日付け読売新聞に「名人ルーツ、官命で
なかった」と題する記事が載っておりましたが、その記事の要旨を
まとめてみました。
@一七世紀末、寺社奉行から「囲碁所」「将棋所」は幕府の役職や
官位ではなく、家元自らの代表をそう呼んでいただけである。
A一八世紀末の古文書(将棋界)によれば、扶持の書替奉行から「幕
府にそんな役職はない」といわれた。
B「名人」が江戸時代から絶大な権威を持っていたかのような錯覚
があるが、名人にたいする新たな解釈が生じた。
ニュースソースは、遊戯史研究の権威である増川宏一が解読した、
将棋の大橋家に残った古文書でした。
衝撃的な記事だったので、囲碁史が覆るのではないかと思いました
が、中身は江戸中期の幕府内部の連絡不備による勇み足らしく、寺
社奉行の取りなしで解決したということです。
なお、見出しの「名人のルーツ」については、前述のとおり算砂の
名人は、はっきり"官命"と断言できる資料は現存しませんが、しか
し、名人・碁所の権威は官命以上の重みがあったと、私は思っており
ます。

<歴代名人・碁所一覧>

   歴代名人      名人就任年(年齢) 碁所就任年(年齢) 行年
---------------------------------------------------------------
1 本因坊算砂(一世)   慶長八年(44歳) 慶長八年(44歳) 66歳没
2 中村道碩(井上家元祖)元和十年(41歳) 元和十年(41歳) 49歳没
3 安井算知(二世)   寛文八年(51歳) 寛文八年(51歳) 87歳没
4 本因坊道策(四世)  延宝六年(33歳) 延宝六年(33歳) 58歳没
5 井上因碩(三世)   宝永五年(62歳) 宝永七年(64歳) 74歳没
6 本因坊道知(五世)  享保六年(31歳) 享保六年(31歳) 38歳没
7 本因坊察元(九世)  明和三年(33歳) 明和七年(37歳) 56歳没
8 本因坊丈和(一二世) 天保二年(44歳) 天保三年(45歳) 61歳没
9 本因坊秀栄(一九世) 嘉永五年(54歳)         51歳没
10 本因坊秀哉(二一世) 明治七年(40歳)         67歳没
       【注】満年齢・誕生月により実年齢が異なる場合があります。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     ネット通信教授便り(第77号)  2009.6.9 発行
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半年間休んでいたメルマガをメルマガを再開しましたので、どうか
ご愛読ください。

<碁石ならべ>

碁石を碁盤の両端に並べ、一方の端に並んだ碁石を一づつ割り箸で飛ば
して反対側に並んでいる碁石に当てて落とすゲームを子供の頃よくやっ
たものである。このほかにも碁石を並べて遊ぶ遊び方はいろいろあると
思われる。そこで問題(東大2001入試)。

白石180個と黒石181個の合わせて361個の碁石が横に一列に
並んでいる。碁石がどのように並んでいても、次の条件を満たす黒の
碁石が少なくとも一つあることを示せ。

その碁石とそれより右にある碁石をすべて除くと、残りは白石と黒石が
同数となる。ただし、碁石が一つも残らない場合も同数とみなす。

(伊藤)
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●定石シリーズB「実戦の基本定石80・小目1」 定価 3,990円

小目は定石の中では最も好んで利用され、その基本定石はとても重要
です。このソフトに収録されている基本定石は、「黒の小目打ちに
白の小ゲイマガカリ」を基本形とした84題です。

どの問題も、学習者が黒になって盤面に石を打ってゆけば、一段落
するまで白が応手してくれるという形式になっており、むずかしい
定石もゲーム感覚で楽しく覚えられます。詳細は次のウェブページを
参照願います。http://igoclub.com/soft/genre.html

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システムを採用しています。指摘された悪い手についてはその場で先生
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第39話(その1) 名人・碁所の成り立ち

名人や碁所はいつ頃、どういう経緯によって誕生したのでしょ
うか。明確な記録が残っておりませんが、どうも簡単ないきさ
つではなさそうです。

江戸期における棋士の究極の目標である「名人」や「碁所」の
地位に登るためには、まず棋力が抜群であることは言うまでも
ありませんが、その地位に至るには次のいずれかの方式によら
なければなりませんでした。
 @ (江戸幕府の)官命による 
 A 禅譲による 
 B 四家元の共同推薦による 
 C 争碁の結果により決定する
初代の名人・碁所とされる算砂については、いずれの方式かは
明確でなく、一説に「秀吉主催の全国大会の優勝者だった」か
らというのが根拠らしいのですが、秀吉から授かった「朱印状」
の現物が残っておらず、明確な経緯は不明です。制度や基準が
整備されたのは、道策の時代からでした。ABCについても幕
府の承認を受けていたのでしょう。
とにかくも、算砂は三人の絶対的な権力者の後ろ盾だけでも十
分に資格がありそうですし、"天下公認"というべきでしょう。
中村道碩は算砂から秀吉の「朱印状」を受け継ぐ形の禅譲とい
われ、安井算知の場合は幕府の裁量に基づく名人就位でした。
この幕府の決定にたいして三世本因坊道悦が異議を申し立て、
「遠島覚悟の争碁」を申し入れたのは有名な話です。
四世道策の場合は三家元からの異論もなく、すんなり決定して
います。道策の弟子だった井上因碩(道節)は宝永五年(1708)に
名人となり、道策の「跡目の道知をたのむ。ただし、碁所には
ならないでほしい」という遺言にそむいて二年後に碁所就位し
ています。(つづく)

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     ネット通信教授便り(第76号)  2009.2.17 発行
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<江村>

故あって高校時代の漢文を教科書を読んでいたら、有名な
「国破山河在」の"春望"と並んで"江村"という杜甫の詩が
載っていた。これも有名な詩らしい。
その中に、「老妻書紙為碁局」という句があり、碁のこと
がでているので興味を覚え、この詩を書き留めておいた。
(この七言絶句は文末に掲載してある)

「老妻書紙為碁局」とは、老妻が紙に線を描いて碁盤の代
わりにするという意味のようだが、この老妻は碁を打つの
だろうか。打つとしたら誰と打つのだろうか。それとも自
分では碁を打たないが、杜甫に言われて紙の碁盤を用意し
ただけなのだろうか。唐代には誰もがする一般的遊びとし
て碁は田舎でも普及していたのだろうか。それとも、教養
人たる杜甫の妻だからこそ碁を知っていたのだろうか。
わずかこの七言が意味するところをあれやこれやと考える
と疑問が疑問が次から次へと湧いてきて興味がつきない。

それにしても紙に書いた碁盤とは碁の本質を言い得て妙で
ある。碁はハードウェアに依存しないゲームである。
ハードウェアに依存しないゲームは、ある意味最高のゲー
ムであるといえよう。

現代の通信対局は紙に書いた碁盤と見かけはかなり異なっ
ているが、本質は同じである。ならば、通信対局といえど
もこの「江村」に出てくるようなゆったりとした気分で碁
に親しみたいものである。


      江  村
              杜甫

清江一曲抱村流  長夏江村事事幽
自去自来梁上燕  相親相近水中鴎
老妻書紙為碁局  稚子敲鍼作釣鉤
多病所須惟薬物  微躯此外更何求


清江一曲抱イテ村ヲ流ル
長夏江村事事幽ナリ
自(おのずから)ラ去リ自(おのずから)ラ来タル梁上ノ燕
相親シミ相近ヅク水中ノ鴎
老妻紙ニ書イテ碁(き)局トナシ
稚子鍼ヲ敲(たた)イテ釣鉤(てうこう)ト作(な)ス
多病須(もち)フル所惟ダ薬物
微躯此ノ外ニ更ラニ何ヲカ求メン

[注]

長夏:日の長い夏
事事:何事につけても
幽ナリ:落ち着いている
梁 :家の棟をささえる大きな横木
碁局:碁盤
釣鉤:つり針
微躯:とるにたらぬこの身

(伊藤)
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第39話(その1) 名人・碁所の成り立ち

名人や碁所はいつ頃、どういう経緯によって誕生したのでしょ
うか。明確な記録が残っておりませんが、どうも簡単ないきさ
つではなさそうです。

江戸期における棋士の究極の目標である「名人」や「碁所」の
地位に登るためには、まず棋力が抜群であることは言うまでも
ありませんが、その地位に至るには次のいずれかの方式によら
なければなりませんでした。
 @ (江戸幕府の)官命による 
 A 禅譲による 
 B 四家元の共同推薦による 
 C 争碁の結果により決定する
初代の名人・碁所とされる算砂については、いずれの方式かは
明確でなく、一説に「秀吉主催の全国大会の優勝者だった」か
らというのが根拠らしいのですが、秀吉から授かった「朱印状」
の現物が残っておらず、明確な経緯は不明です。制度や基準が
整備されたのは、道策の時代からでした。ABCについても幕
府の承認を受けていたのでしょう。
とにかくも、算砂は三人の絶対的な権力者の後ろ盾だけでも十
分に資格がありそうですし、"天下公認"というべきでしょう。
中村道碩は算砂から秀吉の「朱印状」を受け継ぐ形の禅譲とい
われ、安井算知の場合は幕府の裁量に基づく名人就位でした。
この幕府の決定にたいして三世本因坊道悦が異議を申し立て、
「遠島覚悟の争碁」を申し入れたのは有名な話です。
四世道策の場合は三家元からの異論もなく、すんなり決定して
います。道策の弟子だった井上因碩(道節)は宝永五年(1708)に
名人となり、道策の「跡目の道知をたのむ。ただし、碁所には
ならないでほしい」という遺言にそむいて二年後に碁所就位し
ています。(つづく)

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     ネット通信教授便り(第75号)  2008.12.10 発行
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<サイコロ>

サイコロは1から6までの6個の数字の中から1個の数字を一瞬の
うちに決めることができるので、順番などを決める場合に愛用され
てきた。そこで、問題。

「1個のサイコロを6回続けて振って、そのうち3回だけ奇数が
 出る確率はいくらか。」

<ヒント>
サイコロの6つの数字のうち、奇数は3個、偶数も3個ある。
だから、サイコロを1回だけ振って奇数がでる確率は1/2である。
2回目以降も同じことがいえる。

<解答>
1回やって奇数が出る確率が1/2なのだから、6回やればその
うちの半分だけ、すなわち3回だけ奇数が出ることになろう。
だから答えは1/2である。

<検討>
上の解答は、結論からいうと誤りであるということだけを指摘して
おこう。本当の答えは、各自、自分の頭で考えてください。
どうしても答えがわからないときは、事務局までご一報を!

(伊藤)
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第38話−本因坊道策の偉業(その2)

次いで、現代碁では当然の「手割り理論」ですが、道策が初めて導
入した手法といわれます。また、近代碁に通じる感覚、打法もすで
に開拓、実践しておりました。
さらに、現代用いられている「段位制」は道策の時代から採用され
たといいます。九段(名人)・八段(準名人)・七段(上手)までの呼称
(カッコ内)に引きつづき、六段以下初段までを「上手に対して□子」
という格付けを実施しました(点数制による昇段システムは第二次
大戦後の制定ですが、江戸時代は碁所が昇入段の決定権を握ってい
ました)。
道策のもう一つの功績として「優秀な弟子を養成して碁のレベルを
飛躍的に引き上げ、層を厚くしたこと」(中山典之六段)といいます。
特に小川道的・桑原道節・佐山策元・星合八碩・熊谷本碩の五人を
称して「坊門の五弟子」といいました。道節以外はいずれも夭折し
ていますが、彼らがもっと長いきして活躍しておれば、その後の囲
碁界の歴史は大きく変わっていたということです。
一説に、道策は「門下三千人」を擁していたといわれるほど、門人
が多いことでも有名。俳諧師の雛屋立甫や大名の牧野備後守の譜が
残っています。備後守は五段といわれ、現代のようにプロとアマの
区別のない時代の五段ですから歴代大名中で実力ナンバーワン。
彼は綱吉将軍の御側用人でその引きもあったのでしょうか、道策は
元禄一、二年の二回、江戸城の猿楽や観能に招かれるなど、囲碁界
のステータスをグレードアップすることに貢献しました。

(本因坊道策(遺譜)の成績内容 : 平成版『道策全集』より

	御城碁以外    御城碁     計
--------------------------------------------------
勝 ち 計 89局   計12局   101勝
	白番62局	白番9局	
	黒番27局	黒番3局
	
負 け	  41局	  2局	43敗	
    向2子以上	向2子局
	
持 碁	   6局		     6局

打 掛	   3局		     3局
-------------------------------------------------
 計	 139局	 14局   153局


※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     ネット通信教授便り(第74号)  2008.11.7 発行
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<くじびきは公平か>

順番や分配や賞金を決めるのにくじが使われることがしばしばある。
しかし、くじをひく順番によって当たりはずれが違ってこないのだろ
うか。もし、違ってくるのだとしたら、くじを引く人はその順番にこ
だわるはずであるが、世間ではあまりこだわっているようには見受け
られない。
しかし、たとえば10個の中に当たりくじが3個だけあるくじを10
人が一人ずつ順番に引く場合を考えてみよう。最初の人が当たりくじ
を引いてしまったら、残りの当たりくじは2個しかなく、これを残り
9人で引くことになる。とすれば、残りの人が当たりくじを引く確率
は下がってしまう。このように考えると、くじを引く順番によって当
たりはずれが影響を受けないとはいえないようにも思えてくる。

そこで問題。
n個のくじのなかに当たりくじがm個ある場合に、くじを引く順番に
よってくじが当たる確率は変わるのか変わらないのか。変わるとすれ
ばどのように変わるのか。変わらないとすれば、なぜ変わらないのか。
これを数学的に、すなわち誰もが納得する厳密さでもって証明せよ。

(伊藤)
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第38話−本因坊道策の偉業(その1)

「碁聖」の文字を辞書で引くと「傑出した囲碁の名手。棋聖」とあり
ます。道策は天下敵なしだっただけでなく、歴史的な事績を多く残し
ております。

日本の長い囲碁史の中で、「碁聖」を呼称される棋士が数人おります。
すなわち、奈良時代の寛蓮・江戸前期(元和・元禄)の本因坊道策・江
戸後期の本因坊丈和(天保)・本因坊跡目秀策の四人。加えて、呉清源
九段を「昭和の碁聖」と呼ぶ人もおります。そこで、改めて考えてみ
ると、これら碁聖の冠をつけられる棋士たちは、それぞれの時代にお
いて碁が強いばかりでなく、さらに何らかの形で画期的な事績を残し
ていることに気がつきます。
例えば、寛蓮は古代の礼法・戦術を著した『碁式』(現存していません
が、玄尊により要旨が伝えられています)を醍醐天皇に奉献しました。
四世本因坊道策は「手割り理論と近代碁の基礎確立」「段位制度の整
備」「優秀な弟子を育てた」「元禄期の隆盛を導いた」など。
十二世本因坊丈和は「多くの弟子を育てた」「天保期に第二次黄金時
代を招いた」こと。本因坊跡目秀策は近代布石の基礎を築く
「秀策流布石の完成」「御城碁19連勝」など。呉清源九段は「(木谷
実・安永一とともに)新布石法の創始」「昭和期前半の碁界を席巻」な
ど、いずれも日本囲碁界の歴史的なエポックにかかわる、枢要な事績
を残している棋士たち。
とりわけ、道策の生涯は輝かしい業績に彩られております。
まず、道策の遺譜は153局発掘されておりますが、そのうち黒番
三十局すべてに全勝、負けなしというのはすごいことです(平成版
『道策全集』より)。「御城碁19連勝」の秀策も偉大ですが、道策が
生涯において「黒番局負けなし」も、比類のない強さの証明でありま
す。
匹敵するライバルが存在しないという幸運(あるいは不幸?)ともいえ
ますが、遺譜に見えるかぎりでは、101勝43敗6持碁3打ち掛け、
勝率は 0.660 パーセント。道策にしては平凡な記録に見えますが、
123局が白番局でほとんどは二子局以上、いわゆる指導碁です。
(つづく)

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
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     ネット通信教授便り(第73号)  2008.10.1 発行
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<あみだくじ>

あみだくじとは、ある数の人にその人数分の番号を同一確率の偶然性
にもとづいて割り当てる方法の一つである。

じゃんけんでなどで勝った順に番号を割り当ててゆく方法もあるが、
あみだくじで決める方法は、人数が大勢いても簡単に結果が得られる
ことや、参加者は誰でも横線を自由に付け加えて結果に影響を与える
ことができることや、くじを見ただけでは結果がわからず、どのよう
な順位になるか楽しみであることから、じゃんけんなどよりも好まれ
る。

あみだくじは参加人数分の縦線を引き、隣り合う任意の二本の縦線に
横線を渡して作成する。横線は、どの位置に引いてもよいし、何個で
も好きなだけつけることができる。

このようにして作られたあみだくじは、上から縦線に沿ってなぞって
ゆき、横線に交われば横線に沿って進み、横線が縦線に交われば縦線
に沿って降りる。縦線の下端に行き着くまでこれを繰り返す。すべて
の縦線は、上端から出発してそれぞれどれかの縦線の下端に行き着く。
このようにして、すべての縦線の上端(たとえばある数のあみだくじ
参加者)を縦線の下端(たとえば賞品や品物をとる順位)に過不足な
く割り当てることができる。

このあみだくじについては前々か不思議に思っていることがある。
それは、なぜ、縦線の上端(参加者)から出発したくじの経路は必ず
それぞれ異なる縦線の下端(順位)に行き着き、それがダブって複数
の参加者が同じ順位に割り当てられたり、人が割り当てられない空の
順位ができたりしないのかといことである。そこで問題。

<設問>
あみだくじ参加者は、最下位が参加者数に等しい順位内に過不足なく
必ず1対1で割り当てられることを証明せよ。(重複順位や空順位は
生じないことを証明せよ)(伊藤)
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  <対局力向上 特訓コース> http://igoclub.com/Tensak/Tokkun.html

この特訓コースは、ネットで指導碁を打ちながら先生が音声で指導する
システムを採用しています。指摘された悪い手についてはその場で先生
から正しい打ち方を指導してもらうことができます。その効果は絶大で
あり、本当の実力(=対局力)をつけることができます。そのため、受講
された皆様から大好評を博しております。 

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第37話−その2 徳川家康の"囲碁戦略"(続き)

ところで、家康がなぜ囲碁・将棋の催しを数多く催したのか
について、不審に思う人がいるかもわかりません。
ただの囲碁好きなら、好敵手と烏鷺を闘わせていれば満足の
はずですから。
碁敵同士の対局はもちろんのこと、専門家同士の勝負に周囲
の見物が賭物を懸けたりしたようです。なお、目的はそれだ
けではありません。家康が自らの力や財力を周囲に知らしめ
ることのほか、人心の掌握につとめることに役立て、さらに、
お互いの親睦を深めたり情報の交換にはげんだものでしょう。
階級からいえば下層の出である棋士たちから、諸侯や地方の
情報を収集することも目的の一つだったと考えられます。
『遊芸師の誕生』の著者、増川宏一はつぎのようにいってお
ります。
「碁会や将棋会は、碁を打ったり将棋を指すことが目的では
なかったのかもしれない。家康が主催する碁会・将棋会は、
京都やその周辺の情報を蒐集するための恰好な口実であった
かもしれない」
私に言わせれば、家康にはもっと深い思慮があったと思いま
す。囲碁を通じて交流を深めた武将や豪商はたくさんいまし
た。たとえば、織田信雄(信長の嫡男)・浅野長政・伊達正宗
・細川幽斎・本多政武・広野了屯・藤田勘衛門尉・古田織部
など多士済々。いずれも歴史的にも重要な立場の人物ばかり。
当時の日記類にしるされた囲碁事情からの抜き書きですが、
記録に現れない家康の囲碁相手は、さらに大勢いたことでしょ
う。
家康には折に触れて浅野弾正少弼長政と碁を囲み、長政の大
人気ない言動をみるにつけても、あえて咎め立てをすること
がなかったといいます。ある時、算砂が家康への暗黙の"助言"
をしたことに対して、長政が刀の柄に手をかけ怒り狂ったと
いうエピソードもあります。
浅野藩の『浅野考譜』によれば、長政が家康や秀忠とたびた
び烏鷺を囲むのは「御密々に天下御政談御相談在」というこ
とですが、いささか苦しい弁明に聞こえます。
伊達政宗は江戸上屋敷に家康を招き、算砂・利玄・(中村)道碩
・大橋宗桂(将棋)らを呼んで宴会を催しましたが、折から猛烈
な砂ぼこりが舞いこみ家康はほうほうの態で江戸城に逃げ帰っ
たといいます(『当代記』など)。
家康の囲碁好きの話題については数多くの史、資料が発掘され
ていますが、囲碁を楽しむためだけではなく、いわゆる「手談」
(囲碁の別称)を通じて人物を観察し、また、気心を通わせた相
手を自分のペースに引き込むという、深謀遠慮があったといっ
ても見当ちがいとはいえないと思います。家康の碁敵たちは、
関が原の合戦で獅子奮迅の働きをしております。
天下分け目の闘いにかんして「およそ此度のごとき大戦は囲碁
と同じ様のものなれ。枢要の石だにとり得ば、相手の方に何ば
かり目を持ち石ありとも・・・」(『明良洪範』)
家康と囲碁にかんする、おもしろい話はさらに別に1書にまと
めたいと思います。

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     ネット通信教授便り(第72号)  2008.9.8 発行
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<投了の時期>
 福田首相が突然辞意を表明した。前の安部首相に引き続き、いかにも
唐突な辞意表明であり、1ヶ月前に内閣を改造し、自ら"安心実現内閣"
などと名付けてやる気を見せていたのはいったい何だったのだろう。
同じやめるにしても今回のは本当に恥ずかしいやめ方だといわざるを得
ない。
 一般に、始めるタイミングよりもやめるタイミングの方が格段にむつ
かしいのは事実である。定年退職や倒産や病気といった外的な要因が働
く場合はやめるタイミングをみはからうといったことはないだろうが、
自己決定権を持っている場合のタイミングの取り方は本当にむつかしい。
戦争のやめ方、喧嘩のやめ方、ギャンブルのやめ方などやめ方のむつか
しい事例はいろいろあるが、囲碁の投了もまたしかりである。
 投了すべき時期を見きわめ、そのタイミングを失しないように投了す
るのはかなりむつかしい。投了が遅すぎる場合はほとんどであるが、中
には早すぎて相手が腑に落ちない思いをすることもある。投了は自分一
人が納得すればそれでいいというものでもあるまい。やはり相手も納得
するような投了の仕方をすべきであろう。投げ場を求めて少しムリ筋だ
が一戦を交えた後に投了というのは許されるであろう。いや、むしろそ
の方がお互いにすっきりしていいのかも知れない。
 それにしても、今回の福田首相の投了の仕方はどうしても納得がゆか
ない。(伊藤)
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第37話−その1 徳川家康の"囲碁戦略"

こよなく囲碁を愛した将軍の一人、徳川家康は囲碁によって
"天下取り"を果たした、と私は信じております。数多くの史、
資料が証明していると思われるからです。

豊臣家を倒して天下人となった徳川家康(1542〜1616)。いつ
だれから、どこで囲碁の手ほどきを受けたかについては判然
としておりませんが、家康本人から秀忠夫人にあてた手紙に
以下の記述があります。
「我等中年の頃迄棋を一向に不存、人にうつさえ無用の物、
気詰まりにて役に立たぬ事とばかり存じ、人の好み候は虚け
者に存候所、近年覚え候へば雨降り徒然の慰にもなり先達て
虚気者と存候者を相手に致候・・・」(慶長一七年・1612・
2月25日)
江戸時代の平均寿命は五〇歳にはるか満たなかったでしょう
から、家康の手紙の文面から察すると、家康は三〇歳前後に
"囲碁入門"したものと思われます。
ただし、家康は右の手紙で「近年覚え候」といっております
が、この手紙を出した時は71歳。文面には大きな矛盾が見
られます。
手ほどきを受けた師については触れられていません。のちに
初代本因坊算砂にハンデ5子で師事したと伝えられています
が、私は三河・新城城の城主である奥平九八郎信昌が家康の
師匠と思っています。
さて、囲碁にかんれんして家康の名が初めて登場するのは、
天正15年(1587)閏11月13日の『当代記』であります
(従来の天正10年6月2日、本能寺の変当日の朝、堺のある
寺の和尚と対局中に信長討ち死にの報を聞いたとする『爛柯
堂棋話』の伝承は、私に言わせれば、これも裏付けのない作
り話だったと思っています)。
「碁打の本因坊(算砂)新城江下、亭主(奥平)九八郎信昌、此
夏於京都為碁の弟子の間如此、即令同心駿河江被下、家康公
囲碁を数寄給間、日夜有碁、翌春令帰京、(略)翌年有囲碁勝
負、自余の上手に先強く、本因坊を天下一し給、」(『当代
記』)
新築なった新城城の城主・奥平信昌に算砂が招かれた際、家
康と面接したものと思われます。そして、一同が日夜を問わ
ず碁を囲んだことがうかがえます。この時、家康は算砂から
初めての手ほどきを受けたと見るよりも、それ以前に信昌か
ら指導を受けていたと解すべきでしょう。一日中囲碁の熱中
するほど、家康はかなりの棋力に達していたと思われます。
翌天正16年、家康は秀吉にならって"全国大会"を開催して
います。やはり、算砂が他の棋士よりハンデが先強いことが
実証され、改めて天下一の碁打ちと認定されております。

征夷大将軍を秀忠にゆずり、主に駿河城を居城にして"囲碁三
昧"の日々を送っていた家康、時に「碁打ち共を召して囲棊せ
しめらる」(『徳川実紀』)ことがしばしばでした。
文禄年間(1592〜1596)以降、家康は伏見城や京都周辺の豪商
宅などに、公家・武将・豪商・僧侶などのほか本因坊算砂は
じめ碁打ち・将棋指しら芸能に熟達した者どもを召し寄せ、
「終日、碁や将棋に興ずること」がたびたびありました。
『言経卿記』は公家の山科言経(1543〜1611)の日記で、天正
4年から慶長13年まで31年間にわたる記録の中、じつに
300余か所にわたり囲碁・将棋にかんする記述が見られま
す。特に文禄3、4年の2年間に限っても、家康主催による
囲碁の催しが38回という記録があります。記録に残されて
いない、その他の碁会もあったことでしょう。
『言経卿記』には従来見過ごされてきた内容が多く含まれ、
囲碁史を書き替える貴重な史料というべきです。


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     ネット通信教授便り(第71号)  2008.8.1 発行
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<囲碁中毒>

最近、ゲーム中毒の弊害が問題になっているが、囲碁は大丈夫なの
だろうか。囲碁もゲームの一種であり、昔から"碁吉"という言葉も
あるくらいだから、中毒になる可能性は十分あると思われる。
ウェブでは「囲碁廃人」になった事例の報告を求めているサイトも
見られたが、幸い、そのような報告はまだないようである。
囲碁は、他のゲームを異なり勝敗を左右するのはもっぱら当事者個
人の技量だけで、偶然の要素が排除されているため、パチンコなど
のような偶然に期待してますます深みにはまってゆくということは
考えられない。しかし、囲碁倶楽部の通信対局をみていると、毎日、
5局も10局も対局し続ける人がかなり見受けられる。このような
事実からも、また私個人が毎日数局やらないとなんだか落ち着かな
いという症状からも、囲碁といえども中毒性があることは否定でき
ないであろう。
囲碁を末長く楽しむためには、囲碁中毒にならないように本人も家
族も気をつけなければならない。

以下に掲げるゲーム中毒を判断する方法は、朝鮮日報/朝鮮日報
日本語版に掲載されていたものである。次の10個の質問のうち
当てはまるものが7つ以上あれば、中毒の危険性が高いといえる。

 @最初考えていたよりも長時間、ゲームにアクセスことがある 

 Aゲームが原因で、仕事や家庭生活をおろそかにしたことがある

 B家族関係よりゲームに興味がある 

 Cオフラインよりオンライン上で友だちをつくる方だ 

 Dゲームをするために、やるべきことを後回しにする 

 E徹夜でゲームをしたことがある 

 Fゲームをしないときも、ゲームのことを考える

 Gゲームの最中に邪魔されたため、大声を出したり怒ったり
  邪険な態度をとったりしたことがある 

 Hゲーム時間を減らそうとして、失敗したことがある 

 I普通は憂鬱なときが多いが、ゲームしているときは楽しく
  気分がいい 

どうでしょう、この質問のうち、思い当たるものが7つ以上あり
ましたか?あなたは既に囲碁中毒に陥っているかもしれませんよ!

(伊藤)
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第36話 「本能寺三コウ局」は作り話!

あたかも既成事実であるかのように、諸書には「本能寺三コウ局」
の碁譜が掲載されていますが、残念ながら、これが事実というわ
けにはまいりません。

結論を先に申しますと、天正10年(1582)6月1日夜、京都・本
能寺で打たれたとする「信長公御前の三コウ局」は偽作で、現実
には存在しなかったと思います。
理由として、次の四つを掲げます。

@『信長公記』などの正史には、当日、算砂と利玄(林利玄)が招
かれたという記述が見当たらない。ましてや、信長御前碁が打た
れたという記録も認められない。
<『言経卿記』には当夜の招待客のくわしい名簿があるが、棋士
名は見当たらない。ただし、「其外僧中、地下少々有之」と書か
れている中に、算砂と利玄が含まれていたのかは微妙なところ。
この日記の主人公である山科言経が当時、"囲碁に対する認識"が、
まだ稀薄だったという点は考慮される>

A従来から伝えられてきた「三コウ局」の碁譜がこの日、本能寺
で打たれたという正確な根拠ないし裏付けが未だに示されていな
い。

B伝えられる「三コウ局」の碁譜の初見は、林元美の『古今名人 
碁經連珠』(文化5年・1808刊)であるが、本譜には「天正年中」
とあるのみで、対局年月と対局場の記載がない。
<勝敗にかんしては算砂の「中押勝」とあり(137頁参照)、また、
この碁譜の進行状況から「三コウ」に導かれる要素は認められな
い>

C伝承の碁譜には、算砂の対局相手として「鹿監利玄」と明記さ
れているが、こういう名前の棋士は実在していなかった。
<鹿監(柏尾宗具)と利玄(利玄坊・林利玄)は、まったくの別人で
ある>

以上の理由によって「本能寺三コウ局」は"あり得ない話"になり
ます。すなわち、林元美は故意か錯覚のいずれかによって、二つ
の重大な過ちを犯していました。
その一、ありもしない「本能寺三コウ局」を作りあげたこと。
その二、「鹿監利玄」という名の棋士を実在したかのように、世
に広めてしまったこと。

その二について、以下に補足します。
伝聞によれば、天正16年(1588)閏5月18日、秀吉が二回目の
"全国囲碁大会"を開催した際、優勝した算砂に「朱印状」を与え
たといいます。従来、伝えられてきた文面は次のとおりでした
(『坐隠談叢』より)。
「此度御前に於て鹿塩利賢、樹斎、山内庄林を召し出され、打た
され候処、本因坊盤数之れに勝ち候に就ては、右の者のども向後
定先たるべきの由仰せ付け候条・・・・」
右の文中「鹿塩利賢」および「山内庄林」は、それぞれ中間に
「、」の句読点を入れて四人の棋士名とするべきところなのに、
後世のだれかが誤写し脱落したものでしょう。ところが、林元美
はこれを誤読曲解した結果、大きな間違いを犯してしまいました。
誤読、誤解の段階で済ませておけばよいものを、ありもしない
「鹿塩利賢」という人物を誕生させて「本能寺三コウ局」の一方
の対局者に仕立て上げ、『爛柯堂棋話』に掲載してしまったもの
ですから、後世の諸書に引用され広まってしまいました。
別の写本『伝言録』には、きちんと「鹿塩、利玄、樹斎、山内、
庄林」と書き分けてあり、『当代記』や「千利休囲碁の文」にも
鹿塩と利賢は別人と記載されていることを付け加えます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     ネット通信教授便り(第70号)  2008.6.3 発行
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<悪い結果に偶然はない>

 元広島カープの名三塁手で現在はプロ野球解説者の衣笠祥雄氏が
新聞紙上で次のように述べているのが目にとまった。
「若い頃、多くの先輩に教えられた言葉がある。『偶然良い結果は
出ることはあるが、悪い結果には偶然はない。考えれば必ず原因が
見つかる。』」
 これは4月の巨人の戦いぶりに関しての彼のコメントの一節であ
る。プロ野球のように大勢の人が関わり、勝敗を左右する要因が複
雑に絡み合っているゲームでこのことがあてはまるとすれば、囲碁
のような個人競技ではなおさら「悪い結果に偶然はない」といえる
だろう。要するに、相手より悪手を数多く打ったことが敗因であり、
それは偶然ではなく自分の実力のなせる技なのである。
 負けた碁には必ずその原因がある。それを認識し、自覚すること
から進歩が始まる。それなのに、我々は負けると次回は勝ちたいと
いう意識ばかりが先にたって、負けた碁を反省することなく、次の
碁を打ち始めることが多い。とくに通信対局の場合にこの傾向が多
く見られるようである。
 通信対局では、自分の打ち碁の棋譜を保存してあとから一手づつ
みてゆくことが簡単にできる。したがって、負けた場合はその敗因
を探るため必ず棋譜を一手づつ再現して、反省の材料にするように
心がけたいとは思うだが、いざ実行に移そうとするとこれがまた非
常にむつかしい。この問題を突き詰めていくと、碁を打つのは楽し
みのためなのか、上達するためなのかという命題とも突き当たるの
である。(伊藤)

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第35話 本因坊算砂の登場

本因坊算砂は信長・秀吉・家康の三代に仕えたといわれ、また近世
の囲碁興隆の基礎を築き、後世の繁栄を導くなど、大きな足跡をの
こしております。

初代本因坊算砂(法名日海、1559〜1623)は永禄二年五月、京都長者
町において父加納與祐の子として生まれました。八歳の時、のちの
寂光寺の開祖となる日淵の門をくぐり、ほどなく囲碁と将棋の技量
が群を抜く強さを発揮したとされます。
これは伝承の受け売りですが、日淵が天正六年(1578)に京都近衛町
に空中山寂光寺を開基した折、上洛した信長が日海(十九歳)を引見
したとされています。その時、信長は日海の妙技に感嘆して「その
ほうは真の名人の技である」とたたえたといい、これが「名人」の
始まりといいますが、囲碁界特有の誇張した表現ではないかと思わ
れます。
さて、算砂の囲碁の師は堺出身の仙也としか分かっていません。
算砂のライバルは利玄(利賢とも)といい、堺出身で算砂の六歳年下。
一説に本能寺の僧で利玄坊と書かれている場合もあり、のちの林家
の元祖とされています。二人は生涯にわたり374局も打ち、算砂
は「39局勝ち越した」と自身の日記に書き残していたといいます。
なお、本因坊という名称は、寂光寺の中にあった塔頭の一つ「本因
坊」に日海が居住していたことにはじまります。
現在では本因坊算砂といっていますが、江戸から昭和初期頃までは
「ほんにんぼうさんしゃ」と呼んでいたようです。
若かりし時、信長に「新発意(しんぼっち)、新発意」といって可愛
がられたという話は「?」がつきます。
算砂が信長・秀吉・家康の三代に仕えたといいましたが、実際に三
天下人と直接対局(指導)したという記録は見当たりません。
ましてや、ハンデを五子置かせたという伝承も確証があるわけでは
ありませんが、そうでなかったという確証もないわけです。いわば、
たかが遊びの一種ですから、よほどの幸運(例えば、天下人の碁譜が
書き残されていたというような)に恵まれないかぎり、きちんと記録
にのこる気づかいはありません。
さて、算砂の名声は広く聞こえていたものと思いますが、実力を全
国的に認知させたのは天正一六年(1588)、秀吉が主催した全国囲碁
大会(御前試合)で算砂が優勝を果たしたことによります。この時、
授けられた秀吉の「朱印状」によって、鹿塩(柏尾宗具)・利賢(利玄)
・樹斎・山内(是安)・庄林を定先の手合いに打ち込み、加えて「毎
年米二十石、二十人扶持」を与えられましたが、これによって囲碁
界ナンバーワンの地位に押し上げられたことになります。算砂が二
十九歳の時でした。慶長十七年(1612)にいたり、家康から「五十石
五人扶持」を与えられていますが、その他にも終身三〇〇石を賜っ
たという話も伝わっています。
家康と算砂の接点は天正十五年といいましたが、その後は各地でひ
んぱんに同席しております。一例として『言経卿記』(文禄三年・
1594・5月11日の抜粋)から。
「江戸亜相(広野)了頓へ御出之間、可参由兼日相崔之間罷向了、
朝・夕種々丁寧也、戌刻二帰宅了。人数、亜相・予(言経)・藤田勘
右衛門尉・古田織部・本胤(因)坊、碁打、其他七八人有之、乃晩景
諷有之、終日碁・将棊也」
算砂はこうした会合にほとんど出席して碁を打ち、座を盛り上げた
ものと思われます。
元和年間(1615〜1624)算砂は韓人の李灼史と国際対局をし、三子の
ハンデを置かせて勝ったとされ、国に帰った李から送られてきた扁
額「乾坤窟」が、寂光寺(京都市左京区任王門通り東大路西入ル北
門前町)に掲げられております。京都に立ち寄ったとき、まず寂光
寺におもむき、算砂の石碑、肖像とともに扁額を見学されてはいか
がでしょうか(要事前連絡)。

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<ウィリアムテル打法>

 七年ほど前から早朝テニスをやっているが、そのメンバーの中
で一番の上手は教え魔である。こちらから頼みもしないのに彼が
僕に教えてくれたことが二つある。そのひとつは、「テニスは、
ステップ・テイクバック・スウィングの三段階を踏んで打て」と
いうものだった。
 もうひとつは「いつも林檎を頭に載せていると思って打て」と
いうものだった。自分はこの打ち方をひそかに「ウィリアムテル
打法」となずけているのであるが、これを心がけるようになって
から心なしか成績が上がったような気がする。
 それでは、なぜ「ウィリアムテル打法」を心がけるといい結果
が生じるのだろうか。それは、テニスでは球を打つ瞬間の姿勢を
正しく保つことが大切であり、そのためにはそれ以前から常に姿
勢を正しく運ぶ必要があるのだが、いつも林檎を頭に載せている
と思って打てば自然にそれが実現できるということなのだろう。
 さて、これを同じ打つ競技である囲碁にも応用できないものだ
ろうか。テニスボールと碁石はまったく違うものであり、これを
むりやりこじつけてもはじまらないであろうという意見もあろう。
しかし、テニスの「ウィリアムテル打法」が教える姿勢の保ち方、
体の動き方を、心の保ち方、状況の見きわめ方、手順の運び方に
置き換えれば、囲碁についてもこの教えは十分通用するのではな
いだろうか。これからはテニスに限らず囲碁の場合も、常に林檎
が頭に載っているつもりで打って見ようと思っている。(伊藤)

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第34話 豊臣秀吉の棋力は?

囲碁界の言い伝えによれば、信長・秀吉・家康の天下人は、それ
ぞれ本因坊算砂に五子の手合いだったということですが、真実の
ほどはどうなのでしょうか。

三人の天下人に囲碁で仕えたといわれる算砂は、囲碁ばかりでは
なく、人間的にも魅力的な人物だったと思われます。絶大な権力
をもち、また、個性の異なる将軍に仕えることは並みの神経では
つとまらないはずですから。
三天下人そろって算砂に"五子"のハンデという通説の根拠はあり
ませんが、すぐれて政治的な配慮によって算砂が三人の棋力に甲
乙をつけず、あえて平等な手合いで臨んだことは自然の理でしょ
う。通説は通説として、現状においては三人の棋力を判断する材
料がありません。
仮に五子の手合いであれば、現在ではアマの四、五段に匹敵する
でしょう。二、三子であれば強すぎるといわれますし、七、八子
であれば弱すぎると思われます。したがって、その中間の五子で
あれば、"いい線"だった、ということはできるでしょう。
信長が碁の対局をしたという記録は見当たりませんが、秀吉が病
没する11か月前(慶長二年・1597年9月24日)、柏尾宗具
と対局したことが知られます。
「牛刻御膳。内府(家康)・拙(日録の筆者)他。其外七八人御相伴
也。本印(因)坊與(と)利玄囲棊。本印先。利玄九かつ。太閤(秀吉)
與宗具棊」(『鹿苑日録』)
なお、『老人雑話』という江戸時代の書物に、次のような記述が
ありました。
「太閤の諸大名出仕すれば多く留(とどめ)て響(きょう)す。或は
碁、象戯、或は乱舞、好に随て遊ぶ、太閤常に云、能き夢を見す
る哉と、口癖に宣ふとぞ」
秀吉もやはり大勢の大名たちを招いて、囲碁・将棋・舞踊など好
みにまかせて遊ばせる。
その様子を眺めながら思わず口をついてでた言葉が「能き夢を見
する哉」だったのでしょう。実感のこもった趣がよく出ています。
秀吉と家康が碁を囲んだという古い碁盤が二面、現存しています。
一面は京都の大徳寺竜源院に展示されており、もう一面は水戸市
の徳川博物館に所蔵されております。両将による盤上の"天下取り"
は、さぞかし見物だったことでしょう。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第68号)  2008.4.4 発行
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<白色信仰ーその1>

 日本人はどうしてこんなにも白い色が好きなのだろうか。白い紙に
白い割り箸。白いガードレールに白いガードフェンスなどなど。

 まず、白い紙について。
 製紙業界全体が再生紙の古紙配合率を偽装していたことが今年1月
に発覚し、大きな問題となったが、その偽装理由として、古紙の配合
率と品質(紙の白さ)の両立が技術的に難しいことをあげていた。しか
し、3月25日付の新聞によれば、業界大手の大王製紙が「コピー用
紙の白さを70%から60%に下げ、使う古紙の種類も変えることで
配合率100%が達成可能になった」という発表をしたとのことであ
る。これまでの説明が変わった理由については、「これまで紙の白さ
にこだわりすぎていた」と述べたそうである。結局、今回の騒動も何
のことはない、消費者自体の意識に問題があったということになろう。
すなわち、消費者が紙の白さというものにこんなにもこだわらなけれ
ば、今回の問題も生じなかったはずである。
 同じことはトイレットペーパーにもいえる。日本の消費者はあまり
にも白さにこだわりすぎて、何が賢い選択なのかを見誤っているので
はなかろうか。それにつけても40年も前の初めての欧州出張の際、
ハンブルク空港で見た薄茶色のトイレットペーパーに畏敬の念を覚え
たことが今でも懐かしく思い出される。

 次に、割り箸についても同じことが言える。先日のテレビで放送さ
れていたのだが、割りばしの97%は中国から輸入され、そのうちの
70%は竹製という話である。そして、日本の消費者向けには、漂白
して見栄えを良くしたものを輸出し、中国の国内向けには漂泊してい
ないものを出荷しているということである。その漂白剤として亜硫酸
ナトリウムNAHSO3などが使われているようであるが、この漂白剤自体
の除去が心もとないため、我々日本人は割り箸からせっせと漂白剤を
摂取しているということなのだそうだ。十分ありうる話である。この
ような話を聞くと、見た目ばかりを気にして実質や実体には関心を払
おうとしない日本の消費者がバカに見えてくる。

 紙にしろ箸にしろ、白さにこだわることはそろそろやめにしてはど
うだろうか。

囲碁でも異常に白にこだわる人を見かけるが、困ったものである。
(伊藤)

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第33話 織田信長は碁を打ったか

織田信長が"碁を打った"という記録は見当たらず、信長の一代記
をつづった『信長公記』(太田牛一)やL・フロイスの『日本史』の
どこにも記述がありません。

著名な囲碁史家の林裕はこう言っています(『本因坊算悦・安井
算哲・本因坊道悦』日本囲碁大系)。
「かねてわたしは信長が碁を打ったこと自体に疑問符をつけ、算
砂(日海)を寵愛したなどというのは作り話ではないかと疑ってき
た。(略)信長と碁、日海との関係については、まだまだ研究の余
地があるように思う」
信長にかんする正式な記録などには「信長と囲碁」の"接点"は認
められませんが、囲碁界においては次のような伝聞があったこと
を念のため掲げておきましょう。
「本因坊(算砂)に及ぶ碁将棊なし、信長之を聞き及び呼出し碁を
翫(もてあそ)ぶ。信長本能寺逗留の節、本因坊も本能寺江参り夜
詰す。
夜九ツ時過夜詰を引き、本能寺を出、三、四町過しと覚しき時分、
物騒敷聲聞ゆ、明智光秀本能寺を囲む。信長生害なり」
これは『本因坊伝記』からの引用ですが、別の伝承では「信長が
算砂(まだ日海といっておりました)と初めて会ったのは天正六年
頃」だったといいます。とすれば、算砂はまだ十九歳ということ
になります。
算砂の出自である京都の寂光時に残る『本山寂光時誌』に次の文
言があります。
「織田信長、上人(日海、本因坊算砂)の棋道に於ける第一人者た
るをお慕ひ其手段の巧妙なる真に入神の技倆と嘆称し、呼ぶに名
人を似てす。
斯界の名手を名人と称すること是より始まりしとぞ」
この寺誌は昭和12年(1937、三〇代日心)の記述ですが、その内容
の真実性は何とも判断いたしかねます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第67号)  2008.3.5 発行
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<映画「呉清源」>
最近、「呉清源」という映画を銀座の映画館へいってみてきた。
いやしくも囲碁の仕事に携わる者として、この映画はどうしても
見ておきたいと思ったからである。
「ヘレンケラー物語」「グレンミラー物語」など、これまでいろ
いろな偉人や有名人の生涯を映画化した作品は見てきたが、囲碁
をテーマとした伝記映画は初めてである。いったい、どんな作り
なのか、どのようにすれば囲碁の映画化が可能なのだろうかとい
う興味もあって、この映画を見に出かけたのである。
この映画は、呉清源という囲碁の天才の生涯をできるかぎり忠実
に描写しようという姿勢でつくられた作品であるが、彼の打った
碁の中身や彼のとった行動の動機となる心理の動きなどは取り上
げられていない。したがって、彼が新布石理論をあみだすに際し
てどのように苦闘したのか、あるいは、璽宇教という新興宗教に
帰依した動機や心境などは映画からはわからない。やはりそれは
映画というものの限界なのかもしれない。
ただし全編にわたって流れる映画の基調(トーン)からは、彼が生
涯にわたってひたすら求道者の道を歩んだことは十分伝わってく
る。
この映画をみて個人的に勇気づけられたことがひとつある。それ
は、富士見高原で結核の療養をしているシーンを見て、彼も若い
頃結核になったことを知ったからである。結核で転地療養した経
験があるにもかかわらず、彼は90歳を超えてなお健在であると
いう事実は、子供のころ結核にかかり、一年間学校を休んだこと
のある自分に勇気と目標を与えてくれる。
結核が治っても加齢にともなう免疫力の低下により高齢者は結核
を再発して死にいたる危険性が高いという気がかりを彼は払しょ
くしてくれているからである。(伊藤)
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第32話 弁慶愛用盤が清水寺(兵庫)に

衣川の戦で仁王立ちになって壮絶な死を遂げた、武蔵坊弁慶と
囲碁の取り合わせについて驚かれる向きは多いと思いますが、
幼少時の愛用盤が発見されています。
弁慶が幼少の頃修業をした御嶽山清水寺(兵庫県加東郡社町)に、
弁慶が愛用した碁盤・碁石・碁笥が現存しています。
およそ800年以前の年代物ですから、碁盤と碁笥は虫に食われて
ボロボロ。碁石は残り少なくなっていました。黒石は自然石、
白石は薄い蛤貝の殻をやや加工したものでした。(ちなみに、
著者が館長をつとめる「囲碁ミュージアム」<神奈川県三浦市
のマホロバ・マインズ三浦別館内>に清水寺の特別の好意で白・
黒各1個および良寛和尚が使用した白の碁石も常時展示していま
す)。
主君である源義経に従って闘いに明け暮れた弁慶でしたが、仲
間たちが碁を囲むのを見ている時に"助言"するエピソードが伝
えられています(『葆光秘録』)。
駿河次郎に助言した弁慶が、相手の亀井六郎重清に頬を叩かれ
ました。すると、弁慶は傍らの伊勢三郎能盛の頬を打つ。伊勢
が「きちがい坊主何をする」といかれば、弁慶は「これが回し
打ちなり」と言い逃れをしました(回し打ちとは何人かで代わり
番に打つ連碁のこと)。
弁慶は無骨なイメージとは異なり飄逸かつ繊細な一面があった
らしく、江戸中期の経世家・林子平は、「弁慶のみ、時々狂言
(奇妙な発言)を発し、人を笑わせ、また若輩なる(青くさい)口
論を仕かけ、人気を引き立てなどして・・・・」といっており
ます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第66号)  2008.2.1 発行
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<地頭力と囲碁>

 ここでいう地頭とは「泣く子と地頭には勝てない」の「ジトウ」では
なく、「ジアタマ」と呼ぶ。この地頭の「地」は「地力に勝る」の「地」
と同じような意味で使われており、地頭力とはものごとを考えるための
基礎となる知的能力のことだそうである。
今話題の「地頭力を鍛える」(細谷功 著)という本によれば、地頭力は
問題解決に対する知的好奇心をベースとした論理的思考力と直感力によ
って働く次の三つの思考力から構成されているということである。

  @「結論から考える」仮説思考力
  A「全体から考える」フレームワーク思考力
  B「単純に考える」 抽象化思考力

 この三つの思考力さえ身についていれば、どんな問題にも正しく能率
的に対応でき、方向を誤ったり時間を浪費したりすることは格段に少な
くなるという。
 この本を読みながら、この地頭力はまさに囲碁の学習や上達において
必要とされる能力なのではないか、との思いに突き当たった。囲碁は、
ルールは単純ではあるが、複雑きわまりない局面の変化に対して一定時
間内に適切に対応することが常に要求されるゲームである。そのような
場面でこそ、この地頭力というのがものをいうのである。

 すなわち、@の仮説思考力は、囲碁においてはこの手を打ったらどう
いう展開になるかということを常に検証しながら打つ能力、いわゆる
「読む」力そのものである。

 Aの「全体から考える」能力は、布石段階はもとより、ヨセに至るま
での1手1手が全体に与える影響を予測する能力であり、囲碁では常に
この全局面への目配りが必要とされる。

 Bのものごとを「単純に考える」能力とは、余分なことを切り捨てて
本質的なことがらだけを取り出す能力であり、これを囲碁にあてはめる
ならば、いくら考えてもわからない複雑な局面において、なお納得のゆ
く結論を得るための知恵のようなものであろうと思われる。

 囲碁の世界においても、囲碁を学び、囲碁の達人になるためには、囲
碁に関するいろいろな知識と経験を身につける前に、まずこの地頭力を
鍛える必要があろう。

「地頭力を鍛える」という本ではこの地頭力を鍛えるツールとしてフェ
ルミ推定というものが紹介されている。いくら勉強しても囲碁がわから
ない人や、いくら学習と対局を繰り返してもいっこうに上達しない方は、
急がば廻れで、一度囲碁から離れて、この地頭力を鍛えなおされてはい
かがだろうか。(伊藤)
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第31話 戦国武将と囲碁物語

室町・鎌倉期の戦国時代から安土桃山期にかけて、武将たちの足元
にも"囲碁の波"がひたひたと押しよせ、武士たちのたしなみ、戦略
の具として広まりました。

中国では、古来より「囲碁は兵法の類なり」と信じられてきました
が、中世・近世の日本の武士階級の間でも「囲碁は戦略・戦術の具
なり」の風潮はしっかりと浸透していました。
中国の小説『三国志演義』などに見る、戦国武将と囲碁とのかかわ
りは枚拳にいとまがありませんが、日本の武将としては、「義家が
日本の囲碁史上に名前を伝えられる最初の武人」(棋道『中世囲碁
事情』渡部義通)ということになります。平安後期の武将・源義家
(八幡太郎、1039〜1106)は武勇にすぐれ、また和歌も巧みだったと
いいますが、囲碁にかんするエピソードをいくつか残しています。
源頼光(948〜1021)は大江山の酒呑童子征伐や土蜘蛛伝説で有名です
が、四天王が囲碁を打つ場面を取り入れた作品(謡曲・草子・歌舞伎
・浮世絵など)が数多く描かれております。
鎌倉幕府を開いた源頼朝(1147〜1199)にまつわる囲碁の物語があり
ます。若かりし時、平清盛によって伊豆に流されましたが、伊豆山
神社で碁を囲みながら"平氏討伐"の策を練ったという話が伝わって
いますし、弟の義経の臣下である佐藤四郎兵衛忠信が碁盤を武器代
わりとして義経の都落ちを助けた物語は江戸民衆の涙をしぼったと
いいます。
信州上田城の城主・真田昌幸(1547〜1611)は「囲碁から兵法を学ん
だ」武将。川中島の合戦では上田城から碁を打ちながら戦況を眺め
た話や関ヶ原戦でのエピソードなどがあります。

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     日本棋院通教便り(第65号)  2007.12.07 発行
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<食の安全と囲碁>
 最近、伊勢名物"赤福"をはじめとする一連の食品偽装問題が連日の
ように報道されている。賞味期限シールを張り替えたり、売れ残りの
商品を再び食材の一部として混入させて商品を製造したりして消費者
を欺く行為は厳しく糾弾されねばならない。しかし、その動機として
は、利益を上げるためには手段を選ばないという単なる儲け主義のほ
かに、まだ十分食べられるものを捨ててしまうのは忍びない、何とか
有効利用する手だてはないものかという、いわゆる"もったいない"精
神が現場において発露されたものであるという、経営者側の言い訳も
伝えられている。
 たしかに、この一連の問題では、消費者がだまされたという精神的
な被害は生じたかもしれないが、それを食したために食中毒になった
とか体調不良に陥ったとかいった具体的な被害は報告されていない。
ということは、これら一連の食品偽装事件における行為は、売れ残り
や廃棄物をできるだけ少なくしようとしたものであって、結果的には
二酸化炭素の排出量の低減に多少なりとも貢献しているのである。
このように考えれば、今回の事件もそれほど非難されることではなく、
大局的な立場からはむしろほめられることではないだろうかという
意見もある。
 しかし、このような考え方は、結果さえよければ手段はどうでもい
いという乱暴な議論である。食品の有効利用は、偽装表示や偽装混入
といった違法な手段ではなく、たとえば食品廃棄物のエコフード化と
か、売れ残りを極限にまで減らす徹底した数量管理といったまっとう
な手段で推し進めるべきではないだろうか。
ただし、賞味期限の切れた食品廃棄物をエコフード化して家畜の飼料
に再利用するというと、諸手をあげて賛成したくなるのであるが、こ
とはそう簡単ではない。 
エコフードすなわち食品廃棄物をリサイクルし、家畜に食べさせると
いうことは、食品添加物や汚染物質の圧縮を行っているのと同じで、
そのような家畜を食べた人の健康への影響も懸念されるという理由で、
食べ物に関してはリサイクルはやめた方がいいという意見もある。

 一方、同じ有効利用といっても、囲碁の場合は食べ物と違い、徹底
的に石の有効利用を図っても、エコフードのような難しい問題が生じ
ないだけ、ことは簡単である。ひたすら石の有効利用だけを念頭にお
いて打てばいいのだから。<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第30話 専業棋士の出現はいつから?

専業棋士とは現代でいうプロ棋士のこと。もっぱら囲碁を指導したり、
試合をして生計をたてる専門家のことですが、日本にいつ頃から出現
したのでしょうか。

常識的には江戸前期の本因坊算砂(1559〜1623)がプロ棋士第1号とみ
なされますが、じつはそれより八〇〇年以前から"専業棋士"が出現し
ていた徴候があります。
前に『万葉集』の中に「壇越」の名があることを記しましたし、遣唐
使の中に「碁師」が含まれていたことにも、すでに触れました。大宝
一年(701)第七回遣唐使の一員として唐に渡った僧・弁正の名が出て
いますが、皇太子時代の玄宗に指導したらしく、弁正の令名は唐にも
ひびいていたのでしょうか。玄宗だけに教えていたとは考えにくく、
周囲の高官たちにも指導していたことは十分に考えられます。
伴宿弥少勝雄(雄鰹魚)と伴宿弥須賀雄が仁明天皇の御前で対局したエ
ピソードがありますが、少勝雄も「?碁を善くするを以て、延暦聘唐
の日、使員に備ふ」として、延暦二三年(804)に最澄や空海らととも
に唐に派遣されています。
 「わが国"囲碁外交"の端緒として特筆大書さるべきあでる。(略)
  平安初頭にはすでに相当の『碁師』たちも育ち、技芸がようやく
  "国際水準"に近づこうとしていたことを示すもの」(渡部義通)
ということで、弁正・壇越・少勝雄といった"専業棋士"の系譜をたど
ることができるでしょう。
醍醐帝の時代に至って、初の"碁聖"の称号をいただいたのが寛蓮(本
名・橘良利)。碁聖とは「傑出した囲碁の名手」(『広辞苑』)のこと
ですが、寛蓮の周囲はもちろん、他の地域にも多くの棋士たちの存在
があり、その中にあって実力的にも人格的にもずば抜けて秀逸な"棋
士"が寛蓮だったのでしょう。寛蓮は宇多天皇と醍醐天皇の専属棋士
だったと思われます。
さて、戦国時代に入ると専業棋士の名が消滅しています。戦国武将の
間で囲碁が必須の"戦略的技芸"とはいえ、落ち着いて指導をうける環
境になかったことは当然ですから。
後土御門帝の時代に入り、ようやく「意雲」に名が公家の日記などに
登場しますが、本因坊算砂の出現以降、徳川幕府の保護政策により多
くの棋士がぞくぞく誕生してきます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第64号)  2007.10.05 発行
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<安心と囲碁>
最近、ことある事に「食の安全・安心」などと、「安全」と「安心」を
並べた表現がやたらと目につく。たしか四、五年前に起こった雪印乳業
事件の際に関係者が「日本の消費者は安全だけではなく安心も求めてい
ることを認識しなければならない。」というようなことを語ったのがこ
の表現のはしりだったのではないかと記憶している。以前は単に「食品
の安全性」という表現だったものが、今年生じた牛肉擬装事件以降特に
この「食の安全・安心」という表現が多用されるようになった気がする。
 この表現は福田首相の所信表明演説でも頻繁に使われ、「国民の安全
・安心を重視する政治への転換」という部分で「安全」と「安心」とが
すべてセットになって合計六回も使われている。
 しかし、私はこの「安全と安心」という表現にはどことなく違和感を
覚える。客観的な事実が問題になっているところへ情緒的なものを持ち
込むという日本人の悪い癖が現れている気がしてならないのである。
 なぜ日本の社会は、「安全」という客観的な問題につけ加えて「安心」
という個人の心の状態までもコミットするようになったのであろうか。
「安心」は「安全」という事実を各個人が確認したり信頼したりすること
によってはじめて得られる心の問題であるにもかかわらず、それを企業や
政府が保証したりしようとしているのは、いったいどういうことなだろう
か。国民の方も、このような心の問題を企業や政府に委ねてしまってそれ
こそ本当に「安心」できるのだろうか。もし、安全の問題を自
分以外の第三者に任せきりにしておいて自分は安心しきって何も考えない
としたら、それはかえって「安全」からは程遠い最も危険な行為となるで
あろう。
安全とは、安全を脅かす原因を取り去ってシステムの改良・改善に努める
ととともに、日頃からの確認点検を怠たることなく常に注意を払いながら
システムを運用することによってはじめて得られるものなのである。

その注意を放棄してただ単に安心していたいというのであれば、「安心」
は「安全」の敵となってしまう。その意味で「安全」と「安心」とは一種
の対立する概念であり、それを一緒くたに「安全・安心」と言うのでは自
己矛盾もはなはだしいことになる。

ところで、囲碁の世界で「食の安全・安心」を「石の安全・安心」と言い
換えることは果たして可能なのだうか。囲碁では石の安全についての目配
りが常に必要であるが、それを心がけていても安心という境地にはなかな
かたどり着くことができない。それは囲碁はあくまで自己責任にもとずく
個人の頭脳ゲームであり、安心のもととなる他者異存や思考停止とは無縁
だからである。囲碁が「安心」といいう言葉と結びつくことがあるとした
ら、それは眼とワタリを見合にするといった局所的な保険がかかっている
場合に限られるであろう。<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第29話 日本最古の碁譜は偽物!

従来から言われている「日本最古の碁譜」について、わたしは"作り話”
と断定し、本書では、あえて「日蓮・日朗局」(事前置石法)の碁譜は
掲載いたしません。

最古の棋譜の発端は非常に困難な作業となりましたが、私なりの結論
をまとめたいと思います。
まず、「日蓮・日朗局」がなぜ偽物かを証明しなければなりませんが、
次の三つの理由が考えられます。
@この当時、日本において中国式ないし百済式の事前置石法が打たれ
た形跡が見当たらないこと。(日蓮・日朗局は中国式事前置石法として
伝えられてきました。)
A同時期の他の碁譜が見られないこと。(碁譜を採る習慣があった様子
がうかがえない。)
B出典は『古譜』(三神松太郎編)ですが、この版本の碁譜(三局)の出
所がつまびらかでないこと。都合30部しか板行されていないといい、
前記のほか「武田信玄・高坂弾正局」「真田昌幸・真田信幸局」の合
計三局のみという。
以上のとおり、むしろ否定的な材料のほうが多く、後世の私たちを納
得させるにたる材料の少ないのが現状。なお『爛柯堂棋話』の林元美
もこの真贋について悩んだということですが、結局、同書に採り上げ
られ世に広まったといういきさつがあります。
しからば一体どの碁譜が日本最古かというと、特定することは極めて
困難。現存する碁譜は古いものほど年月日や対局場が記載されていな
いからです。
本因坊算砂以前の棋書『碁式』(寛蓮)『碁聖式』『囲碁口伝』(玄尊)
には碁譜が記載されておりません。本書では算砂・利玄局を暫定的に
「本邦最古の碁譜」として掲げます。『囲棋大成』(榊田良治蔵)とい
う信頼ある写本の第一巻第1局目から。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
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     日本棋院通教便り(第63号)  2007.09.01 発行
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<溜めと囲碁>
 先日、学士会報という雑誌を見ていたら、湯浅誠氏による「貧困の
実相」という寄稿が目にとまった。最近話題になっているワーキング
プアの問題を取りあげていて大変興味深かったので、思わず一気読み
をしてしまった。その内容の要旨はおよそ次のとおりである。

(1)人が貧困に陥る背景には次のような五重の排除がある。
      @教育課程からの排除
      A企業福祉からの排除
      B家庭福祉からの排除
      C公的福祉からの排除
      D自分自身からの排除
(2)貧困の状態というのは、"溜め"が総体的に欠如した状態である。
(3)貧困は自己責任論とは相容れない。 

 1人の人間に五重の排除が折り重なって生じた結果として貧困状態
("溜め"のない状態)が生まれ、貧困状態にあるがゆえに、一つのトラ
ブルが単独で解消されることなく、次から次へと後続するトラブルを
惹き起こす。重複するトラブルは相乗的に事態を悪化させ、生活の質
はスパイラル状に低下していく、ということを、1人の男性(35歳)
が生活保護状態に陥る過程を例にとって説明してある。
 ここでいう"溜め"とは、人々を包み込むクッション(緩衝材)、バリ
ヤーのようなもので、金銭的な"溜め"(貯金)、人間関係の"溜め"(頼れ
る家族、親族、友人)、精神的な"溜め"(自信、ゆとり)を欠如させた状
態は、外界からの刺激に対して非常に脆弱になると主張している。ま
さにそのとおりで、これは囲碁にも当てはまり、まさに自分の碁のこ
とを言っているのではないかと思ったりして変な気分になる。
 常にギリギリのところで勝負しているプロとは違い、我々アマの碁
では、この"溜め"を持つように打つことが勝利への近道になると思う
のだが、どうしたら"溜め"を持つように打てるのか具体的に言うこと
は難しい。
いや、何、それが分かっていれば、自分ももっと高段になっているは
ずなのだから、"溜め"て打てないのは当然なのだろう。それでも、分
からないなりにこれからは"溜め"を心がけて打ちたいと思っている。
<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第28話 清少納言と紫式部は有段者?

平安時代の文芸作品を華麗に彩る『枕草子』と『源氏物語』の作者
二人が「有段の棋力だった」といわれて驚く人は、囲碁ファンとい
えども少なくないでしょう。

平安王朝に咲ほこったもう一人の才媛、清少納言もこよなく囲碁を
愛した一人でした。『枕草子』の「心にくきもの」の一節から。
「夜いたくふけて、御前(おまえ)にもおほとのごもり、人々みな寝
ぬるのち、外(と)のかたに殿上人などのものなどいふ、奥に碁石の
笥(け)に入るる音あまたたび聞ゆる、いと心にくし」(二〇一)
(大意:夜もすっかり更けて、人びと(中宮や女房たち)がみんな寝
静まってから、外のほうで殿上人らの話し声がするかと思えば、奥
の部屋からは碁石を碁笥に入れる音がひびいてる。たいへん心床し
いことだ)
「心くにし」を「心床しい」と解釈するらしいけれど、みんなが寝
静まってから碁石をジャラジャラさせるのを「いと憎らしい」と思
わないところが、清少納言が囲碁ファンのファンたるゆえんでしょ
うか。
「碁をやむごとなき人のうつとて・・・・」(一四六)もまた、囲碁
にかんする有名な文章。
なお、「男女の仲」を評する描写でも囲碁の術語を駆使しており、
なみなみならぬ造詣の深さを披瀝しております。「手許し」=気を
許すこと。(男女の仲になること)「男は手受け」=男に気を許せな
いこと。「結さす」=最後の線をこえること。ほぼ同時代に生きた
性格・気性が対照的な二人の才媛、囲碁の技量は同程度とみられて
います。二人に盤上の勝負を闘わせてみたいものではあります。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第62号)  2007.08.02 発行
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<草取りと囲碁>
少し時がたってしまったが、5月の連休に空き屋となっている実家に
帰省し、庭の草取りをやった。テラスの前がかなり広い芝生になって
いるのだが、ドクダミとトクサによって周囲から浸食され、年ごとに
芝生の版図が狭まってくるのを何とか食い止めたいと思ってのことで
ある。
特にドクダミは芝生以外の地面にも大量にはびこり、このままでは、
我が実家は年を経ずして文字どおり"ドクダミ荘"と化してしまうので
はないかという深刻な事態を迎えている。

そこで自分としてはかなりの気合いと時間をかけて草取りに精を出し
たのであるが、慣れないことを不自然な姿勢でやったシロウトの悲
しさ、とうとう腰を痛めてしまった。少しでも楽な姿勢でやろうとし
て、風呂場の腰掛けを持ち出し、それに座りながらやってみたのだが、
その工夫の甲斐もなく腰痛に悩まされる羽目とあいなった。
後になって感じたことなのだが、マイペースで草取りをやっていれば
腰痛もずっと緩和されただろうに、ついついムリをしてしまうのは
なぜなのだろう。草取りには魔力がある。いったん草取りをはじめる
と、それに夢中になってちょっとやそっとではやめられなくなってし
まうのだ。やり残しを残したまま適当なところで切り上げるという踏
ん切りがなかなかつかないし、草を取ればとっただけその部分がきれ
いになって自分の成果が目に見えて拡大するという小さな喜びも味合
うことができるし、手を動かして草や土に触れるという原始的な楽し
みもあるのだ。
このような性質を考えると、草取りには草取り自体が自己目的化しや
すいという傾向がある。
それ自体が自己目的と化すとどうなるか、それは、全体や大局を見る
目が失われ、やめる勇気も持ちえず、合理的かつ自省的な判断を下す
こともできなくなるといった大きなマイナス面をかかえることになる
のである。

話は変わるが、囲碁も、草取りとよく似たところがある。いわゆる打
ち過ぎというヤツである。夢中になるとやめられなくなり、他へ転ず
る機会を逃して局所を気が済むまで打ってしまうと、いい結果は期待
できなくなる。自分の草取り腰痛と同じで、いい加減に切り上げる勇
気が必要である。

<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第27話 初の”碁聖”寛蓮の物語

囲碁史上において、何人か"碁聖"とたたえられた棋士はおりまし
たが、時代的にもっとも早い時期としては、寛蓮の名を挙げるこ
とができます。

寛蓮の人となりを記載しているのが、『花鳥余情』(一条兼良編)
という書物。
「備前の掾(国司の一)橘良利は備前国藤津郡大村の人なり。停止
院(宇多上皇)の殿上の法師なり。停止院の法皇山ぶみし給う時、
ともしけるよし。大和物語にのせ侍る。碁の上手なるにより、碁
聖といえり。延喜一三年(913年)五月三日、碁聖勅を奉じて、碁式
を作りて之を(醍醐帝に)献ず」
菅原道真を寵愛した宇多天皇(在位887〜897)は寛平九年(897年)、
三一歳のとき幼い敦仁親王(醍醐帝)に譲位していました。
一三歳の若き醍醐帝は囲碁の師、寛蓮の薫陶により上達も早かっ
たと思います。最終的に醍醐帝は寛蓮にハンデが「先二つ」(せ
んふたつ)の手合いまでのぼったといいますから、歴代天皇中で
最強の打ち手といって差しつかえないでしょう。
寛蓮の囲碁伝説のうち、まず、佳人の変化(へんげ)と対局して完
膚なきまでに叩きのめされた話から。ある時、仁和時(宇多上皇
の住まい)へ向かう途中、女児に案内された由緒ありげな、質素
な家の主人らしき佳人に「並びなきあなたの棋力を知りたくて、
お呼びとめました」と挨拶され、立派な碁盤で佳人が「先」で打
ちはじめました。
ところが、寛蓮の石は皆殺しにあった・・・・。
世の人々は「変化のしわざだ」と言い伝えたということです。
この説話は何を言わんとするのかは、皆さんそれぞれにお考えく
ださい。
やはり『今昔物語集』の中から選んだエピソードから。醍醐帝と
の賭碁に勝った寛蓮が「黄金の枕」をせしめる、おかしな逸話が
つづられています。原文は長くなりますので、要約します。
醍醐帝は寛蓮に「先二つ」のハンデでしたが、よく禁中(宮中)に
呼び寄せて鳥鷺を闘わせました。醍醐帝は何度も負けて、賭けた
「黄金の枕」をあたえます。寛蓮は枕をかかえて禁中を退出しま
すが、途中、どこからともなくあらわれた屈強な若者たちに取り
囲まれ、枕を取りもどされてしまうことが、たびたびありました。
何度も同じことがくり返されるので、寛蓮は一計を案じました。
追ってくる若者たちの眼前で金箔貼りの偽の枕を井戸の中へ投げ
捨てて、本物をフトコロにして逃げ帰ったのです。
若者たちがくだんの井戸から取り出してみると、偽物の枕だった
・・・・。
寛蓮は黄金の枕を資金として、かの有名な弥勒寺の建立に役立て
たという物語。
日本初の"碁聖"と称された寛蓮ですが、前述のとおり、醍醐帝の
みことのりによって日本初の棋書『碁式』を作っています。
『碁式』は残念ながら現存していませんが、のちに玄尊という僧
が『碁聖式』(1199年に成立)や『囲碁口伝』によって寛蓮の真意
を伝えているといいます(『群書類従』など)。

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     日本棋院通教便り(第61号)  2007.07.02 発行
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<碁敵ーその2>

 この碁敵といつものホテルの囲碁サロンで自分がカド番の碁を打って
いたとき、対局途中に二人一緒にトイレへいくために中座したことがあ
った。帰ってきてからの対局再開は彼の番からだったが、何を勘違いし
たのか、彼はもう生き死にが決まっている部分に手を入れたのである。 
「おい、そこはもう決まっているところだよ!」といってやるべきだっ
たかもしれない。しかし、その時自分は何食わぬ顔をして別のところへ
打ったのである。それに対し、驚いたことに彼はもう一度、前と同じ生
き死が決まっているところへ打ち、打ってしまってからようやくコトの
次第に気がついたのである。

「おいおい、ここはもうずっと前に決まっていたところじゃないか。何
をやっているんだ、俺は!それにして何食わぬ顔をして黙っているとは
ヒドイじゃないか!君には友情というものがないのか。」
「いや、こちらにもそれなりの事情があってね。」 

碁敵が二手もムダな手を打ってくれたおかげで、自分はかろうじてカド
番を脱出することができたのだが、この時のことを思い出すたびに、ニ
ヤリとした笑いがこみ上げてくる。

その後、次のようなのメールのやりとりがあった。

碁敵:
小生12/7からちょっと東南アジアへ出張に出かけます。
時差はあまりないけれども気温差は大きく対局への深刻な影響が不安で
すが。

自分:
前回は危機的状況に陥ったため、つい本性がでてしまう結果となりまし
たが、その本性から考えると気温差に乗じられる恐れナシともいえない
ので、注意されたし!

碁敵:
十分留意しましょう。それではいつもの要領で。

<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第26話 菅原道真の碁詩と囲碁観

「学問の神」「天神様」として信仰の対象になっている道真公
ですが、若いときから囲碁に通暁していたといいます。その碁
詩と囲碁観について触れてみましょう。

古くから学問の神様としてあがめられている道真公(845〜903)、
私たちが描くイメージとしては"遊び事"にうつつを抜かす人物
とは思えません。ところが、"事実は史伝よりも奇なり"で、道
真は囲碁にかんする詩(漢詩)を四つも残していました。
平安時代のエリート中のエリート、後世に神様と慕われた人が
ザル碁風な碁詩を詠むとは思いもよらぬでしょうが、まずはご
覧ください(『菅原文草』より)。

観王度圍碁献呈人

一死一生争頻    一死一生 道を争うこと頻りなり
手談厭却口談人   手談 厭却す口談の人
慇勤不愧相嘲哢   慇勤に愧ぢず 相嘲弄することを
漫説當有積薪    漫しく説く 当家に「積薪」有りと

これは貞観一四年(872)、道真公二八歳の作といいます。十代
頃から囲碁をたしなんでいたのでしょうか。
囲碁の先進国だった中国で「手談」の文字が使われていくばく
もないこの頃、すでに漢詩の中に用いているし、また「積薪」
(王積薪・唐時代の名手)の名を持ち出すとは中国古典にくわし
い証拠。
若くして鋭い観察眼、学識が深く広いことなど、人にすぐれた
才能の片りんをうかがうに余りある感じがします。
四首を詠んだ囲碁詩のうち二首をパス、一気に道真公五一歳の
ときの漢詩が「囲碁」。最後の碁詩となります。

囲碁(碁)

手談幽静処   手もて談(かた)らふ 幽静の処
用意興妙何   意(こころ)を用いること 興妙何
下子声偏小   子(し)を下すこと 声偏(ひと)えに小さし
成都勢幾多   都を成すること 勢幾ばくか多き
偸閑猶気味   閑を偸みて なほし気味(きび)あり
送老不蹉ダ   老いを送りて 蹉ダたらず
若得逢仙客   若し仙客に逢ふこと得ませば
樵夫定爛柯   樵夫(しょうふ) 定めて柯(おののえ)を
                爛(ただら)さまし

囲碁そのものを謳歌しています。こうした境地に至るまでには、
囲碁に対する相当な思い入れと対局数をこなしていなければ、
とうてい到達しえないものと思われます。
「囲碁の醍醐味に深くひかれてゆくまでの碁歴がおぼろに展開
する」(『古代囲碁の世界』)道真の心境が、あますところなく
表出されています。
道真はこの詩をつくる前年、すなわち寛平六年(894)に遣唐大使
に任じられましたが、諸公を説得して遣唐使の派遣を"中止"さ
せています。
五五歳の二月一四日道真は右大臣を任じられ、翌年『菅家文草』
『菅相公集』『菅家集』などを完成させています。
さまざまな官職をのぼりつめ、あるいは国の中枢にかかわり、
位人臣をきわめました。ところが、人生の絶頂期において道真は、
政敵らとの闘いに一敗地にまみれてしまう・・・。
反対派の陰謀によって左遷された配所、太宰府の遺跡から後年、
数百個もの碁石が出土していますが、悶々と過ごしたであろう
道真の日々の心を慰めた碁石そのものだったのかも知れません。

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     日本棋院通教便り(第60号)  2007.05.24 発行
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しばらくメルマガを休んで申し訳ありません。再開しますので、よろしく
お願いします。

<碁敵>
 高校、大学が同じだった旧友の碁敵がいる。
 大学を出て別々の会社へ就職して以来、長い間音信が途絶えていたが、
自分が東京勤務になったのを機会に10年ほど前から月1回のペースで
碁を打つことになり、3連勝手直りで勝ったり負けたりがここ10年続
いている。
 手合わせの日にちを決めるための連絡を最近はメールを使ってやって
いるが、その際の余計な一言に結構気を使う。最近の例を以下に紹介し
よう。

自分:次回の手合わせは、下記の日以外の平日を指定して頂きたく、よろ
   しくお願いします。5月11日、18日、21日、28日
   カド番なので首を洗って出向きます。

碁敵:それでは、5/16(水)でお願いします。
   なお、コメント頂いた趣旨に沿った打ち回しを切望します。

自分:それでは、5/16(水)によろしく。
   コメントの趣旨に沿った打ち回しを心がけますが、途中で気が
   変わることもあり得ますのでご注意ください。

碁敵:人間として最も大事なのは「ぶれない姿勢」です。
   ご存知のことですが念のため申し添えます。

自分:人生の教訓まで垂れていただき、痛み入ります。

<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第25話 "囲碁風土記"は全国に存在?

「日本風土記」は和銅六年(716)に成立しましたが、五巻のみしか
残存していません。その中で「常陸」「出雲」の両風土記に"碁石浜"
の記述があります。
奈良時代における日本全国の風土・地名・産物・動植物などを調査
・記述した『日本風土記』の名を見たり、聞いたりした人は少なく
ないと思いますが、残念ながら、常陸・播磨・出雲・豊後・肥後の
五巻しか残存していません。
しかしながら、その中の二巻に"碁石浜"(碁石に用いる石が採れる
浜辺、海岸)にかんする情報が記載されています。
まず、『常陸風土記』(茨城県多可郡)から見てみましょう。
「郡(役所)の南廾里(みなみにじゅうさと)のところに藻島(めしま)
の驛家(うまや)があり。東南(たつみ)のかたの濱に碁子(ごいし)あ
り、色は珠玉(たま)の如し。謂はゆる常陸の國に有(あ)らゆる麗し
き碁子は、唯是に濱のみなり」
あるテレビ番組の取材で、私はこの"麗しき碁子"を探しに訪れたこ
とがあります。あまり多くはありませんが、確かに小さくてきれい
な石を拾うことができました。1300年以前の当時だったら、お
そらくもっと大量に採取することが可能だったでしょうし、周辺地
域の囲碁ファンの要望を満たすに十分の量が確保されたことでしょ
う。そして、他の地域に"高級碁石"として、有料で販売していたか
も知れません・・・・。
前段につづく文言は、つぎのとおりです。
「昔、倭武(やまとたける)の天皇(すめらみこと)、舟に乗り海に浮
びて、島の磯を御覧(みそなは)しまししに、種々(くさぐさ)の海藻
多(めさは)に生ひて、茂榮(しげ)れりき。困りて名づく。今も然り
なり」
日本武尊(やまとたけるのみこと)の名が出てくるほど、古い昔物語
です。まさか武尊と囲碁との結び付きまで類推することは、とうて
いムリ筋というべきでしょうが。
名著『古代囲碁の世界』の著者、渡部義通先生が見落とされていた
と思われるのが、『出雲風土記』(嶋根郡玉結濱)の記述でした。
「玉結の濱 廣さ一百八十歩なり。碁石なり。東の邊に麁砥(あら
と)(粗磨き用の砥石のこと。ここで碁石をある程度、加工したので
あろうか)あり。又、百姓(おほみたから)の家あり」
私はまだ「玉結濱」(現在は八束郡美保関町玉結浜)の現地へ行った
ことはありませんが、たぶん、今でも若干は拾うことができるので
はないでしょうか。
散逸してしまった各地の"風土記"の中には、さらに多くの"碁石浜"
や"碁盤山"が記載されていたことは、まちがいなかったと思ってい
ます。
岩手県大船渡市の「碁石海岸」も奈良時代頃から碁石の産地として
著名だったといいます。仙台藩からあまり遠くないことから、藩中
のファンのなぐさみとして、この浜の碁石が供給されたものと思わ
れます。そういえば、江戸仙台藩の上屋敷跡(東京都港区汐留)から、
碁石が数百個出土していました。大船渡の碁石が含まれていた可能
性は十分にあるのでしょう。
大船渡市内には、"碁石"を姓とする家が残っており、また「碁石岬」
「碁石町」「碁石遺跡」などの名称も数多く残っています。
「ホテル碁石」もありました。同ホテルでの対局・碁会も一興だと
思います。
不思議なことに、当地には"碁石"を称する土産品がありませんでし
た。「碁石せんべい」白黒の「碁石あめ」「碁石だんご」など、い
くらでも観光土産が思いつきますが、いかんせん、"碁石"の文字が
商標登録されていて、むやみに使用できないとききました(「碁石
わかめ」は販売されていました)。人ごとながら狭い料簡の人がいる
ものです。ちなみに、ここは国定公園のため、石を拾うことは禁じ
られています。
以上のほかに、日本全国に"碁石"とか"碁盤"の名称を付けた地名・
浜辺・山岳は数十か所にわたり存在します。いずれ別の機会にくわ
しく書きしるすチャンスがあると思います。

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<囲碁用語とインターネット検索−その1>

囲碁関連の仕事をしていると、囲碁に関するいろいろな質問を
受ける。
たいがいのことは何とか説明できるのだが、なかには記憶が曖昧
だったり、いろいろと込み入った事柄だったりしてうまく説明で
きないときがある。
そのような場合は、インターネット検索で調べることにしている。
そしてほとんどの場合、懇切丁寧な解答を見つかる。
ただし、参照したウェブサイトをお気に入りに入れておかないと、
後でさがすのに大変苦労したり、後からでは見つからなかったり
するから要注意である。
最近重宝した質問事項と参考にした解説サイトは次のようなもの
である。

・隅のマガリ四目:
http://mrkigo.sakura.ne.jp/ksikatu/kakugen/k10.html

・SGF形式の棋譜:
http://vof.jp/softsanpo/SGFnote/SGFUserGuide.html#変化

・十番碁のルール :
下記の的確な説明が載っていたページを今はなぜか見つけることが
できない。

打込十番碁 とは、江戸時代からあった囲碁の真剣勝負のこと。
当時は「コミ」のルールがなかったので、白黒交代しながら
十回対局。四つ勝ち越すと「打ち込み」といって、打ち込まれた
棋士はその後は格下の位置づけとなり、打ち込んだ棋士とは対等
の勝負ができない定めになっていた。

<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第24話 「星」の数と形の話

囲碁ファンの数は、全世界で総計3000万人を超えるといわ
れており、その大部分が「19路9星盤」を使用しているはず。
どうして"19路9星"なのか・・・。
近年に至り飛躍的に世界に普及した囲碁ですが、21世紀最初
に開催された第23回世界アマチュア囲碁選手権戦は平成13
年(2001)6月、宮崎市で行われました。参加選手は56
か国・地域に及んでいます。

世界の愛好者すべてとは申しませんが、その大多数は19路9
星盤を使用して「日本ルール」とともに「互先・自由布石法」
で打っているのが実情でしょう。特殊なケースとして、「事前
置石法」を楽しむ人がいるかもわかりませんが、大多数は何の
疑念をもたず第一手目から"自由"に打ちはじめ、そして"布石"
を楽しんでいるはずです。
ところで、碁盤になぜ「星」の印があるのか、なぜ9星なのか
を考えたことがありますか。
という筆者もよく分かっていません。囲碁の起源・事前置石法
・自由布石法ともども、盤上にしるされた「星」の数と形の由
来など、その理由ははっきりつかめておりません。
そもそも「星」の数と形に興味をもった契機というのが、正倉
院にある19路17星盤(桑木木画棊局・二面)の併存にあり
ます。加えてチベット・シッキム様式の17路13星盤の出現
もあり、ますます興味が増幅、いや"混乱"した次第です。
というのも、このチベット・シッキム様式は第3線に古代中国
・朝鮮方式は第4線の星に事前置石を配置するのに対して、日
本古代の9星盤では、いったい事前置石法であったのかどうか、
という疑問も浮かびあがってきました。
したがって、「星」の本来の目的、役割、用途などについては
解明不能ということで、現時点では打ち掛けにするより手はな
さそうです。
古代中国では「花点」と呼んだらしく、これからについては
「花点」というよりも、十字模様といったほうがぴったりしま
せんか。李氏朝鮮期では、「点」の組み合わせが多くなってい
ます。
さらに興味深いのは、旧シッキムの布製盤の「星」の形(花弁
様)です。江戸期の碁盤は、現代と同じ九つの黒丸。以上のほ
かにも異なった形が現存するかもわかりません。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
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     日本棋院通教便り(第58号)  2006.01.11 発行
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<アンナカレーニナ原理と囲碁>

トルストイの「アンナカレーニナ」という長編小説の書き出しに、
「幸福な家庭はどこも似たり寄ったりであるが、不幸な家庭はそれ
ぞれ千差万別である。」という有名な一節がある。
ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」という本を読んでいたら、これ
を"アンナカレーニナ原理" と名付けてあることの説明に引用して
いた。
そのあることというのは「なぜ縞馬は家畜化されなかったか」とい
うテーマであり、世界で家畜になりうる大型草食動物が150種程
度いるが、そのうち実際に家畜化された動物はわずか14種にすぎ
ないのはなぜなのかという問題提起なのだが、その解答として 
"アンナカレーニナ原理" が引用されていたのである。家畜化という
問題に"アンナカレーニナ原理"を適用すると「家畜化された動物は
どれも似たり寄ったりであるが、家畜化されなかった動物はそれぞ
れ千差万別である。」ということになる。すなわち、家畜化される
ためには、餌の問題や成長速度や繁殖力や気質なと数多くの条件が
すべて揃っていることが必要であり、すべての条件が揃うというこ
とは必然的に互に似てくるのに対し、必要条件のどれか一つでも欠
けていると家畜化できないし、どの条件を欠いているのかは動物に
よってまちまちだから、家畜化できなかった動物は実にさまざまで
あるという説明である。
この"アンナカレーニナ原理"は、健康(健康な人と病気の人)や会社
(繁栄する会社と倒産する会社)など、実にさまざまな分野に応用す
ることができそうであるが、囲碁に適用してみるとどうなるだろう
か。
「強い人は誰も似たり寄ったりであるが、弱い人ははそれぞれ千差
万別である。」ということになる。囲碁はいろいろな力を有機的に
バランスよく働かせる総合力が問われるゲームなのだから、強い人
は誰も似てくるが、弱い人は欠けている力や条件が人によって異な
るため、弱さにもそれぞれに特徴があってまちまちである、という
ことになる。
はたしてこれはあたっているのだろうか。
<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第23話 日本碁法の「互先・自由布石法」ーその2

A安永一説
「事前配置は碁の進歩とともに減少する傾向にあることは明らか
であり、その意味から白黒6個ずつ、計12個を置くチベット流の
方が原始形態というべきであろう」
「盤と石とが碁の専門用具となってくれれば、技術の進歩ととも
に事前の置き石の数がふえる傾向はとらないし、だんだん減少の
方法を辿るのは明らかであろう。それゆえ今の日本や中国など、
碁の技術の進んだところでは(置き石が)少なくなり・・・・
あるいは消滅して・・・・チベットのように文化のおくれた方で
はそのままになっているのであろう」
安永一は元日本棋院編集長で著名な囲碁評論家。昭和八年、木谷
実・呉清源とともに三人で『新布石法』を著す。同氏は日本の
「自由布石法」に触れてはいません。

B渡辺英夫プロの説
「将棋も改めた(本因坊算砂が『本能』という駒を取り除いたと
いう伝承がある)のだから棊(碁)も算砂があらためたのであろ
う、と言う訳ではないが、時節、識見、地位等から見て算砂改革
説には多分に真実性があるように思われる」
渡辺プロは『御城碁譜』の編集や『坐隠談叢』の改補など、囲碁
の歴史的事実の解明に尽くされましたが、日本古来の「自由布石
法」については算砂の域を超えてはいません。

C林裕説
「元来、ルールの改革は権威者が行うのでなければ容易に浸透し
ない。置石を廃し、星打ちの限定を破るのは、独創的アイデアも
さることながら、算砂ほどの地位にいなければまず不可能と思わ
れる。しかし算砂以前にだれが考えたという記録もないのは、ど
うしたことであろうか。自由棋法は彼の創案でなく、仙也(算砂
の師)以前にすでにそうなっていた、ということなのか」
同氏の囲碁史家として著名。多くの棋書の編著があります。
「算砂以前」にも言及されましたがそれ以上には及んでいません。

D林道義の説
「囲碁が伝わってから今日までの千五百年の間、日本では一貫し
て日本ルールで対局が行われてきた。囲碁の打ち方の一大転換期
であった室町時代でも、この点だけはかわらなかった。日本式計
算法は日本の囲碁の根幹と言うことができる」
林道義は東京女子大哲学科の教授。哲学の授業で囲碁の講座を設
けており、受講する生徒が年々増えて最近では立ち見の生徒もで
るという人気講座。同教授の囲碁史へのさらなる研究と発表を期
待しております。

E平本弥星(旧名・畠秀史)プロの説
「碁が発達して交点に(石を)置くようになって、星が事前置石
の位置になった」
「推測ですが、互先で置石のない自由布石が打たれ始めたのは古
代で、中国との交流が盛んな鎌倉時代には、本式の碁法とされた
事前置石制と俗習の自由布石が併存していたと私は考えています。
自由布石の碁が主流へと変わったのは、碁が庶民に広く浸透した
と思われる14世紀から15世紀の間でしょう。室町時代末期には、
もっぱら自由布石の碁が打たれたと思われます」
「重阿の登場によって事前置石の碁が全く廃れ、碁といえば自由
布石になったのかもしれません」
以上は、最近発行された『囲碁の知・入門編』(集英社刊)から
の引用です。本書では具体的に特定の人物・重阿の存在が転換期
に重要な役割を果たしたことを示唆していますが、状況証拠のみ
で具体的な史料の探求がいま一つだと思います(重阿は14世紀か
ら15世紀にかけて活躍した専業棋士)。しかし、平本プロはこれ
まで示した説の中ではもっとも踏みこんだ所説を展開しています。

なお、琉球列島(沖縄)においても、古くから日本式ルールおよ
び自由布石法が行われていましたが、五百年以上をさかのぼる文
献や資料は発掘されておりません。尚敬王の時代(一七一九年)
に中国の冊封副使・徐葆光の書いた『中山伝信録』に、日本式ル
ールにかんする記述があります。

最後に著者(水口)の結語(仮説にすぎませんが)を開示いたし
ます。
「古代のある時期、ある場所における、もっとも原始的な形態の
”囲碁”(碁盤の条路ないし星の数の差はともかくとして)が自
由布石法だったと想定、かつ事前置石法が波及する以前において
古代日本へ移入されて以来、一貫して継続され現代に至ったと見
る」
「古代アジア文化の流れの終着点であった古代日本において、移
入されたさまざまな形態・碁法・様式の布石=事前置意志法に直
面した。そこで、異なった碁法・様式を整理・改革したうえで開
発されたのが、いわゆる『互先・自由布石法』ではあるまいか」
いつ、どこで、だれによって整理・改革されたものかについては
著者の想定外ですが、林教授のいう「『随書』以前」から、さら
にもっと昔の可能性も捨て切れません。
卑弥呼の時代以前、以上述べた”日本古来の囲碁”が存在してい
たと考えるのもあながち暴論とも言えないのではないでしょうか。
かくて、独特の碁法・様式が日本において発達し、20世紀の前半
から半ばにかけて、世界に向けて大輪の花を咲かせることになり
ました。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第57号)  2006.12.18 発行
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<イジメ>

最近、学校などでいじめが問題になっている。
ドイツでも日本のいじめについて当地の主要メディアが強い関心を寄せ、
大きく取り上げられいるという。日本語の「Ijime」という用語もその
まま引用され、「イジメ」と発音されているようだ。このままいくと、
「イジメ」も「ジュードー」や「コーバン」と同じように国際語に成り
上がる可能性がある。

ちなみに広辞苑を引いてみると、次のような説明が載っている。
いじめる=弱いものを苦しめる。
いじめ =いじめること。特に学校で、弱い立場の生徒を肉体的または
     精神的に痛めつけること。
囲碁にもイジメはある。広辞苑の説明を囲碁に当てはめれば、イジメと
は形の不完全な弱い石を攻撃して相手をヒドイ目にあわせつつ自分が得
することだと言えよう。囲碁の世界ではこれは何も悪いことではない。
それは一定の平等なルールに基づいた行為だからである。ところが今話
題になっている学校や職場でのイジメでは、弱みへの攻撃が平等なルー
ルに基づいていない点が問題なのである。イジメはどこの国でもあるで
あろうが、日本のような陰湿で悲惨な結果を招くようなひどいイジメは
外国ではあまり聞いたことがない。日本におけるイジメが特異なのには、
フェアープレイや博愛の精神に欠ける未成熟な(要するに大人でない)国
民性が影響している気がしてならない。

「コミ」や「コウ」や「セキ」といった囲碁用語は既に立派な国際語に
なっているが、「イジメ」だけは国際語になってもらいたくないものだ。
<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第23話 日本碁法の「互先・自由布石法」ーその1

「互先・自由布石法」とは一体何かといえば、すなわち現代、世界中で
楽しまれている”碁法・様式”そのものです。

皆さんの家庭にある普通の碁盤(19路9星)で、互先であれば黒の第1着
は多分、右上隅に着手するはずです。これが、すなわち「互先・自由布
石法」で、今さら改めて説明する必要はないでしょう。皆さんが毎日打
っている碁、世界中で数千万人かが楽しんで
いる碁、近年はインターネットで手順をやりとりする人が数十万人もい
るといいます。
ごく普通に打っている「囲碁」ですが、現代と同じ碁法・様式そのまま、
千年余の昔からつづいてきたのかと思うと、不思議な気がします。だれ
が、いつから、どこで始めてのかと問われると、にわかに答えられる人
は一人もいないはずです
が、私には”日本発”としか思えません。この碁法・様式が日本古来か
ら存在したとする筆者の論点の
根拠は、少なくとも正倉院に現存する二面の9星和製盤そのものが、
「自由布石法が打たれたことを証明する碁盤ではないか」というもので
す。
この碁盤で「白黒6子ずつの事前置石法が行われていた」という"珍説"
も考えられなくもないのですが、なにしろ、それを証明する史・資料は
発見されておりません。
奈良時代に二種類の様式の碁盤が存在したことは、日朝二通りの碁法・
様式が並立したのか、または、日本古来の碁法・様式は「互先・自由布
石法」のみだったぼか、どちらかが真実というべきでしょう。
大部分の囲碁ファンから、「昔から自由布石法でやってきたんだから、
今さらそんなこと取り上げてどうするの?」と言われそうですが、あえ
て、ここで今までの説をまとめてみようと思います。
私のように正倉院の時代まで遡らなくとも、何ならかの形で「互先・自
由布石法」に言及している説を紹介いたします。
じつは囲碁史上において重要なターニングポイントと思われますので、
いささか長くなりますがご覧ください。
@『碁聖式』の記述から。本書は一一九九年六月に玄尊(僧侶)によって
記録された棋書といいます。古代人の囲碁観や作法・心構えなどを示し
たものです。玄尊のもう一書は『囲碁口伝』といい、醍醐帝に仕えた寛
蓮が九一三年に勅を奉じて編纂した、本邦初の棋書『碁式』の内容を受
け継ぎ、さらに玄尊自らの意見も盛り込んだ、囲碁の礼法・戦術に関す
る注釈書(いずれも現存せず、『囲碁口伝』『碁聖式』は明治期の『群
書類従』と「日本教育文庫」に再連載されています。また、本項は『囲
碁の深層心理学』林道義著、三一書房刊の訳文を借用しました)。
「先手は星に打つのがよい。星より下に打つのは、寂しげでよろしくな
い。次の手は好きに打ってよい。先手は天元に打つべきかとも思われる」
[先手について]「碁においては、布石がなによりも重要である」[布石に
ついて]「目算はおおまかに言って、布石と中盤とヨセ近くになって、三
度すべきである」[目算について]「置碁の場合は、置石を頼りにして・
・・」[『囲碁口伝』置いた碁を打つ方法]
以上の論調を整理しますと、「第一手を星に打つ」の星とは、まず四隅
のどこかであるらしいことが考えられます。事前に置石が配置されてい
れば、この表現では矛盾することになります。二番目に、特に布石を重
視していることです。
というわけで、今から約八百年前には「自由布石法」が行われていたと
見るべきです。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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<デジタルなのにファジーな囲碁>
現代の情報化社会の基礎はいわゆるデジタル技術、すなわち「イエスか
ノーか」「0か1か」といった二価値論理から成り立っている。囲碁も
また、「白か黒か」という二価値を19x19という有限の平面に割り
付けていく遊戯なのだから、デジタルな世界のゲームであるといってい
いだろう。
デジタルの特徴は、すべては「0か1か」といった二価値で割り切るこ
とができるというところにあるが、この世の中のすべての現象がデジタ
ル的割り切って考えられるものではない。このようなデジタル技術の限
界を指摘し、デジタル社会への反省を込めて、1965年にカリフォル
ニア大学のザデー教授が「ファジー(あいまい)理論」と呼ばれる考え方
を提唱した。
日本でも1980年代の後半に一時的にファジー理論がもてはやされた
こともあったがその後、さっぱり話題にならなくなっていた。
ところがこのファジー理論は今、洗濯機、エアコンなど日本では幅広い
分野で実際に使われているそうである。
話を囲碁に戻すと、囲碁は確かにデジタルであるがファジーなところが
あり、それが原因でコンピュータソフトも強くなれず、いまだアマ初段
あたりをうろうろしているようだ。
思うに、囲碁のファジー性は、場合の数、すなわち19x19=361 マイナス
 1 の階乗=(361-1)! の天文学的巨大さに由来していることは間違いな
いであろう。
本来の性質がいくらデジタルではあるとはいっても、場合の数が多けれ
ばファジー性が増す、それが、囲碁はよく分からない、神秘的でさえあ
る、と言われるゆえんなのだ。<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第22話「事前置石法」とは何か

「事前置石法」という言葉を知っている人は、多くないと思います。
「置碁の場合の置石のことでは?」と早とちりする人もいることで
しょう。
正しくは「互先・事前置石法」といって、今から百年ほど前まで中
国や朝鮮で日常的に行われていた"碁法"でした。まず、左上の図を
ご覧ください。(図は、黒2子、白2子をタスキ星に置いた図)
古代中国から清の時代頃まで、少なくとも千年もの長い間行われて
きた「事前置石法」の図です。互先であっても、このように事前に
第4線の四隅の星に白黒各二子ずつを置き合って、そこで初めて白
から第1着を打ちおろす・・・という碁法・様式です。
下の図(表示は省略)は、江戸後期と思われる中国の名手同士の実
戦譜(范西?と施襄夏)。現代碁のような四隅をめぐる、序盤の
"布石"を楽しむゆとりはありません。しかし、たとえば、白黒とも
タスキ星の定石を採用したと思えば(こればかりではじきに飽きま
すが)、それほどの違和感はないのではありませんか。
左頁の図(表示は省略)上は、百済時代から李氏朝鮮時代にかけて、
これも千年以上はつづいたと思われたる「事前置石法」の配石の例。
対局前にまず白黒各8子ずつを第4線に置き合っています。
中国の様式に比べて4倍も多い置石ですから、これはもう、いきな
り中盤戦に突入している感じ。布石を楽しむなどはもってのほか、
いきなり力まかせのねじり合いが展開されるわけです。
中国と韓国は古来から陸つづきで、言うまでもなくさまざまな文化
的交流があったわけですから、たかが囲碁の遊びについて、こんな
にも差があるとは信じられません。一時的な現象ならばありうる話
ともいえますが、少なくとも千年以上にわたって、二つの異なった
碁法・様式が別々に存在していたわけですから、不思議というほか
ありません。
日本海をへだてた朝鮮半島と日本との関係のような地理的条件であ
れば、それぞれに異種の碁法・様式があっても決して不思議ではあ
りませんが、古代から近世に至る、中国と朝鮮のこうした囲碁の異
質の存在は何と説明すればよいでしょうか。
67頁で図示した木画紫壇棊局(19路17星盤)は、まさしく古
代朝鮮の碁法と様式を物語る確実な物証と言うべきでしょう。この
碁盤を使って、藤原鎌足や聖武天皇が、左図のような「事前置石法」
の碁を“たわむれ”に遊んだことがあるのでしょうか。
16子の事前置石法を採用していたと推測される正倉院の「19路
17星盤」の存在にからめて、少なくとも百済の時代から約千年の
長い間にわたり「事前置石法」の連綿とつづいていた、と私は見て
います。
一方、近年にいたり、韓国のプロもアマも実力的に世界を席巻して
おりますが、こうした「事前置石法」の伝統が現代において見事に
開花した結果と推察できますが、はたして事実はどうなのでしょう
か。16子も事前に置き合うということは、すなわち、すでに中盤
戦に突入しているのと同じこと。いきなり“力比べ”がはじまり、
ほどなくヨセに突入するという“布石のない碁”です。現代におい
ても中盤の戦闘力とヨセの段階でヨミの力が抜群なのは、こうした
長い歴史と伝統がモノを言っているのではないでしょうか。加えて、
彼ら(プロもアマも)の勉強ぶりはすざまじいものがあると聞いて
おります。
なお、1959年4月、日本を訪れたシッキム王国の皇太子(当時)
が日本棋院中央会館(現在の八重洲囲碁センター)で、持参した
17路4星の布盤で伊予本桃市六段(当時)と対局したことは前述
のとおり。それまでの日本で見たこともない、珍しい碁法・様式で、
当時、のニュースで“チベットの異碁”の見出しがついていたこと
を覚えています。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第55号)  2006.7.4 発行
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<実況中継>
テレビではプロ野球やサッカーを始め、いろいろなスポーツが実況中継
されている。これらのテレビ中継を見ていてイライラさせられることの
一つに、やかましい応援騒音がある。この応援騒音はプロ野球やバレー
ボールの試合で特にひどいようであるが、この鉦や太鼓をまじえたやか
ましい応援騒音を聞くと、選手の技や勝負の駆け引きをじっくり見て試
合中継を楽しもうという気が失せてしまう。
その点、大リーグの試合中継は応援騒音に邪魔されることもなく、野球
そのものをじっくり観戦することができ、さすが大人の国の野球中継や
応援風景は違うとあらためて感心させられる。
同じテレビ中継でも、囲碁や将棋の場合は邪魔な応援団がいないから助
かる。これほど観戦者も集中できる試合中継は他にはないのではなかろ
うか。もっとも、囲碁や将棋の場合は解説者の良し悪しに大きく左右さ
れてしまうという別の問題があるのだが。
<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第21話−宮廷における囲碁の儀式(その2)

さらに、平安期にはいると、宮廷において「着袴の義」と「深曽木の義」
に"碁盤"が登場してきます。とはいっても、こちらは「碁を囲む」こと
ではなく、皇子が五歳に達したことを祝うために「碁盤の上に乗る」儀
式のことを言います。
「着袴の義」というのは、五歳に成長された皇子が落滝津の服と白袴を
着用、東宮大夫がその紐を締めて着袴されます。つづいて、童形服に差
し替え、左手に小松二本と山橘の小枝を持ち、足つきの碁盤の上に吉方
にむかって乗り、髪の毛を三か所切り取ります。そして、青色の小石二
個を足の指にはさみ、碁盤の上から飛び降りるのが「深曽木の義」とい
うわけです。
これらの儀式の意味するところは、宮廷の皇子が「碁盤を宇宙にみたて
て大地に降り立つ」という、王家の祝事を象徴する必須の祭ごと。
約八百年の歴史があり、現代の皇室にも連綿として受け継がれておりま
す。今上天皇が五歳になられた時は明仁親王とお呼びしておりましたが、
昭和十二年(1937)の誕生日は同年七月からの日中戦争の開戦と皇后様の
服喪のため延期されています。半年あとの同十三年五月五日、赤坂の東
宮仮御所「御義の間」で行われました。
童形服の上に白絹の袴を着けられ、碁盤の上に立たれた親王は髪の毛を
三か所、広幡后大夫により切り取られたあと、二個の小石(明治神宮の
和泉の中から採り上げられたアオ石)を足の指にはさみ、碁盤の上から
飛び降りる「深曽木の義」が行われております。
当日の午前十時から宮中三殿に参詣されたあと、ご両親陛下にご対面し
て祝いの言葉を賜ったということです。時節がら祝宴などは中止されま
した。
なお、現皇太子(浩宮)殿下の場合は、昭和三九年(1964)十一月一日に行
われております。儀式にさきだって、日本棋院から一組の盤石セットが
皇室に献上されており、浩宮の「着袴の義」に使用されたことは言うま
でもありません。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第54号)  2006.5.2 発行
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長らくメルマガを休んでいるうちに時は移ろい、木々の緑も目に
まぶしいさわやかな季節となりました。また、メルマガを再開し
たいと思いますので、よろしくお願いします。

<通信対局中毒>
最近はパチンコなどのギャンブル依存症が深刻な問題となりテレビ
などで取り上げられている。
それでは囲碁の場合はどうなのだろうが。囲碁は本来実力がものを
いう世界なのだから、運が大きな要素を占めるパチンコなどとは本
質的に異なり、依存症とか中毒症状などとは無縁である、といいた
いところであるが、そうともいえないようである。
私自身も、まったく囲碁ができない環境に身をおけば囲碁をやらな
くてもどうということはないのであるが、いつでも簡単に囲碁が手
軽にできる通信対局の環境が整っている状況では、しばらく囲碁を
やらないと、なんだかさびしい気がして、ついつい対局をしてしま
うことがある。それが、1日に1局程度であれば別にどうというこ
ともないのであるが、3局以上になると私の場合は時間的、精神的、
体力的な面で、いろいろと日常生活に支障が出てくる。
ちなみに、データがそろっている囲碁倶楽部通信対局
http://igoclub.com/
の昨年1年間の対局回数ランキングを見てみると、1位の**2級
が5444局、2位の##四段が4856局となっている。これから1日あ
たりの平均対局数を計算してみると、**2級は15局、##四段
は13局となる。
1局の所要時間は少なくとも1時間以上はかかると思われるので、
**2級は1日15時間以上、##四段は1日13時間以上も通信
対局をやっていることになる。しかもこれが来る日も来る日も36
5日毎日続くのだから驚きである。

このような実体を目の前にすると何か空恐ろしくなる。
通信対局もいずれタバコと同じように次のような表示を強制される
ことになるのかもしれない。

「通信対局はあなたの健康をそこなう恐れがあります。
 やりすぎに注意しましょう。」

<伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第21話−その1 宮廷における囲碁の儀式

宮廷に祭祀にかわって、囲碁がある役割を果たしていたことが知ら
れています。
「新嘗祭」は皇室にとって重要な祭祀であり、「稲の収穫を祝い、
豊穣を祈る」儀式ですが、なんと囲碁の催しが密接に結び付いてい
たという話です。『吏部記』という書物に、「新嘗祭。すなわち囲
棊盤を親王の座の東に立つ。(略)大蔵卿、元方と牛を賭け、左馬頭
と馬を賭ける。この時、少納言伊扶が勧杯(乾杯)するにより、座に
つく。左右勝つごとに酒をすすめる」
まず、「新嘗祭。すなわち囲棊盤」とあるのがおもしろい。儀式も
そこそこに碁盤を親王の許にはこび、牛や馬を賭けて相対し、少納
言の乾杯の音頭によって座につき、碁を見物したのち、勝ったほう
に酒をすすめる、といった趣旨。儀式にことよせて、囲碁と酒が祭
の潤滑油になっているといった按配です。こうした慣例が何年かつ
づいたあげく、いつしか新嘗祭に欠かせない慣例行事となっていた
ことが知られます。
長い皇室の歴史の中で、囲碁にもっとも堪能な天皇であった醍醐帝
が亡くなったのち、承平年間(九三一〜九三八)には宮廷の「月次祭」
という祭祀にも、囲碁が登場しています。
「承平四年(九三四)十二月十一日夕。神祠小忌殿に参る。畳を敷い
たのち、共に座に進む。碁局(碁盤)をはこび、源国淵朝臣らをまわ
りの要望によって碁を打たせる。中納言は賭銭を(三方に)盛るよう
におっしゃった」
このあと同五年、七年と「碁を囲む」ことが記載されています。
囲碁ばかりではなく、琴を弾ずるとか、和歌をつくるとか、皇室に
ふさわしいさまざまな催しがいくつも考えられますが、その中にあ
って囲碁が重要な祭事に”定着”していた時期がありました。
しかしながら、あまり長くはつづいていません。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
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     日本棋院通教便り(第53号)  2006.2.1 発行
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<川端康成の「名人」を読んでーその3>

この小説を読んでみた印象の二つめに、対局のために泊まっている
旅館で、対局の合間に名人は将棋や麻雀などを熱心にやりたがると
いうことが書いてあったが、よくもまあ同じ勝負ごとをしかも真剣
になってそんなにもできるものだと驚いた。
その勝負ごと好き加減がどの程度のものなのかを以下の引用から実
感してもらおうと思う。

<引用始め>----------------------------------------------------
 名人の一面、神経や勘の鈍さ、呑み込みの悪さ、名人みずからが言
う「ぼんやり」は、余技あるいは趣味の勝負ごとのやり方にも、よく
現れた。将棋や連珠は無論のこと、名人は撞球や麻雀にまで長考して、
相手を腐らせた。
---------------------------
 名人の将棋の相手につかまると、若い者がふらふらになった。私が
見た一二の例を言っても、木谷七段と箱根で指した香落ちの一局は、
朝の十時から夕方の六時までかかった。
---------------------------
 箱根で七月十一日に、引退碁が打ち継がれた後、名人のお守役を
兼ねて、奈良屋に泊まりこんでいた、東京日日新聞の囲碁記者砂田は、
次の打ち継ぎの十六日の前夜、私たちが集まってくると、「名人には
あきれました。あれから四日とも、朝起きると、球を突こうと、名人
が呼びに来て、一日中突き通しなんです。夜おそくまで突いて、それ
が毎日なんだから、天才どころか、超人ですよ。」と言った。
----------------------------
 「病気で球突きを封じられたんで、困りました。将棋は少しなら
いい。さあ。」と、笑って立ち上がった。
 名人の少しは、少しですまない。今日も直ぐ勝負ごとに挑む名人に、
久米が言った。
「麻雀の方が、頭を使わなくてよろしいでしょう。」
名人は昼飯に、梅干しで粥をすすっただけだった。
------------------------------------------------<引用終わり>

いやはや、病気をかかえた名人が対局の合間の気晴らしに将棋や麻雀
といった勝負事を長時間にわたってやりたがるというのは何とも理解
しがたいことである。本番の対局であまりにも精神力を酷使している
ために、もはや同じ勝負事でしか癒されない体になってしまったのか
もしれない。
 
(つづく) <伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第20話−その2 古代宮廷と囲碁のかかわり

つづいて、『水鏡』には光仁天皇と井上の后の賭け碁の話が記載さ
れています。「亀宝三年(772)に、御門(光仁天皇)井上の后と博奕
し給うとて、たわぶれ給うて、『我負なば、壮りならむ男を奉らむ。
后負けたまいなば、色かたち並びなからむ女をさせ給え』と宣いて
うちたまいしに、御門負け給いき。后、まめやかに御門をせめ申し
給う。御門たわぶれとこそ思しつるに、こと苦りて思い煩い給う程
に、(藤原)百川この事を聞きて、『山部親王を后にたてまつり給え』
と御門にすすめ申しき」
光仁天皇が自らの后と賭け碁を打ちましたが、「負けたら元気な男
を進ぜよう。自分が勝ったらみめ麗しい女を紹介してほしい」と冗
談を言ったところ、勝負に負けてしまいました。しかし、后は何度
も催促をくり返すので、天皇はほとほと困りはててしまいました。
このことを聞き及んだ百川は「(三六歳の)山部親王を后に進ぜられ
ては・・・」と天皇をそそのかす。
百川はまた、親王にも因果を含めてすすめるが、「そんなことあっ
てはならないことです」と言っていた親王でしたが、ついに折れて
后の許に参上することになりました。
この時、五六歳の后は一二歳の皇子の母でしたが、それ以後、親王
だけを溺愛して天皇を遠ざけるばかり。
山部親王こそ、のちの第50代桓武天皇(在位781〜806)その人です。
平安京に遷都したことなど、多くの業績があります。
天皇と后による"親王"を賭けの対象とした、世にも奇怪な囲碁物語
でした。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第52号)  2006.1.10 発行
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<川端康成の「名人」を読んでーその2>

この小説を読んでみた印象の一つに、「なんとまあ悠長に、というか
中断放棄の危機が何度もありながら長丁場の対局を最後まで打ちおお
せたものだという驚きである。」と前回述べたが、その悠長さ加減を
以下に引用したこの小説のはじめの部分から実感してもらおうと思う。

「名人と私との縁は、東京日日(毎日)新聞社が引退碁の観戦記者に私
を選んでくれたことから始まる。新聞社の催しの碁としても、この碁
は空前絶後に大がかりであった。
六月二十六日に芝の紅葉館で打ち始め、伊東の暖香園で打ち終わった
のは十二月四日であった。一局の碁にほぼ半年を費やした。十四回も
打ち継いだ。私は新聞に観戦記を六十四回にわたって連載した。もっ
とも、局半ばで名人が病いで倒れたために、八月の中ごろから十一月
の中ごろまで、三月は休んだ。しかし名人の重い病いのために、この
碁はなお悲痛なものとなった。そしてやはりこの碁が名人の命取りと
なったのだろう。この碁の後、名人はもとの体にもどれないで、一年
ほど後に死んだのであった。
 この名人の引退碁の終わった時間を正確に言うと、昭和十三年十二
月四日午後二時四十二分であった。黒の二百三十七が手止まりであっ
た。-------------------------
 碁の打ち始め式などということも、この引退碁のほかには、おそら
く例がないであろう。黒が一手、白が一手打つだけで、その後は祝宴
であった。-------------------------
 芝紅葉館の打ち始め式では、黒が一手打ち白が一手打っただけ、次
の日も十二手までしか進まなかった。-------------------------
 新布石か旧布石か、星か小目か、木谷七段が新と旧とどちらの陣を
しくかは、天下の注目を集めていたのだが、黒の第一着手は右上隅の
「はの四」、旧布石の小目あった。-------------------------
 そうして五分間、名人は封じ手なのを忘れて、うっかり打ちそうな
手つきをする。-------------------------
 やがて盤の前に戻った名人は、「水がないな。」と、二本の指に唾
をつけて、封筒の封をした。その封じ目に名人が署名をした。七段は
下の方の封じ目に署名をした。その封筒を大きい封筒に入れて、世話
人が封印の署名をした。そして、紅葉館の金庫に預けた。
 これで今日の打ち始め式は終わったのだ。」  

さて、幸いなことにこの対局は(株)エンテック発行の棋譜管理ソフト
「碁マネージャ3」に、重要な手番にはあらかじめ解説(別の出典の)
が付いた状態で収録されているので、その対局盤面を一手ずつ鑑賞す
ることができる。その盤面を見比べながら小説「名人」を読んでゆけ
ば、この引退碁を少しでも実際に即した形で味わうことができると思
われる。
 また、「碁マネージャ3」に入っているこの対局の盤面画面のコメ
ント欄に、小説の文章を抜粋してそれぞれの手番ごとに入力してゆく
こともできる。そうすれば、自分専用の解説付き鑑賞棋譜ができあが
る。このような鑑賞方法に興味のある方のために、ここで、そのため
の道具を紹介しておこう。
  
・川端康成 新潮文庫「名人」\380 (アマゾンなどでも購入可能) 

・棋譜管理ソフト「碁マネージャ3」エンテック発行 \8,316(税込)
  詳細はここをクリック→http://www.igoclub.com/soft/genre.html
 
(つづく) <伊藤>
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第20話−その1 古代宮廷と囲碁のかかわり

古代の宮廷における行事の一環として日本、中国ともに記録に残さ
れており、想像以上に「宮廷と囲碁」とのかかわりが深いことがわ
かります。

中国唐代の英主・玄宗(在位712〜756)が、新羅の聖徳王の死去に際
して弔祭使を送りこみ、その中に囲碁に堪能な楊貴膺を副使として
随行させていました。
しかし、これよりかなり前、紀元前二世紀−前漢の時代に次のよう
な宮廷行事があったことがしるされています。
「『西京雑記』に日く。戚夫人、高帝(高祖=劉邦)に侍し、八月
四日に雕房の北戸の竹下に出でて碁を囲む」(『淵鑑類函』)
「又日く。戚夫人の侍児賈佩蘭、後ち出でて扶風(地名)のひと仮儒
の妻となる。説て宮内に在りし時、常に八月四日を以て、雕房の北
戸の竹下に出でて碁を囲む。勝者は終年福有り。負者は終年病を疹
む。糸鏤(素絹糸)を取りて、北辰に就いて延命を祈求すれば、乃ち
免る」(『太平御覧』)
漢代の宮廷において毎年八月四日、特定の場所で碁を打ちその勝ち
負けによってその年の吉兆を占うという習慣があったというのです。
もっと古代から、こうした囲碁の催しが何らかの理由付けによって
行われていたことは容易に想像されます。
なお、日本においても、中国の故事にならい同じような囲碁の
催しを行ったことが、藤原頼長(1120〜1156)の日記『台記』に載っ
ています。
「八月四日癸末、西京雑記の意に依りて、尾張兼忠、惟宗盛言に遣
い侍らし、手を合わす。実長(源実長か)の家の北戸竹下に於て、碁
を囲はしむ[二?](二局)。兼忠共に予に勝つ。平常、兼□に負く。
云々。今日は興有る事與。福有るべきの象なり」
前述の中国の二著に所載の宮廷行事を忠実に再現していたことが知
られます。なお、□のところを「予」と判じた渡部義通は「福有る
べき象なり」を「ここはやや不可解な文脈である」といっています
(『古代囲碁の世界』)。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第51号)  2005.11.10 発行
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<川端康成の「名人」を読んでーその1>

かねてから一度読んでみたいと思いつつ、なかなかその機会がなくて
そのままになっていた、川端康成の「名人」という小説が、図書館へ
いったらたまたま目にとまったので、早速借りてきて読んでみた。

この小説は、本因坊秀哉のいわゆる引退碁と呼ばれている対局の観戦
記というスタイルをとりながら、小説では名人と呼ばれている本因坊
秀哉と木谷七段との半年にもおよぶ対局の有様が、両者の人間模様を
まじえて詳細に描かれている。

この小説を読んでみて印象に残った点が三点ある。

一つめは、なんとまあ悠長に、というか中断放棄の危機が何度もあり
ながら長丁場の対局を最後まで打ちおおせたものだという驚きである。

二つめは、対局のために泊まっている旅館で、対局の合間に名人は将
棋や麻雀などを熱心にやりたがるということが書いてあったが、よく
もまあ同じ勝負ごとをしかも真剣になってそんなにもできるものだと
驚いた。

三つ目に印象深かった点はは、次のような観察の記述である。
「棋士の性格にも、大別し二つあるとも聞いた。自分のほうが足り
ない足りないと思いながら打つ人と、足りている足りていると思い
ながら打つ人とで、例えば大竹七段を前者とすると、呉清源六段は
後者である。
足りない型の七段は、自分でも非常に細かいと言うこの碁を、確か
な見通しをつけなければ、一子も気安くは打てないのだろう。」
なお、この小説の中で大竹七段となっているのは、実際は木谷七段
のことである。(つづく) <伊藤>

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第19話 棊子と合子は百済王からの贈り物

『国家珍宝帳』(『東大寺献血物帳』)によれば、棊子(碁石)と合子
(碁笥)は百済の義滋王から、時の内大臣・藤原鎌足あてに送られた
ものと明記されております。
正倉院に納められている碁石の中で、特に人気の高いのが撥鏤棊子
(棊子とは碁石の古語)です。これには二種類あって、一つは紅牙撥
鏤棊子と名付けられています。
このほかに「白棊子・黒棊子」があり、それぞれ150個ずつ合計
600個あったということですが、現代に至り84個が不足してい
ます。それというのは、藤原鎌足や聖武天皇が使用しているうちに
紛失したり、時の将軍や権力者(たとえば足利義満や織田信長ら)が
失敬したり、盗賊が盗み出したりした結果でしょう。

「撥鏤棊子」の両面に刻まれているのは「花食い鳥」で、当時、東
アジアに生息していない珍しい鳥。
棊子の本体は象牙で、特殊な技術によって紅色と紺色に染め分け、
両面に花のついた枝をくわえた花食い鳥を彫りこむ撥鏤の技法で彩
られています。
現代の碁石(直径白21.9〜黒22.2ミリ)にくらべるとかなり小ぶりで、
直径約10.7〜10.8ミリほどの大きさしかありません。
現代の白石と黒石のシンプルさも味わい深いけれど、華麗な木画紫
壇棊局の盤上に優美な撥鏤棊子を打っていく----- 、当時の聖武天
皇らの対局場面を想像するだけでも、千二百余年後の私たちの心が
弾んでくる思いがいたします。
華麗な撥鏤棊子のほかに、白棊子が石英製で黒棊子が蛇紋石製の碁
石もあり、やはり小ぶりではありますが、真横から見ると白黒とも
下辺が平に削られているのが分かります。安定を良くするためなの
でしょうか一部のみ扁平(中国の碁石のように下部前面でない)。
これらの碁石は「銀平脱合子」(いわゆる碁笥)四合二組の中に納め
られていました。現代の碁笥の形とはやや異なり、かなり扁平な造
りです。それというのも、併存する碁盤の高さはせいぜい12センチ
〜15センチですから、バランス感覚からいってこういう扁平なデザ
インに象られたものでしょう。
なお、以上のほかに「金銀絵棊子合子」があり、これは初めから
"棊子合子"とあって、使用目的がはっきりしています。
碁石に関しては、もっと別の種類があるそうですが、いわゆる「玉」
と混合していて、学芸員は「碁石とは判定できません」といいます。
もう一つ注目したいのが「桑木阮咸」。これは棋具そのものではな
く、古代の弦楽器の一種で、この楽器の皮製桿撥の表面に濃緑色で
「松下囲碁図」または「三高士樹下清遊図」と名づけられた、三人
の仙人ないし高士が松や竹ヤブに囲われて囲碁を楽しんでいる図が
描かれています。
古代弦楽器の名称に「阮咸」とあるとおり、阮籍は竹林の七賢の一
人。母親の死を知らされながら悠然と囲碁に興ひたというほどの囲
碁好きでした。
じつは、この図こそ"日本最古の囲碁図"ということになります。
よく知られた中国唐代の「貴女囲碁図」(七四四年)よりやや古い
かも知れません。ということは"世界最古の囲碁図"ということにな
ると思われますが、どうでしょうか。
古い時代の絵だけあって素朴そのものですが、世界最古の囲碁図と
聞けば、改めて見直しをしてみたくなるのではありませんか。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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     日本棋院通教便り(第50号)  2005.10.18 発行
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忙しさにかまけてメルマガの発行が延び延びになり、大変申しわけ
ございませんでした。

<般若心経と囲碁>

女性の生命科学者が書いた「生きて死ぬ智慧・心訳般若心経」という
本が、最近静かなブームになっているという。
私もその本を買って読んでみたが、般若心経の核心をなす
「色即是空 空即是色」という言葉をその本では次のように解釈して
いる。

「宇宙では形という固定したものはありません。実体がないのです。
 宇宙は粒子に満ちています。粒子は自由に動き回って、形を変えて
 おたがいの関係の安定したところで静止します。
 形のあるもの、いいかえれば物質的存在を私たちは現象としてとら
 えているのですが、現象というものは時々刻々変化するものであっ
 て変化しない実体というものはありません。実体がないからこそ形
 をつくれるのです。・・・」

さて、この文章の"宇宙"を碁盤に、"粒子"を碁石に置き換えてみたら
どうなるだろう。碁石一つ一つは意味のない粒子に過ぎないが、それ
が碁盤の上に置かれ、他の石との相対関係を持つことによりはじめて
意味のある形というものができあがり、それが手番の進行とともに刻
々と変化し、最後にはまた意味のない石に戻って碁笥のなかに納まる、
その二度と同じではないくり返しが延々と続くのである。
このよう考えると、碁盤という小宇宙に「色即是空 空即是色」をみ
ることができるのではなかろうか。

「宇宙流」という言葉もあることだし、囲碁には般若心経に相通じる
ことろがあるように思えてならない。(伊藤)

【注】ここで「宇宙流」を出してくるのは、誤解もはなはだしい
   というクレームがきそうであるが、まあいいではないか。
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第18話 正倉院の碁盤の謎

奈良の正倉院には碁盤が三面存在しますが、どこからやってきた
のか、日本製はどれか、星の数が17個と9個のちがいは何か、
の謎に迫ってみたいと思います。

聖武天皇(701〜756)遺愛の品および東大寺の寺宝・文書など、
約一万点が正倉院に奉献されたのは756年。以降、千二百余年後
の今日まで、当時の姿形そのままに現存されていることの意義と
価値は計り知れない大きさがあります。まさに世界遺産にふさわ
しい日本の宝であります。
この一万点に近い正倉院の宝物の中に、囲碁に関連する事物が
"十一点"あります。とりわけ人気抜群なのが「木画紫壇棊局」と
いう碁盤で、人気投票の"ベスト5"に入ると言います。囲碁ファ
ンに限らず、全国的な支持を受けている証でしょう。
木画紫壇棊局は縦横約49センチ、高さ12.7センチの大きさ
で、当時の、東アジアに存在しない動物・架空の動物・花食い鳥
などを精妙な毛彫りで飾り、碁盤全体の隅々まで格調ある、シル
クロードの香り高い華麗な装飾で彩られています。
亀とスッポンを象った二つの引き出しは「アゲハマ入れ」と思わ
れます。一方を開閉すると他方も同時に開閉する仕掛けがあり、
心憎いばかりの遊び心が横溢しております。
右の「引き出し」(アゲハマ入れ)にかんしては、『国家珍宝帳
(東大寺献物帳)』に「両辺着環局内臓棊子・亀形」と記載され
ておりますが、碁石150個を入れるには小さすぎます。
木画紫壇棊局の盤面の星は、「花形眼」と名づけられ5弁の花びら
(多分、桜と思われます)が象嵌されています。奇妙なことに現代
の碁盤とは異なって合計17個所にあり、すなわち古代朝鮮の様式
を表しております。恐らく李氏朝鮮の終わり頃まで連綿とつづいた、
「巡将碁(スンジャンパドゥク)」の碁法・様式を採用していた
"物証"とみられます。
製作年代、製作者ないし場所などが謎となっておりましたが、じつ
は「紅牙・紺牙撥鏤棊子」や「銀平脱合子」と共に百済の義慈王
(在位641〜662)からの贈り物・五点セット(「金銀亀甲龕」も含
めるべきでしょう)だったと筆者は推定しております。
なぜならば、「棊子」と「合子」は義慈王から当時の内大臣・藤原
鎌足(614〜669)あてにおくられたことが、『国家珍宝帳(東大寺
献物帳)』に明記されているのですが、碁石と碁笥だけ送ってくる
とは思えません。
と言いますのは、棊子と合子は「赤漆欟木厨子」(現存せず)の中
に他の宝物と一緒に納められていましたが、とうてい碁盤のような
大きい物が入る余地はなく、碁盤は別途、碁盤入れ(金銀亀甲龕)
に収納されていました。
木画紫壇棊局が唐朝からの贈物という説もありますが、それならな
ぜ、わざわざ"百済の碁法・様式"の碁盤を日本に送ってくる必要が
あるのでしょうか。
正倉院には、ほかに「桑木木画棊局」と称する碁盤が二面存在して
います。
別名「螺鈿撥鏤荘」と名付けられており、「紫壇加里武荘」ととも
に日本製と思われます。木画紫壇棊局の製造技術と比べて、この二
面はぐっと地味な造りであり、当時の日本の技術水準で製作可能だ
ったか疑問は残りますが、たとえ和製だったとしても、純粋の日本
人というよりも中国ないし朝鮮半島からの渡来人の進んだ技術力に
頼ったと見るのが自然でしょう。
これらの三面の19路碁盤の形態はあまり変わっていませんが、そ
の星(花形眼)の数は、木画紫壇棊局(百済製?)の17星にたい
して桑木木画棊局(和製?)の二画は9星です。二つの異なる様式
の碁盤の混在はどう考えればよいのでしょうか。
日本の奈良時代に”古代朝鮮の碁法・様式”が広まったとすれば、
17星盤が主流であるべきです。しかし、現実問題として9星盤し
かも和製盤(二面)が併存していたとあれば、むしろ当時の日本で
は、もっぱら”日本様式”が普及していたと見るほうが自然と思わ
れます。この点が飛鳥時代の『随書』の記述に次ぐ、日本囲碁史上
の重要なターニングポイントと言えるのではないでしょうか。

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     日本棋院通教便り(第49号)  2005.08.05 発行
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<囲碁をやる人のタイプ>
プロは別として、囲碁をやる人のタイプをよくよく観察してみると、
どちらかといえば芸術家肌の人より実務家肌の人の方が圧倒的に多
いような気がしてならない。
もし、この観察あたっているとするならば、囲碁は芸術家肌の人に
は向いていないゲームであるということになるのだが、はたして本
当にそうなのだろうか。
たしかに囲碁は地の大きさを争うゲームなのだから、利(実利とか勝
敗そのものが利)とか快(勝った時の快感)とかを求めてやまないもの
であり、そういった面では真善美といったより一段と高い価値を追求
する芸術などとは相容れぬところがあり、その立場からは一段と低く
見られても仕方のない面もあろう。
しかし、はたして囲碁は真善美といったものと無縁のものなのだろう
か。むしろ真善美といったもののほうが囲碁の本質的な要素なのでは
なかろうか。我々碁打ちは囲碁の持つこのような高みに達することが
できないがゆえに、利とか快といった付随的なもののために一喜一憂
しているに過ぎないのではなかろうか。
このように考えると、芸術家肌の人で囲碁をやる人は少ないからとい
って、囲碁は芸術家肌の人には向いていないと断定することはできな
いと思うのである。(伊藤)
 
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<新刊囲碁ソフトのご案内> 
 
"人のふり見て我がふりなおせ!"
 「悪いクセをなおすアマ実戦譜シリーズ」(各\3,150)
 
●アマ3級の実戦譜解説(問題手の検討36題、棋譜添削12局) 
●アマ2級の実戦譜解説(問題手の検討36題、棋譜添削12局)
●アマ1級の実戦譜解説(問題手の検討24題、棋譜添削24局)
●アマ初段の実戦譜解説(問題手の検討24題、棋譜添削24局)
●アマ二段の実戦譜解説(問題手の検討24題、棋譜添削24局)
●アマ三段の実戦譜解説(問題手の検討24題、棋譜添削24局)
 
詳細は  http://www.igoclub.com/soft/softnew.html 参照
 
<既刊>
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注文は直接エンテックへ(囲碁倶楽部ホームページからも注文可能)
TEL 03-3431-3067   FAX 03-3433-6376   E-mail:ic2@igoclub.com
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≪Fujio-水口 ワールド≫
 
第17話 『万葉集』に”碁師”が登場
 
古事記に「碁」の文字が"当て字"として数多く登場していますが、
『万葉集』には、"碁師"とその妻の存在を示す歌が三首あり、教
養人であったことが知られます。
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     日本棋院通教便り(第48号)  2005.06.17 発行
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<話し方と囲碁>
最近、「頭がいい人、悪い人の話し方」という本がよく売れている
という話である。
私は立ち読みでその本のはしがきや目次をチラと見ただけなので詳
しい内容は知らないのであるが、その本ではマズイ話し方を類型化
してその特徴や具体例を紹介しているようである。確かに話し方の
良し悪しは、話の内容とその組み立て方、論理のたて方、語彙や表
現の豊かさなどで決まってくるようだ。しかしここで忘れてならな
いことは、聞きやすい話し方、流ちょうな話し方ということである。
これらも話し方の良し悪しを左右する大切な要素である。話す内容
はさておいて、世の中には話が聞きやすい人と聞きづらい人がいる。
それには話すスピードや間といったものが影響していると思うので
あるが、この流ちょうな話し方とか話の聞きやすさといったことは
何によって決まるのだろうか。

私は、それはバッファーの性能に依存していると思うのである。こ
こでいうバッファーとは、脳の思考中枢の奥ではなく、発声指令を
送り出す近くのごく浅い部分にあるとみられる一時保存用記憶領域
のことである。このバッファーの性能、すなわちその容量と処理速
度によって、話し方の流ちょうさが決まるのではないかと思ってい
る。
我々は話をする時、いちいち脳みその奥で深く考えた結果をそのま
ま発声しているのではなく、たいていの場合、このバッファーにた
まっているパターン化された表現と、バッファに流れ込んでくる思
考結果を整理し、選択し、時間調整しながら発声しているのだと思
われる。

囲碁は別名"手談"ともいわれる。"手談"であるからには、話し方の
うまいへたがある。そしてうまい話し方、流ちょうな"手談"をやる
にはバッファーの性能がものをいうのである。ここでいうバッファ
ーとは、布石や定石や手筋などをパターン化して保存しておく一時
記憶装置のことである。たまには思考中枢からバッファーに送られ
てきた思考結果を使うこともあろう。しかし、たいていの場合は、
バッファーだけを使って"手談"をすることが可能である。
通信対局などの早碁の場合、勝敗は、このバッファーの性能に左右
されることが多いのである。
われわれも常日頃からこのバッファーの性能を上げる努力を怠って
はならない。(伊藤)
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<新刊囲碁ソフトのご案内> 

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第16話 吉備真備の招来説はマユツバ話

奈良時代のホープの一人、吉備真備は先進国の唐から多くの
知識や文物を移入しましたが、「初めて囲碁を導入した」と
いう説は、この際はっきり否定しておきます。

吉備真備(695〜775)の生誕地で「吉備伝説」に彩られた岡山
県吉備町吉備公園に2メートル四方の「石製大碁盤」、同矢
掛町には「囲碁発祥の地」「吉備大臣入唐絵詞石屏風」など
が据えられており、吉備伝説=囲碁と結び付けた話を盛んに
PRしています。
町興しのために大いに結構なのですが、残念ながら、事実は
「ノー」と言わざるをえません。これは私が言っているので
はなく、すでに江戸時代に指摘されていることです。例えば、
『古今要覧稿』という書物で屋代弘賢(1758〜1841、江戸後期
の国学者)が、「吉備の大臣入唐して帰朝のみぎり伝へられし
由、あまねくいへども、正しき書に見えたることなし」と指
摘しています。ほかにも、『隋書』(倭国伝)や『令集解』(僧
尼令)など、真備以前に囲碁が行われていた事実は、たくさん
見出されております。
吉備町や矢掛町の皆さんが懸命なのは良くわかりますが、事
実のためにあえて検証をしておかなければならない実情をお
察しいただきたいものです。
真備は遣唐使の一員として都合二回渡唐しています。
@第九回遣唐使 養老一年(717)出発ー天平六年(734)帰国
A第十回遣唐使 天平勝宝四年(752)出発ー同五年(753)帰国
二回目は、遣唐副使として重要な役目を果たしていますし、
囲碁の関連については定かではありませんが、超の頭文字が
つく天才ですから真備もすぐさま囲碁の遊びをマスターした
かと思われますし、貴重な文物を多く持ち帰ったことは容易
に想像されます。
しかし、彼の書物(『私教類聚』目録三八条、原本は現存せず)
に「博奕」を「ばくち」と読むか、「すごろくと囲碁」と読む
かで、真備への評価は一八〇度異なってくるところ。
いずれにしろ、真備はもっぱら実務に長けた官僚だったでしょ
うし、ずいぶん生真面目な性格の人物だったと思えます。
さて、「吉備大臣入唐絵詞」という絵巻物があります。残念な
がら日本にはなくて、アメリカのボストン美術館に所蔵されて
います。もし日本にあれば国宝級の逸品(土佐光長絵・吉田兼
光詞)。この絵詞の中に「吉備真備と囲碁の物語」がかなり克
明に描かれております。
この物語の出典は大江匡房(1041〜1111)の『江談抄』と思われ
ます。どちらにしろ、「真備が囲碁を持ち帰った」などとは書
かれてなく、後世の人、特に中世から近世初期の囲碁界で、良
く調べもせずに「真備と囲碁」を強引に結び付けたとしか思え
ません。
そういえば、江戸の中期、第八代吉宗将軍(在職1716〜1745)の
時代、幕府は囲碁・将棋の家元に対して、「囲碁・将棋の起源
について調べた結果を報告せよ」と命令しました。家元たちは
鳩首協議をした結果として、次のような返答をしました。
「囲碁の始まりは、堯・舜に起こり、吉備公が帰朝の節に本朝
に伝来したと聞き及びます。また、それより前に渡ってきたと
も伝えられていますが・・・」と。
従来からの単なる伝聞を書き写して、そのままを回答したに止
まっています。昔も棋士はみずからの"業界"の歴史や文化に対
する関心が薄かったのでしょう。以来、近年に至るまでほとん
どの囲碁の書物では、従来の伝聞・伝承を丸写ししただけのも
のが幅をきかしている状況です。
「吉備大臣入唐絵詞」の話に戻ります。この絵詞は、ひたすら
真備のすぐれた才能を誇張するための絵巻物であり、日本の国
威発揚のための"絵本"だったと考えられますが、一方、歴史的
に貴重な絵画であり、美術品として第一級品であることは言う
までもありません。もし日本にあれば「国宝」級の名品。
中国の「堯・舜創造説」と同様、唐の玄宗皇帝と日本僧・弁正
が対局したという話、この『江談抄』「吉備大臣入唐絵詞」の
話などを真っ向から否定して切り捨てることなく、とりあえず
"昔話"または"伝承文化"ととらえ囲碁界の記録として、とどめ
ておくべきでしょうか。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第47号)  2005.05.06 発行
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<列車事故と囲碁>
死者107人を出したJR西日本の列車事故についてはいずれ
その原因が究明されるはずであるが、一つ前の停車駅でのオー
バーランによる1分半の遅れを少しでも取り戻すために運転士
があせったために制限速度を大幅に超過したまま急カーブに突
入したことが大きな要因となっているのではないかと報じられ
ている。その背景には、ミスを犯した場合に課せられる懲罰的
な日勤教育に対する恐怖感、あるいはその悪名高い日勤教育を
何としても回避したいというあせりがあったのではないかと思
われる。
JR西日本の日勤教育というのは、トイレ掃除や草刈やペンキ
塗り、あるいは就業規則の書き写しといった列車運行上の安全
や技能の向上とはなんら関係のない、ただ単に懲罰や見せしめ
やいじめという意味しか見出せないものも含まれていたという
から驚きである。
このような非合理的精神主義がまかりとおっているところでは、
合理主義に根ざした本当の意味での安全管理がおろそかになる
のは当然といえよう。
人間の一般的な性質として、常に緊張を持続し、すべてのこと
に注意を払うことは不可能である。したがって、真に重要なこ
とには多くの注意を払い、重要ではないいこと、本質的ではな
いことには注意を払わないようにメリハリをつける必要がある。
そうしないと、どうでもいいことに注意を向けた分だけ大切な
ことがおろそかになるからである。
ところが日本人には、物事の重要度とか効果とかを考えること
なく、どうでもいい枝葉末節までただやみくもにきちんきちん
とやろうとする悪いクセがある。これを称して私は"瑣末主義"
と呼んでいる。
先に述べた日勤教育というのも、非合理的精神主義にこの瑣末
主義が結びついて、本来の目的とは逆の効果しか生まなかった
のではないかと推測される。
囲碁においてもこの瑣末主義に陥るといい結果は生まれない。
小さなところ、本質的でないところにばかり目が向いて、大き
なところ、大切なところを見逃すことになるからである。
囲碁の場合もすべての物事を究明して完璧にやり遂げることは
不可能なのだから、重要度の見立てと小さなことは無視ないし
放置する割り切り方が必要となる。(伊藤)
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"人のふり見て我がふりなおせ!"
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第15話 日本への伝来は四ルート?

従来の通説によれば、百済の僧・王仁が仏教などとともに囲碁を
日本に持ち込んだとされていますが、事実はもっとはるか以前の
時代にさかのぼると思われます。

古代の囲碁については、分からないことがいっぱいあります。
日本への伝来ルートもまた、明確ではありません。そもそも起源
も伝来も分明でもないのに、いきなり『随書』(倭国伝、600頃
成立)に「囲碁・すごろく・ばくちが好まれる」と書かれたのが、
日本における"もっとも古い囲碁の記録"ということになります。
想定される日本への伝来ルートとしては、次の四通りが考えられる
でしょう。
1、中国→倭国(日本)
2、中国→朝鮮→倭国(日本)
3、朝鮮→倭国(日本)
4、インド・チベット→東南アジア→倭国(日本)
上記のルートのうち、どれがもっとも有力かということはなかなか
難問題。たかが囲碁という"遊び"ですし、少なくとも、二千年以上
昔の話で満足な記録が残るわけもありません。
もちろん、当時の交通事情も重要な要素となっています。日本列島
は太古の昔は朝鮮半島や中国大陸と陸つづきでしたが、四、五千年
前以降すでに海にへだてられていましたから、目的地を定めて訪れ
るということは至難の業でした。
そもそも囲碁が日本で発祥したとは考えにくく、周囲の国々から移
入したと見るべきでしょう。第一に考えられることは、古代におけ
る難民・移民のたぐいから交易船はては海賊船に至るまで大きな犠
牲を払いながら、幸運な人だけが日本列島ないし朝鮮半島にたどり
つくレアなケースによって、日本にたどりついたほんの一握りの人
の中に、たまたま囲碁ファンが交じっていたという訳なのでしょう
か。
囲碁の渡来物語には、大きなドラマがあったと思いますが、現実問
題として、どのコースが有力かは判断いたしかねます。日本と中国
との交流の記録は紀元前からありますし、そうした記録のまだない
以前から"原始的囲碁"の形として移入されていても、決して不思議
ではありません。
筆者の考える、もっとも有力と思われるルートとしては、Cの黒潮
の流れに乗ってきた説に注目しています。この説はもともと、安永
一氏が提唱していたものですが(『囲碁の発掘』)、それに加えて私
は、のちに触れる「自由布石法」ないし「日本式ルール」の存在を
からめて補強したものです。
古代インド・チベット地域を囲碁の源流と仮定して(『今昔物語集』
『古今著聞集』などに記載のインド・西域での囲碁説話を前提とし
て)、そこから中国雲南・四川からはじまって、揚子江を下る(ある
いは沿って)南東地域の沿岸地帯における上海・浙江・福建・広東
などには、伝統的に囲碁の強豪が輩出しています。古来からの囲碁
の普及事情が如実に反映された結果でしょうか。
日本においても同様で、まず、琉球では古くから日本式ルールが行
われていたと言われていますし、やはり黒潮の流れに沿った日本海
沿岸の各地に、囲碁の伝承が残っています。
『出雲風土記』(七三三頃成立)に「玉結浜」の伝説があり、この海
岸からは碁石に適した石が採れたといいます。あまり遠くない石見
(現在の島根県邇摩郡仁摩町)から日本最強・不世出の棋士、本因坊
道策(1645〜1702)が誕生しております。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第46号)  2005.04.12 発行
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<楽天とライブドア>
囲碁ソフトを作って通信販売している、ある小さな会社の社長から聞い
た話であるが、同じ囲碁ソフトを出店しているにもかかわらず、楽天市
場とライブドアデパートでは、売上げがまったく違うという話である。
楽天のほうはそこそこ売上げがあるのに、ライブドアの方は、今年1月
の開店以来1個の商品も売れていないという。
どちらのホームページも同じようなことをやっていて、一見してはそん
なに差がないように思われる。EC(Eコマース)の他に、証券、ローン、
オークション、ブログ、宿泊・旅行・格安航空券、結婚相手、その他大
抵のものはどちらのサイトにも揃っている。なのに、実際の実力のほど
は雲泥の差があるようだ。
後発組であるライブドドアが楽天に追いつくことは、並大抵のことでは
ない。インターネットの世界ではなおさらむつかしい。そのことはホリ
エモン君もよくわかっているから、世の中の人がアッと驚くような手段
をとらざるを得ないのであろう。(伊藤)
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囲碁倶楽部の自由エッセイ欄http://www.igoclub.com/cgibin/Essay.cgi
に"コスミ(ハンドル名)"という方が書き込まれた"碁楽集"という面白
い格言集が載っていましたので、そのごく一部を紹介します。詳しくは、
ホームページを直接ご覧になってください。 

   《初心者に》 −自戒を込めて−

ダメ詰まりの怖さを常に忘れるな 打たでもの一手が命取りとなる

欠陥を突く先輩を尊べよ とられてしっかり覚える生死  

生きるだけ守るだけでは碁にならぬ いつでも白のスキを窺え

(つづく)
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第14話 敦煌石窟の”巻物”が最古の棋書?

シルクロードの要衝として有名な敦煌の石窟から偶然に発見された"巻物"
は北周時代の写本といわれ、「世界最古の棋書」といってよいでしょう。

敦煌といえば490余の石窟群の存在やシルクロードの要衝として著名で
すが、1899年頃、第16石窟からおびただしい経典や古文書が発見さ
れ、いちやく世界中の注目を浴びました。第16窟に住みこんでいた王円
?という道士(道教を修業する人、もしくは仏教の僧侶や道人)が、そのと
き偶然に発見したものといわれています。
密封されていた「耳房」(第16石窟の副室)の壁が轟音とともに崩れ落ち
たとか、あるいは、タバコの煙が壁に吸いこまれたので耳房が発見された
とかいわれ、いずれにしろ偶然の賜だったということです。
およそ八年後、イギリス人のO・スタインが買い取った一万点を超える文
物の中に、ほぼ完全な「碁経」が一巻含まれていました。
長い間大英博物館に眠っていましたが、1934年に中国の張萌麟(元清華
大教授)が「碁経」を見出して「國聞週報」ではじめて紹介しています。
56年後、成恩元が1964年から「囲碁」誌上で連載を開始しました。
1990年一書にまとめたのが『敦煌碁経箋証』。本書によれば、「敦煌
碁経」は北周時代(557〜592)の成立といわれ、こちらこそ"世界最古
の棋書"という称号をあたえてもよさそう。棋譜は皆無ですし、翻訳がまだ
完了していないため、目次のみを掲げます。

1、前書きに代えて <敦煌写本「碁経」の初めての探求>
2、「碁経」の巻子本図鑑
3、標識本コピー「碁経」
4、文書注釈論説
5、張擬「碁経」との比較研究
6、現代文「碁経」の校本
7、付録

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第45号)  2005.03.04 発行
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<規模の不経済>
エアバス社が公開した世界初の総二階建て超大型機"A380"は、標準
タイプで555人乗り、座席構成によっては853人乗りになるという
とてつもなくデカイ飛行機だ。
一方、海上輸送では1970年代から1980年代にかけて50万トンタンカー
が建造されたが、今では世界で稼働している50万トンタンカーは1隻
もなく、新造されてもいない。その大きさゆえに着岸できる港が限られ
るうえ、原油の積み込み、積み下ろしの際に石油ターミナルの能力が追
いつかず、待機時間がかかりすぎるからだ。
"A380"も、かっての50万トンタンカーの二の舞になるのではない
か心配である。
かっての超音速旅客機コンコルドも姿を消して久しい。大きければいい、
早ければいいといったみせかけの効率一点張りの時代はもはや過ぎ去っ
たのではないだろうか。

さて、これを囲碁の世界に置き換えてみると、できるだけ少ない数の石
でできるだけ広い地を囲むのが効率的であり、それが囲碁の極意と言っ
て差し支えないのであるが、この効率第1主義を進めてゆくと、どこか
でほころびが生じる危険性が増してくる。自分のような実力の伴わない
者がやたらと大模様を構えるのは危険である。やはり物事にはほどほど、
身の丈にあった大きさというものがあるらしいのだが、自分の身の丈に
あった地の大きさや地の囲み方がいつまでたってもわからないのが口惜
しいのである。(伊藤)
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囲碁倶楽部の自由エッセイ欄http://www.igoclub.com/cgibin/Essay.cgi
に"コスミ(ハンドル名)"という方が書き込まれた"碁楽集"という面白
い格言集が載っていましたので、そのごく一部を紹介します。詳しくは、
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   《初心者に》 −自戒を込めて−

 死ぬリスク先手のメリットと見比べよ

「取られた」と思うな「棄てた」と考えよ 棄ててこそ浮かぶ瀬もあれ

「取られた」と思うな「呉れた」と考えよ そこにまた別の戦略がでる

(つづく)
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第13話 世界最古の棋書と碁譜?

囲碁の歴史に興味をいだく人にとって、世界最古の棋書ないし碁譜の
存在は気になりますが、従来の通説に関する史・資料を整理してみる
と・・・。

現在最古の棋書(碁書)としては、北宋徽宗(在位1100〜1125)の時代に
成立した『忘憂清楽集』と相場が決まっていました。
編者は不明ですが、木こりの王質と仙人の対局譜から後漢の武将・孫
策と呂範の局、晋の武帝(司馬炎)と王済の局、唐の玄宗と鄭観音の局
などが収録されている中国の棋書です。
かなり古い時代の碁を取り上げておりますが、碁譜の信憑性について
は、大いに疑問の残る本といわれております。
例えば、『坐隠談叢』の改補者であり、『中国古棋譜散歩』の編者で
もある渡辺英夫プロは、次のようにいっています。
「宋版棊経(『忘憂清楽集』のものは日本の日蓮上人や信玄の棊譜と
同じように真偽不明で多分に拵え物の疑いがあり特に王質の爛柯図は
全くの作り物と思われる」
と。また、孫策と呂範の棋譜にいたっては1700年以前ですし、晋の武
帝の寄付も1690年前の話。二〇世紀に入ってから出土した古代の基盤
を見る限りでは、この当時には一九路盤を使用した形跡が少なく、第
一、これほど古い時代から棋譜を残す習慣があったのか、という疑問
が浮かびます。
北宋期以降の棋譜は本書の成立時期と同時代で、登場人物も実在とい
いますから本物と見てもよくその他は"作り物"ないし"遊び心"の発露
と見るのが無難。渡辺説を尊重して従来の「孫策・呂範局」を作り物
と判定し、閻景実・顧師言局ないし賈玄・希燦局を便宜的に最古の棋
譜といたします。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第44号)  2005.02.07 発行
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<碁は経済戦争か>
囲碁を評して、経済戦争ゲームといった友人がいる。確かに、囲碁は
限られた面積の地を相手と取り合い、相手が損をすればそれだけ自分
が得する構造になっているのだから、経済戦争といってもおかしくは
ない。序盤に失敗してもあとから取り返す可能性もあり、局所的に損
をしても、他のところで得をして全体的につじつまがあえばいいわけ
だから、終局計算は企業の収支決算に似ている。
石を打つことは、投資をしているようなものともいえる。そうであれ
ば、常に投資の有効性が問われる。そしてその投資の効果が短期的で
局所的なものか、それとも持続的で全体的なものかも問題になる。
ただ、囲碁は実際の経済活動と違って、あまり大もうけをする必要が
ない。赤字決算にならなければいいのだから、弱肉強食、優勝劣敗、
勝ち組負け組といった厳しい競争にさらされている実際の経済活動と
くらべれば楽なものだ。
基本的には共存共栄、どこかでほんのちょっと得をさせて頂くだけの
平和でとらえどころのないような碁を打つ、これが私の理想である。
(伊藤)
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に"コスミ(ハンドル名)"という方が書き込まれた"碁楽集"という面白
い格言集が載っていましたので、そのごく一部を紹介します。詳しくは、
ホームページを直接ご覧になってください。 

   《初心者に》 −自戒を込めて−

解らねば手を抜くもよしその代わり 他所に先着それが大きい

先手後手、違いの大きさかみしめよ とれる先手を逃がす愚かさ

将来につながる先手をまず探せ 後手で十目取るより大きい

(つづく)
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第12話 琴棋書画の世界

中国唐代から雅人・士君子の「四芸」とされ、風流韻事やたしな
みとしてもてはやされるようになりました。日本でも画題として
数多く描かれております。

「琴棋書画」の文字は、初めから"四文字熟語"に連なっていたの
ではなくて、それ以前は「琴書」が普通だったというのです。時
代としては漢魏六朝期(25〜581)、この頃の文献にいくらも出て
いるようです(本項はもっぱら青木正児著『琴棊書画』からの受
け売りであることをお断りしておきます)。
ところで、かの囲碁好きで知られる唐の玄宗皇帝の時代に「琴棋
書画」の四文字が初見されると言います(『蘭亭記』何延之)。
「すなわち弁才の俗姓は袁氏・・・、博学工文にして琴棊書画皆
其の妙に得たり」ということになって、「四芸が知識人の雅遊を
代表する」(青木正児)位置を確保するようになったもののようで
す。
「棊」すなわち「碁はその思慮を用いること大して理知的である。
これ囲棊が遊戯とせらる理由の一つであろう」とし、さらに「か
つ囲棊の両人静かに対局する状は勘だ詩的であり、これを目して
『手談』あるいは『坐隠』と為すは『世説新語』巧芸篇に見えて
いる故事」と説明しています。
ということで、唐依頼の詩歌に囲棊を詠じたものは多いと説き、
「さて士人にとって四芸はあくまで遊戯である。その技はいかに
すぐれたりとも、またその芸のいかに熱心に憂き身をやつすとも、
あくまで余技であって、ついに職業的芸人と同じではない。そこ
に士人の矜持がある」と説明しています。
日本における琴棋書画の理念は、室町から江戸時代にかけて、特
に知識階層に大きな影響を及ぼしました。のちに「棋」は「棊」
や「碁」とかかれたり、あるいは「琴棋詩酒」とフリカワること
もありました。とかく平和な時代に忘我の世界をさまようには、
格好な遊びないし教養だったはずです。
「琴棋書画」を絵画に描いたケースは日本全国に少なくありませ
んが、とりわけ古都京都や東京に集中している感じがあります。
たとえば、京都の大徳寺聚光院には永徳(1543〜1590)の「琴棋書
画図」があります。永徳は狩野家四代目で信長や秀吉に
仕えました。安土城・聚楽第・大阪城などに優れた障壁画を描き
残しました。
また、妙心寺には海北友松(1532〜1615)の「琴棋書画図」(重要
文化財、六曲一双)が存在します。友松も中世の著名な画家で、
六〇歳を過ぎた晩年期に画業を集中しており、妙心寺のほか、建
仁寺霊洞院やアメリカのフーリア美術館にも「琴棋書画図」を残
しています。
水野年方の錦絵には、3枚組の中に琴棋書画のすべてが描かれて
います。明治、大正期の上流夫人や令嬢たちにとって必須の教養
が「琴棋書画の四芸」というわけです。
囲碁は遊里でも同様に遊女の教養の一端として、もてはやされた
歴史があり、美人絵ないし遊女絵にしばしば対局図や碁盤が登場
しています。
水野年方のほか、歌川豊春・喜多川歌麿・菊川徳利・猪口・酒杯・
茶碗・湯飲み、はては刀の鍔や筆屏風など、あらゆる文物に"琴棋
書画"の世界が描き出されてきました。
平和な時代を享受していた、昔の日本人の心情がたくにみ表現さ
れております。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第43号)  2005.01.11 発行
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<加藤理事長を悼む>
日本棋院の理事長をつとめられていた加藤正夫九段が脳の手術をされた
という話はうかがっていたが、12月27日発行「週間碁」の"04年碁界
トピックス"に「手術は成功」という記事がのっているのを12月30日に
読んで一安心していた。ところが、31日の一般紙の朝刊で「加藤理事長
急逝」という記事を見つけて、まさに青天の霹靂とはこのことかと大い
に驚き悲しみにくれた次第である。
思えば、棋院の記者室で工藤九段と熱心に打ち碁の検討をされていた姿
や、3年前の八重洲囲碁センターの開所式で、利光理事長、加藤副理事
長、与謝野馨氏の三人の方が和やかに談笑されていた姿がついこの間の
ことのように目に浮かぶ。
加藤理事長は「ネット通信教授」にも大きな関心を示されていただけに
我々「ネット通信教授」の当事者にとって、よき理解者、よき支援者を
突然失ったという痛手ははかりしれない。
1月5日におこなわれた新春打ち初め式で、工藤理事長代行は、加藤九
段の死は、日本棋院の改革という戦いの途半ばで倒れられた「名誉の戦
死」であると評されたそうであるが、日本棋院の改革のスピードが理事
長の死によって鈍ることのないよう見守りたいと思う。
来る1月21日に日本棋院でとりおこなわれる加藤正夫理事長のお別れ会
には、私も参列してご冥福を祈りたいと思っている。(伊藤)
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   《初心者に》 −自戒を込めて−

箴言も時と場合で変わるなり 「絶対」の無いのが碁の玄妙か

手を抜くが碁の要諦と見つけたり いかに先手を取るが大切

死んだとて首をとられるわけでなし 手を抜いてみる勇気をもてよ

(つづく)
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第11話 爛柯・忘優・坐隠・手談の雅称

囲碁の別名・異称は少なくありません。歴史と伝説のある囲碁だ
からこそであり、特に格調高いのが本項のタイトルにある四語で
はないでしょうか。

囲碁の別称ないし異称はじつに多いもので、かつて私が調べてみ
たところ、なんと三十を越えてしまいました。長い歴史と伝統を
もつ囲碁ですから、地域および時代によって呼び方が異なったり
するのは、当然なのでしょう。
中でも特に格調が高く、現代でも比較的多く使われる雅称といえ
ば、本項のタイトルにとりあげた四語に軍配が上がると思います。
すなわち、囲碁の歴史と文化を語るときには、決して欠かすこと
のできない常用語というべきでしょう。

【爛柯】<らんか> と音読みします。爛はくさる、ただれるといっ
た意味があり、柯は斧の柄のこと。すなわち「斧の柄がくさり果
てる」というのが雅称のいわれです。
晋の時代の伝説で、王質という木こりが山中で四人の童子たちが
碁を打っているのをみているうち、時のたつのをすっかり忘れて
いました。気が付くと持っていた斧の柄が腐りはてており、驚い
て家に帰ってみれば昔の人はみんな死んで一人もいなかったとい
う故事(『述異記上』)から生まれた雅称。「囲碁にふけって時の
たつのに気が付かないこと」をいうのですが、だからこそ、囲碁
の魅力はすばらしいという、囲碁賛歌になっています。
【忘優】<ぼうゆう> 爛柯とほとんど同じ意味ですが、こちらは
仙人や木こりが登場するわけでもなく、れっきとした出典があり
ます。『晋書』の中に「我亦忘優耳」(われまた憂いを忘るるのみ)
とあり、これが史上初の登場といわれます。東晋の陶淵明に「飲
酒詩」の詩があり、酒の異称といいます(『広辞苑』)が、"囲碁
の異称"としてもぜひ追加してほしいものです。

【坐隠】<ざいん>「(居ながらにして隠遁する意)囲碁の異称」
(『広辞苑』より)。
出典は『世説新語』(巧芸編・劉義慶)という本の中の「王中郎
(担之)は囲棊を以て是れ坐隠なりとし、支遁(支道林)は囲棊を
以て手談と為す」からと思われます。『顔氏家訓』(雑芸)にも
「囲棋は手談・坐隠の目にあり、頗る雅戯となす」とあります。
本来の字義は「静かにとどまる」とでもいうのでしょうが、要は
碁を打つには言葉を必要とせず、静寂の中にあって時に石を打ち
下ろす音のみが響くという、雅趣に富んだ言葉。山水画をイメー
ジさせてくれます。
現代では『坐隠談叢』という囲碁通史のテキストとして著名。当
初は安藤如意の編さんでしたが、第二次大戦後、プロ棋士である
渡辺英夫先生が綿密な校注を加えてことにより、一段と高い声価
を集めています。

【手談】<しゅだん>「(手で相対するところから)囲碁の異称
(『広辞苑』)。この言葉は日本にも比較的早く移入されており、
「日本紀」(875年)や菅原道真(845〜903)の囲碁のうたった漢詩の
中に出てきます。
囲碁界以外では、あまり使われない言葉でしょう。「坐隠・手談」
とセットで用いられる例が多いようです。
これも対局にさいして石を一手打つごとに、あえて言葉を発しな
くてもお互いの言わんとするところ、思っているところは良く理
解できるという、碁打ち心理を表した言葉。
したがって、言葉の異なる外国人同士でも、一局打てばすぐにお
互いの意志が通じるといわれるゆえんです。これはアマチュアの
特権といってもよいのではないでしょうか。
ところで、プロの世界で特に対局中、独り言をブツブツつぶやく
場面がみられます。
およそ、本音を口にすることが多いものですが、時に根も葉もな
い"独り言"ないし、まるで逆の意味の言葉をつぶやくケースもあ
ります。挑戦手合を放送する衛星放送で確かめてみるチャンスが
あるかもわかりません。
プロ棋士は、坐隠ないし手談の世界からやや離れた勝負の世界の
人物。仙人ではなく、人間が打つ碁なのですから、大目に見てや
ってください。

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<場の力>
何事もそのもの自体が持っている力だけでは本来の力が発揮されない
のは自明の理である。物理学でいうならば、質量があっても重力場と
いう場がなければ重力が作用しないことは、宇宙空間における物体の
挙動をみれば明らかである。電荷があっても電場がなければ電気力は
発生せず、磁気があっても磁場がなければ磁気力は発生しない。
これを人間にたとえていうなら、素質や能力自体が優れていてもその
個人のおかれた場というものが悪ければ力が発揮できないということ
である。
それでは、個の能力とそれがおかれた場の力とではどちらが大きな影
響を与えるだろうか。それに答えるのはなかなか困難であるが、物理
学では質量や電荷や磁気といった個の力と、重力場や電場や磁場とい
った場の力とはまったく対等の影響力をもっていることになっている。
このことから類推すれば人間の世界でも個の能力と場の力とはどちら
も同じ影響力を持っているとみるのが妥当であろう。
   発揮される力 = 個の能力 x 場の力
そうすると、能力はあるのに力が発揮できないのは場が悪いせいだと
する議論がなりたってしまう。たとえば、自分は幸福を追求し享受す
る能力はあるのに自分が幸福になれないのは、自分のおかれた場すな
わち日本の社会というものが悪いせいだという理屈である。
たしかに、人が幸福を追求し享受する条件を日本の社会が備えている
かどうかは、今一度冷静に点検してみなくてはならない命題ではある。
しかしここでいう個人が存在する場としての日本社会も、個人が構成
し個人が選択した結果としての場なのであって、個と場とはそれぞれ
完全に独立無関係ではないところが物理学とは異なるところである。
ということは、すべてを場のせいにする先の理屈はなかなかとおりに
くいのではなかろうか。
それにもかかわらず、こうも負けてばかりいると、自分の棋力がいっ
こうに上がらないのは、自分が利用している囲碁倶楽部という通信対
局場が悪いからにちがいない、といってみたくもなるものだ。
(伊藤)
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一目を得した無理手がアダとなり あとでさんざん苛められるくやしさ

全部取ろ全部生きよと思うなよ シッポくらいはどうぞと進呈

「むさぼるな」とはいうものの一目の 損得いつも考えて打て

(つづく)
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第10話 古代朝鮮の囲碁史話

朝鮮半島と中国とは陸つづきですから、文化や風俗の交換の歴史が
古いのは当然。囲碁の交流についてはどういう形で行われたもので
しょうか。

いずれの国においても、千年とか2千年前の確かな記録が残る例は
マレでしょうが、とりわけ古代朝鮮における囲碁史の文献、資料の
少ないことは、外敵の侵攻や戦乱に明け暮れした国情からいってや
むを得ないことなのでしょう。その中で、もっとも古い囲碁の記述
は5世紀終盤に登場しています。日本初の囲碁の記事(『随書・倭
国伝』)より、120年あまり前のことでした。
『朝鮮史略』(巻一)ならびに『三国史記』(百済本記三巻)によれば、
次のようなエピソードがつづられています。
高句麗20代の王・巨l(在位413〜491)が四七五年、百済を攻めて
蓋鹵王を捕らえて殺していますが、そもそも高句麗の僧・道琳が巨
lの命を受け、偽って百済に亡命して蓋鹵王の囲碁好きに付け入っ
て絶大な信頼をかちとることに成功。やがて百済に城郭や宮殿を築
かせ、河川に堤防をめぐらせ、王の父王のために立派な葬儀を営ま
せるなどして、百済の国力を極度に疲弊させ、人民を苦しめる結果
となりました。そこで道琳は高句麗に逃げ帰り巨lをして百済に兵
を向けさせ、国力の弱った百済をあっさり攻め滅ぼしたという物語。
百済の蓋鹵王は高句麗スパイの見事な”ハメ手”に引っかかって国
を滅ぼしてしまいました。
ほぼ260年のち、唐の玄宗が新羅の聖徳王の訃報に接して、碁の
名手である楊季膺を弔祭使として新羅へ派遣したことはすでに述べ
ましたが、次世代の王である孝成(在位737〜742)も愛好者だったの
で、囲碁によって悲しみをなぐさめたようです。
古代中国と朝鮮半島の交換はさらに古く、殷代末期といいます。賢
人・箕子が戦乱を避けて部下5千余名と共に朝鮮半島に逃れ、各分
野の有能な人材が朝鮮で文化を築きましたが、その中に囲碁を打つ
者がいて広まったという伝説も残っているそうです。(『韓国囲碁
略史』権庚彦著)。
また、中国の所伝(『魏志』)によれば、秦の亡命者多数が朝鮮に入
っていますし、前漢の武帝(前141〜前88)が衛氏朝鮮を破って四
郡(楽浪・玄菟・真番・臨屯)を置き朝鮮半島を治めましたが、支配
者である漢民族の中に多くの愛好者が含まれていて、いくばくもな
く囲碁は半島全体に広まったともいいます。
ところで、中国の亡命者や侵略者から囲碁が広まったとするならば、
中国の碁法(5星・四子事前置石法)が主流として広まるのが当然と
思われますが、一方、百済の時代には19路17星盤を使用してい
た形跡があり、李氏朝鮮の時代まで千年ほどの長い間継続されたと
推測(著者の推測)されますから、話はややこしくなります。加えて
金玉均のインド伝来説も視野に入れるとすれば、ますます混乱しま
す。
ひるがえって、日本における碁法・様式の存在にも話がおよぶわけ
ですから、謎は深まるばかりでしょう。
現代の韓国に目を転ずると、いちじるしい技術の進展に呼応するか
のように、囲碁史ならびに文化史面に向けての関心が急速に高まっ
てきており、研究や調査が急ピッチで進んでいるようです。
ソウルの明知大学においては「囲碁学科」が開設されており、20
01年5月には20数カ国の研究者を集めた「囲碁学術会議」が開
催されています。
また、有識者による「韓国囲碁文化研究会」(会長・李承雨)が発足
して、活発な研究活動が開始されていると聞きます。
20数年ほど昔、日本でも「囲碁文化会」が設立されましたが、い
つのまにか消滅しています。1988年から「日本遊戯史学会」が
活動していますが、現在、囲碁専門の研究団体はありません。

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<バランス>
何ごとにおいてもバランスというものが大切である。
この世の中ではいろんな要素が総合的に作用して一つの結果が
得られるのであるから、要素に偏りがあってはいい結果を期待
することは到底無理というものである。
たとえば、人の生活を考えてみると、自分の家や部屋をいくら
きれいに飾り立てても、それだけでは人は幸福にはなれないの
である。それは、"引きこもり"生活で幸せが得られるかどうか
を考えてみれば自明のことであろう。家の外へ出ていくことが
なければある意味では牢屋にはいっているのと同じで、真の意
味の充足感や満足感は得られない。この意味で、自分の家の外
の空間、いわゆる公共空間というものは人間が幸福を追求する
上で非常に大切な要件となる。ところがこの公共空間が日本で
は非常に貧しい状態におかれている。たとえば、家から一歩外
に出れば、みにくい電柱や架線、それに景色を台無しにする白
いガードレールやガードフェンスがいやでも目に入るので、そ
れだけで気が滅入ってしまう。
国もこのようなヒドイ状態を少しでも改善しようと、電柱の埋
設化に補助金をつけたり、ガードレールの色を白から他の景観
にマッチした色に変えるように指導しているが、地方の財政難
もあり、なかなか進まない。
日本はこの公共空間と私的空間のクォリテイという点では著し
くバランスを欠いた状態にあると言わざるを得ない。
翻って囲碁の場合でも、バランスは非常に重要である。盤上で
のバランス感覚、バランスのとれた棋力などと言われるように、
およそバランスを欠いては碁に勝つことはおぼつかない。
たとえば、死活だけ滅法強くても布石やヨセの力が弱ければ勝
利を得ることは不可能である。総合力がものをいう囲碁の世界
においては一点豪華主義は通用しないのである。(伊藤)

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に"コスミ(ハンドル名)"という方が書き込まれた"碁楽集"という面白
い格言集が載っていましたので、そのごく一部を紹介します。詳しくは、
ホームページを直接ご覧になってください。 

   《初心者に》 −自戒を込めて−

二十子を取られて勝てることもある 碁は「相対」と思い知るべし

見渡せば碁盤は広し一カ所で 負けても最後に半目勝てば

クズ石は「のし」つけて上げよそのかわり こちらをちょいと頂きますよ

(つづく)
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≪Fujio-水口 ワールド≫

第9話 玄宗皇帝の囲碁外交
中国唐代は囲碁の世界においても隆盛をきわめていました。特に玄宗の
囲碁好きは抜きんでており、当時、周辺諸国にも大きな影響をあたえて
います。
玄宗(在位712〜756)は唐の第六代目の皇帝。壮年期は「開元の治」と呼
ばれ、英主の名をほしいままにしていました。太平の治世にあって学芸、
文化、仏教などを大いに栄えさせ、その勢威は東アジア全域にとどろい
たといいます。
晩年にいたり政治を顧みることを放棄して楊貴妃を溺愛、ついに安史の
乱によって長安を追われましたが、乱が収まり長安に帰って悲運のうち
に生涯を終えました。
玄宗の時代は特に日本からの遣唐使は四回あり、養老一年(717)には阿部
仲麻呂、吉備真備らが入唐しています。玄宗が帝位につく前の名を李隆
基といい、日本の留学僧・弁正とよく対局していたことが、日本側の書
物によって記録されています。
「弁正法師・・・大宝中唐国に遣学す。時に李隆基竜潜の日(世に出てい
ない時)に遭う。囲棊を善くするを以て、屡賞遇せらる」(『懐風藻』より。
後年の『本朝高僧伝』にも同様の記事があります。)
玄宗の時代には特に、囲碁の波は周辺諸国にも広がっていました。新羅
の聖徳王が亡くなられた時、特使節として??を派遣し、碁に堪能な楊季
膺を副使として随行させていたことが、朝鮮の現存最古の歴史書『三国
史記』(新羅本紀)に載っています。
新羅の皇太子も囲碁を好んでいたので、副使に相手をさせるためだった
といいます。
玄宗がチベット人を引見する絵画を見たことがあります(『歩賛図』)が、
この時、あるいは"囲碁談義"に花をさかせたと想定してみるのも一興。
古代ベトナムでも囲碁が打たれていたといいますから。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第40号)  2004.10.08 発行
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<イチローの快挙>
マリナーズのイチロー選手が年間最多安打を達成したことは、
日本人の一人として大変よろこばしく思う。世界に誇れるもの
があまりにも乏しく、世界の人から尊敬と賞賛を受ける機会も
めったにない日本という国に住むものにとって、今回のイチロ
ーの快挙はひとしお胸のすく思いだ。
あらためてイチローの快挙に惜しみない拍手をおくりたい。
それと同時に、イチローの新記録に対して惜しみない拍手をお
くってくれたアメリカ人に対しても惜しみない拍手を送りたい。
この外国人ヒーローに対して真っ向から勝負した相手側チーム
の投手や監督、それに自国のヒーローの記録が破られる悔しさ
を乗り越えて、この外国人ヒーローの実力を正当に評価し、そ
のすばらしさをありのまま認めてくれた当地の観客やマスメデ
ィアに対し、私はそのフェアープレーの精神と心の広さをたた
えたいと思う。
これが反対の立場だったら、日本人はイチローに対するアメリ
カ人のようなフェアーな態度で臨むことができるだろうか。
それにつけても思い出されるのは、王選手の年間ホームラン記
録が破られそうになったときに、バース選手やローズ選手に対
し四球攻めをして新記録の達成を阻んだという後味の悪い事実
である。
アメリカ人と日本人とでは同じような状況に際してとる態度が
どうしてこうも違うのだろうか。

それにしても囲碁、特に通信対局をやる人の中には、このフェ
アープレー精神に欠ける人がかなりの割合で見られることは嘆
かわしいことである。

たかが野球、たかが囲碁、この"たかが"のつくものに対しては、
その"たかが"ゆえに何よりもフェアーな心構えが必要であると
思考する次第である。(伊藤)

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   《初心者に》 −自戒を込めて−

クズ石とかなめ石とが見分けらりゃ 直ぐに昇段疑いはなし

「定石を覚えて二目弱くなり」 半知の手筋もまた同じこと

長考もよいが時にはポンポンと カンで打つのも上達のコツ

定石を学んでばかりいるよりは たまには勘を働かせるよし

(つづく)
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第7話 現存最古の碁石と碁笥
孔子と孟子など多くの聖人、君子を輩出している中国鄒城市の遺跡
から、現存最古の碁石と碁笥が出土しており、古代中国の普及状況
の一端がしのばれます。

現存最古の碁石はかなり小粒で、径が6〜8ミリ、厚さ1.5〜4ミリ程
度。白黒ともに加工されていない小さな自然石ばかり。"おはじき"
を思わせるかわいらしい碁石で、白129個と黒103個は素朴な造りの
陶盒(陶製の碁笥)の中に納められていました。フタはなかったよう
です。
碁笥は径105ミリ、高さ79ミリで、これも現代のものよりやや小ぶり
です。収納する碁石の大きさと一セット300個(白黒各150個)という、
当時の事情からして小ぶりな碁笥でも用が足りたのでしょう。
この"国宝級"の碁石と碁笥を管理する鄒城市文物管理局の説明では、
同市郭里鎮の劉宝という将軍の墓から、大量の金銀の器・陶磁器な
どと共に発掘されたそうです。
劉宝は西晋(265〜316)の武将で301年に埋葬されておりました。
同将軍は生存中、「使持節」「安北大将軍」などの要職をつとめ、
また、有名な『世説新語』に彼の業績が記載されているほどの人物。
生前は碁好きな将軍として天下に聞こえていたと思われます。
唐時代以降の出土碁盤や碁石は比較的よく見られますが、それ以前
のものがこれほど大量に、しかも、碁笥と共に発掘されたという話
は聞いたことがありませんでした。
なお、日本の正倉院に納められていた碁盤三面、碁石516枚、碁石
入れ三組と比肩しうる、世界的にも貴重な「囲碁の文物」といって
もよいでしょう。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第39号)  2004.09.08 発行
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<アテネオリンピック>
アテネオリンピックでは久しぶりのメダルラッシュにわいたが、その
期間の後半はあいにくドイツ国内を旅行中だったため、日本選手の活
躍ぶりをテレビで見ることができなかった。
ドイツでも毎日テレビでオリンピックの模様を放送していたのである
が、当然のことながら自国選手の活躍する場面しかうつさないので、
日本人の活躍する場面はほとんどうつらなかった。テレビで日本人選
手が映ったのは、わずかに男子400mメドレーリレーと女子マラソ
ンだけだった。
それではドイツのテレビは何を放送していたかというと、ボート、カ
ヌー、馬術、フェンシング、ホッケー、ハンドボール、トランポリン、
飛込など、およそ日本がエントリーしていないか、出ていても活躍が
期待されていない種目ばかりが目についた。
どうしてこうなのかと帰国してから調べてみると、メダル獲得数は日
本が11種目37個(金16,銀9,銅12)に対し、ドイツは16種
目48個(金14,銀16,銅18)であった。メダル総数も金銀銅の
バランスもまた種目数でもドイツの方が日本よりはるかにまさってい
る。日本はドイツの1.5倍の人口を抱えているのだから、もっとメ
ダルをとって当然であるのに、このオリンピックの結果から言えば、
日本はドイツにくらべてまだまだスポーツ小国と言わざるを得ないで
あろう。
この差は何が原因なのであろうか。私の感じからするとどうも日本は
学校スポーツと会社スポーツに片寄りすぎていて、地域に根ざしたス
ポーツ活動、いわゆるクラブチームが貧弱なことがその原因ではない
だろうか。
それはちょっとドイツを旅行したりドイツに滞在してみればすぐに実
感できることである。たとえばエルベ川の遊覧船に乗ってみれば、ボ
ートやカヌーを練習する人や川縁の道をスポーツ用自転車に乗って疾
走する人をイヤでも数多く目にすることになる。
街のプールへ泳ぎにいってみれば、背の届かないプールで(ドイツの屋
内プールはどこも背が届かない)地域の水泳クラブのハードな練習を目
にすることができる。
私が今から20年近く前に住んでいた人口20万人の地方都市でさえ、
女子ホッケーチームがあった。そして驚いたことに野球チームさえあ
った。
このような底辺のスポーツ活動が盛んな国を相手にオリンピックで戦
うことは並大抵のことではない。
仮に囲碁がオリンピックに取り入れられたとしても、日本は安閑とし
てはいられない。奴らはヤル気になれば手強い相手であることは、他
のことで証明済みだからだ。

ただドイツにとって残念なのは、将来を嘱望されていた日本棋院所属
の若きドイツ人棋士ハンス・ピーチ氏がグアテマラで非業の死を遂げ、
たとえ囲碁がオリンピックの種目になっても出場できないことである。
(伊藤)
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要、不要よく見極めてつなぐ(入れる)べし ムダな一手で先手をのがす

ヴェテランは一カ所ばかりを攻めぬもの 右辺に打たれたら左辺を用心

白は黒の考えるようには受けぬもの 勝手読みしてアッと驚く

(つづく)
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第6話 「17路5星盤」の出現

囲碁発祥の地を証明する資料は未発見ですが、古代の書物に書かれて
いた「17路5星盤」が後漢時代の武将の墓から出土しており、かつて
大きな話題となりました。

現在最古の"完全な型の碁盤"は1952年(昭和27)、中国河北省望都県の
「望都一号東漢墓」から出土しています。後漢霊(在位168〜189)時代
の鄭将軍の墓(182年に埋葬)に陪葬されていました。
発掘された碁盤は縦横各69センチ、高さ14センチという大きな石製盤
で、1800年以前という古さもさることながら、特筆すべきは「17路5星
盤」だったということで囲碁界は騒然となりました。
古い文献である『芸経』(邯鄲淳)に「棊局縦横各一七道、合わせて二
八九道」と記載されていたことを立証する碁盤ということになります。
なお、盤面を子細に観察すると、天元と4隅に四枚の花文状ないしハ
ート形からなる五つの「花点」が見られます。
碁石と碁笥は未発見ですが、石榻(石製の椅子)が二脚発掘されていま
す。将軍が生前、庭などに据えて碁を囲むときに使用していたもので
しょうか。ただし、17路の盤端があまりにも狭く、まして大型盤なも
のですから、実用に使用されたものかどうかの疑問は残ります。

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<猛暑の夏>
今年の夏は去年とはうってかわって例年にない暑さで熱中症にかかる
方も大勢おられるようですね。
暑いからと行って悪いことばかりではない、暑い夏は電力やクーラー
やビアガーデンや風鈴やそのほか諸々のものがよく売れて景気回復の
ためにはいい、ということだそうです。
でもそうだからといって暑い夏を単純に喜んでばかりもおれません。
今年の日本の夏が暑いのは、今年世界的に見られる異常気象の一つで
あって、それには地球の温暖化が関係しているという話もあります。
もし、そうだとしたら、異常気象→暑い夏→景気回復→二酸化炭素増大
→地球温暖化→異常気象という因果がめぐって、事態はますます悪い
方向へと進んでしまいます。

最近気になった言葉:「成長(景気回復)は七難を隠す」(伊藤)
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   《初心者に》 −自戒を込めて−

アテるよりノビることを考えよ グイとのびた姿のよさよ

この一手しかないと思うなよ 妙手はそのすぐ近くにあるぞ

ノゾかれてすぐにツグのはちょっと待て つがずにすます他の手はないか

(つづく)
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第5話 史上最古の碁盤が出土!

これまで最古の碁盤とされていた後漢時代の石盤より、ほぼ330年
さかのぼる前漢期の碁盤(破片)が出土しました。二〇世紀最終の囲
碁文物の発見です。

2000年(平成12年)8月7日付けの朝日新聞が、それまで史上
最古の碁盤といわれていた後漢の石盤より330年ほど時代をさかの
ぼる、焼き物(タイル様)の碁盤の破片が出土したというニュースを
報じていました。
スペースの関係であまり詳しくなく、まして写真が添えられていない
ので後日、中国に問い合わせるつもりでいたところ、中国囲碁史の研
究者から図版の新聞切り抜きが送られてきました。中国語に堪能な友
人に翻訳してもらった結果を要約します。
(1) 漢の景帝陽陵南闕門遺跡から出土した(景帝の在位は前157〜
前141)。
(2) 碁盤の破片(一個)の材質は焼き物でタイル様。長さ5.7〜28.5
センチ、幅17〜19.7センチ、厚さ3.6センチの不規則な五角形。
(3) 表と裏に直線(陰刻)が縦横に刻まれている。表は縦9本、横13
本の罫線が引かれ、左下の4×4の交点に×印がかすかに認められる。
(4) 同種類のタイルは通常、縦横格33センチ程度で、これを手がかりに
残存する罫線から17×17路盤と推定される。
(5) 皇室の持ち物でなく、陽陵の番人が使ったと思われる。

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<アタリショック>

囲碁の"アタリ"を社名とするアタリ社のその後の運命を見てみることに
しましょう。
テレビゲームの父と呼ばれるノラン・ブッシュネルと、彼の友人テッド・
ダブネイは1972年に資本金500ドルのアタリ社を設立しました。
そしてアタリ社は、ピンポンのポンからネーミングした『ポン』と呼ば
れる(日本ではなぜかテニスゲームと呼ばれた)ゲームを発売し、大ヒ
ットさせました。
それにつづいて1976年にアタリ社は『ブレークアウト』(日本では
"ブロック崩し"と呼ばれている)というテレビゲームをヒットさせまし
た。
その後アタリ社は映画・音楽産業大手のワーナー・コミュニケーション
ズに売却されるのですが、1977年には"アタリ2600"(通称アタリ
VCS)という家庭用ゲーム機を発売します。
このゲーム機は、最初はあまり売れませんでしたが、日本の"タイトー"
が開発した『スペースインベーダー』が一大ブームを巻き起こし、アタ
リVCSは最終的には1400万台普及したという話です。
ブッシュネルは1978年にアタリ社を去りますが、飛ぶ鳥を落とす勢
いだったアタリ社も1983年になると膨大な欠損をかかえる赤字会社
に転落していきました。
これがいわゆる"アタリショック"と呼ばれるもので、囲碁でアタリにさ
れてショックを受ける場面なども連想され、言い得て妙なことばです。
"アタリショック"の原因はソフトの粗製濫造(クソゲーの跋扈)と言わ
れていますが、本当の原因は親会社のワーナー・コミュニケーションズ
にあります。
ワーナー傘下に入ったアタリ社にとって致命的だったのは、ワーナーの
経営陣が誰一人として、テレビゲームをしないことでした。

しかし、このようなことは往々にしてあり得ることです。
たとえば、誰一人として囲碁をやらないスタッフで囲碁大会や通信対局
を運営するとか、誰一人年金なんかアテになんかしていない議員連中が
年金制度について論議することとか、・・・・

その後、アタリ社がどうなったかは、よくわかりません。
2003年秋に「セガ、アタリと販売契約」という見出しで、アタリグ
ループが日本向けに投入するゲームソフトをセガが選別し、国内で販売
するという記事が出ていたので、ソフト開発会社として存続してるよう
ですが・・・

私は、囲碁のアタリを社名にとったこの由緒ある会社が消滅してしまう
ことのないよう祈っています。(伊藤)

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第4話 孔子と孟子の囲碁観

古代中国の著名な二人の思想家と囲碁の結び付きを、意外に思われる
人もいるでしょうが、両者とも"囲碁"に言及しています。その囲碁観
とは?

古代中国の易や天文の摂理をつかさどる王侯貴族の"聖技"(ないし閑
技?)といってもよい囲碁は、次第に戦争における用兵や兵法の研究
用具である"戦技"として尊ばれ、さらに僧侶や知識階級へと波及して
いきました。この頃には、いわゆる勝負を争う"遊技"へと変貌を遂げ
ていたと思われます。
さて、春秋時代の代表的な思想家で、儒家の祖といわれる孔子(前551
〜前479)は、『論語』(陽貨第十七)の中でこういっています。
「飽食終日、無所用心、難矣哉、不有博奕者乎、為之猶賢乎巳」(腹
いっぱい食べて頭をはたらかせることなく無為に日を過ごすことより
は、双六や囲碁でもしているほうがまだましだ)孔子が愛好者だった
という史料は見当たりませんが、上の文言を見るかぎりでは、皆目不
案内でもなさそう。積極的とはいいかねますが、とりあえず、囲碁の
"効用"を認めていることにほかなりません。現代ならさしずめ、「定
年退職して家に閉じこもり、何もしないでブラブラしているよりは、
囲碁でも覚えておくのが良い」とでもいうところでしょうか。
孔子より179年あとに生まれた孟子(前272〜前289)は、『孟子』
(告子章句上)でこう述べています。
「今夫奕之為数小数也、不専心志則不得也。奕秋通国之善奕者也」
(その囲碁の遊びはつまらない技であるが、心を一つにして学べ
ばなければ上達しない。奕秋は天下の囲碁の名人である・・・・)
また、別の章では、博奕=囲碁そのものを悪とみなしているほどでも
ありませんが、「酒を飲みながら碁を打ち、父母の孝養を顧みないの
は不幸である」といっています。当時、すでに囲碁の弊害うんぬんが
叫ばれていたことも、一面の真実だったことをうかがい知ることがで
きます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
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<テレビゲームの父>
世に、何々の父といわれている人はたくさんいる。たとえば、交響曲の父
といえばハイドンのことであり、近代医学の父はパスツール、遺伝学の父
はメンデル、といったたぐいである。もっとも・・・の父と呼ばれる人の
中に日本人が一人もいないのは、さびしい限りだが。
それはさておき、テレビゲームの父は誰なのか知っていますか。
それはブッシュネルという男だそうです。
ユタ州立大学時代、友人とのポーカーで授業料の全額をスッてしまった彼
は、それがきっかけで、ソルトレイクシティのとある遊園地でアルバイト
をはじめた。そして、そのころ学生たちが趣味で開発したミニコンで動く
"スペースウォー"に代表される創生期のテレビゲーム(そのころのテレビ
ゲームは、大学や研究機関の中だけで学生や研究者だけが楽しんでいた)
をビジネスにする夢を抱くようになったのである。
彼は大学卒業後に二つの会社を経て、1972年に500ドル出資のテレ
ビゲーム専門会社、かの有名な"アタリ社"を設立したのである。
"アタリ社"とは変わった名前だね。まさか、囲碁の"アタリ"と関係がある
とも思えないのだが。
それが囲碁の"アタリ"からきているというから、驚きではないか。
ブッシュネルは、「次に手番が回れば石をとるぞ」というアグレッシブな
この囲碁用語が好きだったそうだ。
ちなみに、このブッシュネルという男は、「テンゲン」「センテ」という
名の子会社まで作ってしまったという話である。

[つづく](伊藤)

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≪Fujio-水口 ワールド≫

第3話 棊・奕・棋の文字

歴史と伝統のある囲碁の世界ですが、古くからさまざまな文字が使われ、
異称も数多くあります。「碁」や「囲碁」へ定着した経緯をたどってみま
しょう。

記録に表れたもっとも古い文字として、甲骨文の「棊」ということになり
ましょうか。
さて、中国呉の時代(222〜280)に書かれた『博奕論』(韋曜)に「枯棊三百」
と記されています。枯棊とは、木でできた碁石のことを指し、同時に三百
個が1セットだったことも示されています。古代中国では元来、日本とは
異なって碁石に適した自然石が少なく、身近な潅木などから手作りしたも
のと思われます。
日本の寛永年間(1624〜1644)に編さんされた『玄玄棊經俚諺鈔』という版
本に「碁石は元と木を似て造る、故に枯棊と云う」と注記してあります。
このように「棊」は「棋」と同様、古代は「碁石」を意味していたことが
知られるでしょう。
いわゆる「囲碁」のことを意味する古い言葉として「奕」があります。
『春秋左氏伝』(左丘明)という書物の襄公二五年(紀元前548年)の条に
「君を視ること奕棋に如かず」と書かれているのが初見です。「奕棋」の
二文字が連結して使われています。
時として「奕」も使われますが、これは俗字で「重なる」「大きい」
「美しい」という意味ですし、「博奕」と書いて「ばくち」と読ませるこ
とがあります。
紀元一世紀末にできた最古の辞書『説文解字』には「奕は圍棊也」とあり
「圍棊」は文字どおり「棊(碁石)を圍む」ことを意味しています。
「碁」の文字は、古今を通じて書聖と謳われている王義之(307〜365?)に
よって書かれていました。
なお、「圍碁」については唐代の顔眞卿(709〜785)が「圍碁百事忘」と書
いています(『竹山連句』)。
日本で一般的な「囲碁」の文字は、多分に王義之や顔眞卿の影響をうけた
ものと考えても、そんなに見当ちがいではないと思われます。

※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)

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     日本棋院通教便り(第35号)  2004.05.07 発行
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<ゲームの王様ーその2>
 
前回はゲームの王様を決定する三つの基準についてお話しました。
今回は、もう少し本質的なアプローチを試みることにしてみましょう。
広辞苑で"ゲーム"を引いてみると、次のようになっています。
@ 遊戯。勝負事。
A 競技。試合。「ゲーム展開」
こんな簡単な言い換えでは何のことかよく分かりません。これでは
ゲームの本質を説明していることにはならないでしょう。
 
私が考えるゲームの定義は、次のとおりです。
"一定のルールのもとに自己の能力を働かせて勝ち負けを争う非生産的営為"
 
ここでは"非生産的営為"ということが重要で、たとえば実際のビジネス
におけるシェア争いなどは、生産的営為であるがゆえに、本当の意味での
ゲームではありません。本当のゲームは何も生産してはなりません。
ゲームすること自体が目的でなくてはなりません。
 
もう一つ大切なことは、"自己の能力を働かせて"という点です。
運も能力のうちといいますが、運とか偶然性に左右される度合いが強いほど
自己の能力を働かせる度合いが小さくなり、純粋なゲームから遠ざかってし
まうようです。だから、麻雀やトランプなど偶然性の要素が大きいものは、
囲碁や将棋とくらべると真のゲームからは遠い位置にあると思われます。
 
もう一つゲームの本質について付け加えるならば、ゲームをやるための道具
や手段が簡単なほど真のゲームに近いのではないでしょうか。要するに、道
具や手段に依存するようなものは真のゲームとはいえない、というのが私の
見解です。もしこの見解が正しければ、盤や石駒なしでさえやれる囲碁や将
棋こそ真のゲームと呼べるものであって、ゲーム機というハードと大規模な
ソフトウェアによってはじめて成り立ついわゆるテレビゲームなどは、真の
意味でのゲームとは言えなくなってしまいます。
 
それで結局、君は何が言いたかったのかね。
いや、僕は単に囲碁がゲームの王様であると言いたかっただけなんですよ。
[つづく](伊藤)
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≪Fujio-水口 ワールド≫
 
第2話 「中国・三国志」の英雄と賢者
 
420余年にわたって勢威を誇った漢王朝が衰退し、後漢時代の末期、統制
のとれなくなった中国全土は混乱の極に陥り、群雄割拠する戦乱の時代に突
入しました。このあと、曹操の魏(西暦222−252年)、孫権の呉
(222−252年)、劉備の蜀(221−262年)が覇権を争う有名な三
国時代になるのですが、この戦乱の時代、多くの英雄と賢者が出現しました。
 
これらの英雄たちの活躍ぶりを描いたのが、有名な長編小説「三国志演義」
ですが、この三国志の中に登場する英雄、賢者たちと囲碁は、かなり関わり
を持っています。
 
魏の太祖である曹操は、「古今稀にみる兵法家であり、一流の詩人であり、
書も上手、音楽、建築にも通じた多才多芸の人物で、特に囲碁を好み、その
技量は抜群だったと伝えられている」(『古代囲碁の世界』)ほどで、当時
の囲碁の名手と対等の腕前だったといいます。
 
また、蜀の豪傑、関羽も囲碁好きで有名な武将で、特に三国志演義での次の
場面はあまりにも有名です。
 
「魏の曹仁と樊(はん)城の攻防戦を展開したとき、関羽が先頭に立って敵
の降伏を呼びかけたところ、数百本の矢を射られ、その中の一本の毒矢が右
腕に突き刺さって関羽が落馬しました。ただちに、華佗(かだ・中国の医術
の開祖として高名)という名医を探し出して、毒の回った片腕の切開手術が
行われましたが、麻酔のない大手術にもかかわらず、関羽はじっと耐え、酒
を飲みながら部下の馬良と碁を打ち進めた」
 
さて、呉の英雄についてですが、この国ではことのほか囲碁が盛んだったよ
うで、「朝廷、群臣のあいだに碁が盛んで、政務を怠りがちなものもあった
ようだ。これを訓戒する文章なども出ている」(『古代囲碁の世界』)ほど
だったといいます。当時の書物『葦曜傳』に、「一面の碁盤と国の政治とど
ちらをとるか。三百の碁石と万人の将兵とどちらをとるか」とあります。
 
呉の国は孫権が建国しましたが、孫権の兄の孫策が囲碁の愛好家で、同じ愛
好家である臣下の呂範と打ったとされる棋譜が残っています。
ただ、孫策と呂範が囲碁愛好家であったことは種々の書物に載っていますが、
この頃に「19路盤の対局譜」が存在したことについては、後世において疑問
視されています。
 
武将ではなく、文人、墨客、詩人らの知識人らも、乱世を憂いつつ、詩を吟
じ、文学を論じ、そして囲碁に興じていました。
 
建安年中(196−220年)に輩出した孔融・陳琳・王粲・徐幹・阮う
(王偏に禹)・応とう(王偏に昜)・劉驍轤「建安七子」といい、特に王
粲は博覧強記、囲碁の名手として後世に知られています。自分の打った碁に
限らず、人の碁を見ていて、始めから終わりまでの手順を復元することは朝
飯前だったといいます。
西晋時代に入ると、戦塵を逃れて奥深い竹林で清談に明け暮れたのが、よく
屏風に囲碁を打っているさまを描かれている、有名な「竹林七賢」でした。
阮うの子の阮籍はその中の一人で、たまたま碁を囲んでいるときに母親の死
を知らされたのですが、阮籍は対局を止めようとせず、そのまま打ち続けて
勝ちを収めたというエピソードの持ち主。「親の死に目に会えない」という
日本の諺の"元祖"のような人物でした。
※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
≪Fujio-水口 ワールド≫
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分で打ってゆく方式の問題です。
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"定石を覚えて一目弱くなり" という川柳のような結果にな
ることは、このソフトに限ってございませんので、ご安心を!
 
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     日本棋院通教便り(第34号)  2004.04.05 発行
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<ゲームの王様ーその1>
 
囲碁もゲーム(そのジャンルはボードゲーム)の一つであるが、
それではゲームの王様は何だろう。
ゲームの王様の決定については次のような基準が考えられる。
  @マーケットの大きさ
  A愛好者の数
  Bプロの数
@のマーケット規模で比較したら、囲碁はテレビゲームにとうてい
及ばないことは明らかである。テレビゲームの市場規模は市場規模
は1兆円を超えているものと思われるが、囲碁の市場規模はどんな
に大きめに見積もっても500億円を超えることはありえない。
Aの愛好者の数では、将棋人口やチェス人口にくらべて、囲碁人口
は遙かにおよばない。
Bのプロの数ではどうだろうか。チェスのプロが世界的にみて何人
存在するのか知らないが、囲碁のプロの数は、日本棋院約330名
関西棋院約120名、韓国棋院が約170名、中国が約130名、
台湾が約20名、これらを全部合わせた世界合計で約800名と
いったところか。
 
結局、囲碁がゲームの王様であると言える可能性があるのは、Bの
"プロの数"においてだけではないかと思われる。[つづく](伊藤)
 
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しばらく、囲碁に関する歴史と文化について、毎回、日本棋院発行
「囲碁の文化誌」(水口藤雄著)の一項目ずつを紹介してゆくことに
します。
 
≪Fujio-水口 ワールド≫
 
第1話 「源氏物語」の中の囲碁描写
 
平安時代に紫式部が書いた、世界に誇る長編恋愛小説「源氏物語」
五十四帖の中に、「囲碁」の話が随所に登場してくることは、囲碁
界ではなかば常識になっています。
 
おおよそ千年ほどの昔、貴族社会とはいいながら女性の間に囲碁が
盛んになって流行し、小説の中に囲碁術語や囲碁用語がふんだんに
登場してくるのですから、驚きとともに喜びを隠すことができませ
ん。囲碁の対局風景の描写から、紫式部が囲碁の手段に通暁してお
り、また、その造詣の深さと的確な表現からしても、今日でいう有
段者、それ以上の実力を有していたと思われます。
 
その囲碁描写で、もっとも有名なくだりは「空蝉(うつせみ)」の
中の次の条文でしょう。
 
「碁打ちはてて、けちさすわたり、心疾(と)げに見えて、きはぎ
はしうさうどけば、奥の人は、いと静かにのどめて、『待ち給へや。
そこは、持(ぢ)にこそあらめ。このわたりの劫(こふ)をこそ』
などいへど、『いで、この度は負けにけり。隅のところどころ、い
でいで』と、指(および)を屈(かが)めて、『十(とを)、二十
(はた)、三十(みそ)、四十(よそ)』など数える様、伊豫の湯
桁もたどたどしかるまじう見ゆ」
 
これは空蝉と軒端の二人が対局している場面ですが、現代の言葉で、
この条文の大意を表現しますと、
 
「碁が大方終わって、ヨセの段階に入ったとき、緊張が解けて(周
囲の女房たちが)騒がしいのを、奥の人(空蝉)が静かに押しとど
め、『待ってください。そこはセキ(持)ではありませんか。こち
らのコウ(劫)のところを打つべきですよ』などと言うと、
(軒端は)『そうですね、この度は負けました。隅のあちらこちら
の地を数えましょう』と指を折り、『とう、はた、みそ、よそ』な
どと数える様子は、伊予の国(道後温泉)の湯槽を数えるようにた
どたどしく見える」
 
となりますが、このくだりから、紫式部が弱い棋力でしたら、とて
もこうは表現できないのではないかと思われるのです。
 
それと、注目すべきは「十、二十、三十、四十」と地を勘定するく
だりです。これだけでは、碁の伝来のままの「中国ルール」か、そ
れとも現代に通じる「日本ルール」なのか判然としませんが、前段
の「隅のところどころをいでいで(数えん)」とあることから、
"隅の地を10目ずつ区切って、数えやすく作っている"ことが分かり
ます。こうした表現から類推すれば、当時の日本において、すでに
古代の中国や百済の碁法を採用せず、変わってきていることがうか
がわれます。
 
また、「宿木」の帖だけに、帝と薫の君による男性同士の対局場面
が描写されています。
帝が、皇女二宮の婿にと望んでいた中納言である薫の君と三番勝負
を打つのですが、薫の君が二番勝ち越せば姫君を嫁に差し出すとい
う設定で、帝がわざと勝負に負けるという筋書きの物語です。
 
これと別の帖では、「打ちさして(打ち掛けて)」
「手直し(手直り)」「先指させ(先番で打たせる)」など、かな
りの対局経験がないと使えない囲碁用語が出てきます。
 
これらのきわめて具体的な描写から察して、紫式部の確かな棋力を
読みとることができます。
 
※日本棋院発行 碁スーパーブックス9「囲碁の文化誌」より
(協力:日本棋院書籍課)
 
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<お知らせ>
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     日本棋院通教便り(第33号)  2004.03.03 発行
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<八勝七敗的人生>

囲碁倶楽部のホームページの自由エッセイ欄に載った、囲碁の勝
負に関する"長良川"さんからの寄稿を紹介します。

◆八勝七敗的人生 ◆長良川 ◆04年02月13日 10:04 
新聞でいつか八勝七敗的人生というエッセイを読んでなるほどと
思ったことがある。それは、大勝ち、一人勝ちをねらうのは賢い
人間のすることではなく、だいたい八勝七敗程度を目標にしてお
けば、気がつかなかった小さな見損じやなんやかやをあとで差し
引いてちょうどトントンとなり人生としてのバランスがとれる、
といった内容だったと思う。
ところで、このような八勝七敗的人生をよしとするのなら、七勝
八敗的人生だってあり得るのではないかと私は思っている。
人とつきあうとき自分は皆より少しだけ損をするように心がける
ようになってから、私のまわりの人間関係がうまくく回転するよ
うになった気がする。人とのつきあいでは、このような七勝八敗
的心がけが有効なのかもしれない。
しかし、同じ人とのつきあいといっても囲碁の場合に七勝八敗的
心がけでやっていたのでは、いつも負けてばかりになるであろう。
囲碁の場合はやはり新聞のエッセイのような八勝七敗的心構えで
対すべきと思う。
自分も囲碁をやるときはこの八勝七敗的心構えを肝に銘じて始め
るのだが、そして布石の段階まではこの心構えを何とか維持でき
ていると思うのだが、石が接近しだした中盤以降になると最初の
殊勝な心がけはどこへやら、大勝か大敗の二者択一しかないよう
な碁になってしまう。このような碁を称して、とっくみあいをし
ながらごろごろと坂を転がり落ちて、最後に止まったときにたま
たま自分が上になっているか下になっているかの勝負でしかない
と、額五段がある指導書で述べておられたが、私の打つ碁もまさ
にこのようなひどい碁なのである。
最近はこのような状態から少しでも抜け出そうと、八勝七敗的心
構えを中盤以降もできる限り長く引きのばして維持すべく、努力
しているところである。
 
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     日本棋院通教便り(第32号)  2004.02.03 発行
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<ポカについて−その2>

囲碁倶楽部のホームページの自由エッセイ欄に載った、ポカに
関する"とほる"さんの文章(前号で紹介)に対する、"すばる"
さんからの寄稿を紹介します。

"私の宗教的体験"というホームページの著者による『単純な生活』
という本からの引用ですが、ポカ対策の答の一つに思われます。 
以下引用です。

 裏自己から表自己へエネルギーを汲みあげれば汲みあげる程、
私達の視野はせばまり自縄自縛におちいる。碁打ち・将棋指しは
勝とうとして力を集めると盤面の一部しか見えなくなるし、スポ
ーツ選手が緊張すると視野に狭窄を起こす。
 
 自己を救う道はエネルギーをシフトアップする方向にはなく、
逆にシフトダウンする方向にある。自動車のギアをトップから
セカンドへ、セカンドからローへおろして行くように、自己の
エネルギー・シフトを少しずつダウンさせて行くのである。

 「こうあるべきだ」     と押しつけて行くかわりに
 「こうあるべきだと思う」  と一歩 後退し、
 「こうあるべきかもしれない」と二歩後退する。

 「それは間違っている」   とやっつけるかわりに
 「私ならこうするのだが」  と独語する。

 「これをせよ」       と云わないで
 「これをやってくれるか」  と命令形を依頼形に変える。

  決定事項を伝える場合にも、「こうきまったが、そちらの
  都合はどうか」と相談する形をとる。

 エネルギーをシフトダウンするということは、相手にまず態
度形成を行わせ、自分の態度決定を後回しにすることであって、
これが一番聡明なエネルギー節約法なのである。

【すばる感想】
   裏自己=無意識の世界、表自己=表面意識の世界。

   「勝たねばならない」→「勝てればいいな」
    →「面白い対局になればいいな」
  
 と、心の自由さを確保する意味のようです。
 最後の3行、すぐに単純攻め取りに行く私としては、複数の
 狙いの留保をしろと読めてなかなか意味深なものがあります。

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このたび、エンテックから次のようなタイトルの囲碁ソフトが
発行されます。(発行予定:1月20日)

 <定石シリーズ@>「はじめての定石30」\3,800円

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このソフトを利用すれば、ゲーム感覚で楽しみながら定石を
覚えることができます。

"定石を覚えて一目弱くなり" という川柳のような結果になる
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”慾神”後日譚(下)

(あらすじ)
この物語りは、寿命を半分提供するかわりに、日本一の碁打ちに
してくれる、という話しを安川敏男と慾神と名乗る男が交わすと
ころ始まった。三段の安川が名人戦を舞台にして勝ち進み、いよ
いよ最終予選を突破してリーグ入りとなったが、ここである出来
ごとが起った。
その出来ごとというのは、作者である城八一さんがとても信じら
れない体験をしたことである。従ってストーリーを変更し、その
体験談をここに発表することにした。

(本編)
翌日、鈴木氏は6時少し前に来た。
「疲れていらっしゃるようですけど・・・・」
鈴木氏は心配そうに言う。たしかに頭が重く全身がけだるかった。
京成電鉄で稲毛は一駅である。浅間神社の左手に在る松林を過ぎ
ると、大きな花輪がずらりと並んでいた。
いつもはぴったりと閉ざされている総檜の門も、今日はいっぱい
に開かれ、通夜の客があとからあとから続いていた。
鈴木氏と私が門をくぐったとき、人々と逆行するように、玄関の
方から一人の小男がヨチヨチとこちらに向かって歩いてきた。
私は息をのんだ。
黒いヨレヨレの服、胸にさした白いバラ、まぎれもないあの男だ!
足が、すくんだように動かなかった。
「どうかしましたか?」
鈴木氏は、私の足元に視線を落した時、男は、私の目の前に来て
いた。ピョコンと頭を下げ、ニヤリと笑った。私はあきらかにお
びえていた。男は、玉砂利の上をはねるような足取りで過ぎた。
「お知り合いのひとですか?」
不自然な姿勢でふり返ろうとした私を、支えるかのようにしなが
ら鈴木氏は訊くのだったが、答える気力もなかった。
そんなとき、私は突然奴の顔が、峰岸達画伯えがく「慾神」の爺
さんにそっくりであることに気づいたのである。
翌日私は、早速酒巻編集長に電話し、10月号の原稿を書き直し、
申し訳ないが完結にする旨を伝えた。
以上で、プラン変更の正直な報告を終わるが、いまもって私の脳
裏には、あの男の顔がやきついて消えないのである。
慾神なるものは、あくまでも私の想像の産物にすぎない。日々さ
まざまな欲望にふりまわされ、そのむなしさを悟ったときはすで
に短い人生のゴールだったという、人間の宿命を、漫画的に描い
てみたいと手をつけたのが「慾神」であった。
しかし、終電車で出会った奇妙な男は、どう解釈したらよいのだ
ろうか。ポックリ病で亡くなった大島さんと、あの男との関りを
どう否定したらよいのだろうか。私は、未だに半信半疑のままで
ある。そして、昨夜も一昨夜も奴の夢を見た。
もし私が、大きな欲望を抱いたら、あいつが現れるかも知れない、
とバカバカしいことを考えたりしている今日この頃であることを
告白しておこう。(完)

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     日本棋院通教便り(第31号)  2004.01.13 発行
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明けましておおめでとうございます。
本来なら、年賀の挨拶も兼ねてこのメルマガは元旦に出すべき
ところ、年を重ねるとともに生来の怠け癖が顔を出すようにな
ったため、こんなにおくれてしまい、本当に申しわけございま
せん。すでに、半月近く経ってしまいましたが、今年が皆様に
とってよいお年であることを願ってやみません。
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<ポカについて−その1>

皆さん、対局の際ポカをやられた経験はありませんか。
今回と次回は、囲碁倶楽部のホームページの自由エッセイ欄に
載った、ポカに関する興味深い考察を紹介します。

●ポカの原因 by とほる 
何しろポカが多く自分でもあきれてしまいます。時間がないわ
けではないのに。
前に「ポカの三浦」というハンドルネームの方がいらっしゃい
ましたが、このごろは「ポカのとほる」になりそうです。
そのポカを少しでも減らそうとして
    「囲碁心理の謎を解く」(文春新書) 林道義著 
を買いました。この本によるとポカには深層心理学的な根深い
原因があるそうで、それはコンプレックスに結びついていると
のこと。つまり相手に対して劣等感・競争心・敵愾心などを持
っていると、その相手に向かったときにはコンプレックスが刺
激されて感情が誘発されてしまう。そうなると平常心を持つこ
とができないのでカッカとしてしまい冷静な注意力が無くなる。
これがポカの原因とのこと。
このことはよく分かるのですが、ではどうしたらよいかが分か
りません。
「心の働きのパターンというのはなかなか直らないものであり、
その固さをほぐして、柔軟になるためには深層心理学的な心の
分析が必要である。」とも書かれていますが、これだけでは何
をどうすればよいか私にはさっぱり分からないのです。
相変わらずポカが続きそうです。
(この本ではそのほか右脳・左脳のことも論じられています。) 
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<お知らせ>
このたび、エンテックから次のようなタイトルの囲碁ソフトが
発行されます。(発行予定:1月20日)

 <定石シリーズ@>「はじめての定石30」\3,800円

このソフトは、初心者がマスターすべき30の基本定石が、
それぞれ手順型と応答型という2種類の問題にまとめられて
おり、はじめて定石を学ぶ方には最適のソフトとなっており
ます。
手順型問題とは、黒白交互に指示された手数だけ石を自分で
打ってゆく方式の問題です。
応答型問題とは、黒石だけを自分で打ってゆく問題です。
黒石を打てば白石は自動的に応手してくれます。
このソフトを利用すれば、ゲーム感覚で楽しみながら定石を
覚えることができます。

"定石を覚えて一目弱くなり" という川柳のような結果になる
ことは、このソフトに限ってございませんので、ご安心を!

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  ◎棋譜管理ソフト「碁マネージャ・プロ」   \12,800円
  ●<対戦型> 最強の問題730          \8,800円
  ●<対戦型> 詰碁の問題850          \7,800円
  ●<対戦型> 手筋とヨセ400         \3,800円
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”慾神”後日譚(下)

(あらすじ)
この物語りは、寿命を半分提供するかわりに、日本一の碁打ちに
してくれる、という話しを安川敏男と慾神と名乗る男が交わすと
ころ始まった。三段の安川が名人戦を舞台にして勝ち進み、いよ
いよ最終予選を突破してリーグ入りとなったが、ここである出来
ごとが起った。
その出来ごとというのは、作者である城八一さんがとても信じら
れない体験をしたことである。従ってストーリーを変更し、その
体験談をここに発表することにした。

(本編)
ポックリ病−−−数年前、徳島県にいた友人が、やはり急死した。
病名が判然とせずポックリ病ということですんでしまったことが
ある。そのときの私は、そんな病名があるのかどうか調べてみた。
しかし、医学に無知識な私の調べでは、次のようなことしかつか
めなかった。
「元気な人が夜間にあっという間に死んでしまうポックリ病は、
梅雨期の未明によくある。副じんや心臓や冠状動脈などの発育が
遅れ、子どもっぽい体質で肉づきのよい人に多い。原因はまだは
っきりしないことが多い」
肉づきのよい人に多い、という点では大島さんに該当するが、時
期的には当たっていない。とすれば・・・ここでまた奇妙な男の
姿がうかぶ。ポックリ病の解説より、奴の言動の方が、ピッタリ
符合するように思えてならない。
「お通夜は、明日の午後6時から、ということなんですけど、先
生は行らっしゃいますか?」
「ええ、行きますが、鈴木さんは?」
「僕も参りますから、6時ちょっと前にお宅に伺います。」
鈴木氏には、終電での出来事は話すまいと思った。(この後日譚
を書けば、結果的には話したことになるのだが、そのときは口外
すべき事柄ではない、と思ったのである)
ここで私は、あえて大島さんの経歴をたどってみる。大島さんと
あの男とのかかわりが、その経歴のなかに、なんとなく匂うよう
な気がするからだけれど、もちろんこれは、私だけの推理であり、
確たる証拠などない。
大島さんは千葉県T市の出身、生家は中流の農家だった。高校を
出ると国鉄に入った。あまり豊かではない農家によくあるケース
だった。弟が家業を引継ぐことになった。30歳の春、父親が亡
くなりその半年後にわずかばかりの山林が、ゴルフ場建設地に入
って、思いがけぬ金がころがり込んだ。大島さんの生活は、その
ときから急変したのである。国鉄を辞め、狂ったように株の売買
をはじめた。周囲の人達の反対も一年たらずでかげをひそめた。
大島さんの売買はすべて図に当り、山林を買った金が十倍にもふ
くれ上ったからである。大島さんは生家をひきはらって、稲毛に
移り住み千坪ほどの敷地に、母親と弟夫婦の家も建てた。そして
現在は千葉市の一等地にパチンコ屋と喫茶店を経営している。
国鉄時代に覚えた碁は、やっと初段程度だが、他に余枝をもたぬ
大島さんにとって、無上のたのしみだったようである。
株の売買を教えてやった、と奴は言う。
大島さんの経歴の中に、それとおぼしき個所がたしかにある。
その事と死亡時刻の一致とをあわせて考えれば、彼のことばの真
実性は、いよいよ似て打消し難い。恐怖に似たものが私の内心に
生れた。−−−その夜も眠れなかった。(つづく)

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     日本棋院通教便り(第30号)  2003.12.10 発行
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<ナゼナゼづくし>
今年の夏サンクトペテルブルクへ行ったとき、グルジアから
来た女性グループと少し会話を交わした。その時、彼女たち
は、ゴルバチョフ時代のソ連外相で、今はグルジア大統領に
おさまっているシュワルナゼの名前をあげたので、知ってい
ると答えたが、その彼が3ヶ月後に失脚するとは予想もして
いなかった。
シュワルナゼの後に大統領代行となった人の名前がブルジャ
ナゼときいて、グルジアはナゼナゼづくしの国かいなと思っ
たが、よく考えてみるとスターリンはナゼがついていない。
ということは、グルジア人のすべてがナゼと言うわけでもな
さそうだ。
ところ変わってルーマニアでは独裁者チャウシェスクの名前
しか知らなかったが、5年ほど前にコンスタンタという黒海
沿岸の保養地で開かれたヨーロッパ碁コングレスに参加した
際、世話になった女性の名前がテオドリスクだった。その帰
りの列車の中で知り合った女の子はオアーナ・イリエスクと
いう名前だった。どうもルーマニアはスクスクづくしの国の
ようだ。
ところかわってセルビアでは、かっての独裁者ミロシェビッ
チは、国際司法裁判所ででの裁きをうけているということで
あるが、そのほかにもミハイロビッチという独裁者もいたよ
うな記憶がある。セルビアはどうもビッチづくしらしい。
それにしても、これらの国々からは独裁者の名前しか伝わっ
てこないのは淋しい限りだ。
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”慾神”後日譚(下)

(あらすじ)
この物語りは、寿命を半分提供するかわりに、日本一の碁打ちに
してくれる、という話しを安川敏男と慾神と名乗る男が交わすと
ころ始まった。三段の安川が名人戦を舞台にして勝ち進み、いよ
いよ最終予選を突破してリーグ入りとなったが、ここである出来
ごとが起った。
その出来ごとというのは、作者である城八一さんがとても信じら
れない体験をしたことである。従ってストーリーを変更し、その
体験談をここに発表することにした。

(本編)
病人ならいざ知らず、ピンピンしている人の死を予知し、しかも
その最期を見とどけに行くのだという。ブラックユーモアという
のがあるけれど、あの男の話にユーモアなどまったくないし、単
なる冗談にしても質が悪すぎる。それに、中央支部や支部連合会
の催しには、いつも積極的に協力してくれる大島さんが、当の人
物とあってみれば、尚更聞きながすことはできない。
そういえば、あの男、どうも常人にはない不気味な雰囲気をもっ
ていた。150センチたらずの身長で足が短く、子供のような顔
立ちをしているくせに、深いシワが妙に陰気だ。果たしてあいつ
の話は、真実なのだろうか。
西千葉駅に着いたのは午前一時半。
否定も肯定もできぬもどかしさから、夜明けまで眠れなかった。
昼過ぎ、日本棋院支部連合会長の鈴木昭五氏からの電話で起され
た。
「いま、中央支部の大岩さんから、稲毛の大島さんが亡くなった、
と連絡があったんですけど、実は私、昨日大島さんと支部で碁を
打ちましてね、びっくりしているんです・・・・」
鈴木さんの声はちょっと上ずっていた。
私は電話器を耳にあてたまま、しばらく声にならなかった。
「血圧は平常だったし、心臓にもまったく異状はなかったらしい
んですけどね」
「亡くなったのは何時頃ですか?」
寿命というやつですナ、と笑いながら電車を降りた奴の顔が、は
っきりうかんだ。
「奥さんが気づいたのは、朝6時頃だったというのですが、医者
の検診によると、亡くなったのは3時前後らしいですね」
「死因は不明なんですか?」
自分の口調に焦りがあることが、よくわかった。
「医者も首をひねっていたようです。よく言うポックリ病でしょ
うか・・・」(つづく)
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     日本棋院通教便り(第29号)  2003.11.05 発行
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<千葉周作道場玄武館掲示、剣術初心者心得>

剣術初心のうちは、稽古に理非善悪の沙汰は、あまり深くはいらぬ
ものなり。ただ師の教えに従い稽古数をかけて、一心不乱に稽古す
れば、自然と妙心に至るものなり。仏道においてただ一心に念仏を
唱えよ。念仏さえ唱うれば、自然に悪心は消えて善心となり、極楽
へ行かるとのことなり。剣術もそれと道理にて、稽古数かかりさえ
すれば、おのずど微妙の場に至るものなり。

この心得は、たとえば定石を覚えるときなど、囲碁の学習にも当て
はまるようなな気がします。(伊藤)
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"慾神"後日譚(上)

(あらすじ)
この物語は、寿命を半分提供するかわりに、日本一の碁打ちにして
くれる、という話しを安川敏男と慾神と名乗る男が交わすところか
ら始まった。三段の安川が名人戦を舞台にして勝ち進み、いよいよ
最終予選を突破してリーグ入りとなったが、ここである出来ごとが
起った。
その出来ごとというのは、作者である城八一さんがとても信じられ
ない体験をしたことである。従ってストーリーを変更し、その体験
談をここに発表することとした。

(本編)
「あなたの"慾神"を愛読しているのですが、正直なところちょっと
気に入りませんね・・・」
私の手にしている雑誌が「囲碁クラブ」だということは、表紙をみ
ていればわかるし、"慾神"を愛読しているということも肯ける。
だが、私が筆者であることを、どうして・・・?
「そこに、書いてありますよ」
男は、私の膝の上にある紙袋を指して、ニヤリとした。なるほど、
友人のカナダ土産であるカウチンセーターの入った紙袋に、城八一
様、と大きく書いてあった。
「そうですか・・・どうも・・・」
私は苦笑した。
「ところで、あの安川という男は名人になるのですか?」
困った。結末を話していいものかどうか、私は迷った。
「さあ・・・まだ考慮中ですが・・・」
「名人にしてやるんですナ。読者は、つまり碁を打つ人達は、みんな
心の片隅に、ああいう夢を抱いている。あなたも、その夢をかなえ
てやるために、あれを書いたのでしょう。中途半端なものにしては
いけません」
随分はっきりものを言う奴だと思った。
「それと、気に入らないのは、あの慾神です。あんな気のいい慾神
はいませんよ。いかに契約がほしいからといって、慾神にあるまじ
き行為です。あなたの考えはアマすぎる」
これほど関心をもってくれる読者はいないだろうし、作者としては
ありがたいことに違いないが、それにしても、こっちの領分に立入
りすぎる。
「どちらまで・・・?」
話題を変えようと思った。
「稲毛までです」
稲毛は、私の下車する西千葉駅の一つ手前である。
「ほう、稲毛にお住まいですか?」
「いや、かかわりのある男が、今夜、死ぬのでね。最期をみとどけ
てやりに行くんですよ」
まるで遊びにでも行くような口調である。
「それはどうも・・・助からないご病気なんですか・・・?」
「病気?とんでもない、ピンピンしていますよ」
「・・・?」
私は思わず男の顔を見た。なんというばかげた冗談を言う奴だろう。
「本当ですよ。・・・大島という男ですがね、二十年ほど前に知り
合いましてね、その当時は国鉄に勤めていましたが、私が株の売買
を教えてやったお陰で、今では大金持ちです」
大島・・・私は知っている。棋院の千葉中央支部の会員であるあの
大島さんなら、よく知っている。
「浅間神社の近くの大島さんですか?」
「そうですよ、相撲とりのような身体をした男ですよ。知り合いで
すか?」
「え、いいえ・・・お名前だけは・・・」
なぜか私は、言葉をにごした。奇妙なその男の雰囲気に、不気味な
ものを感じたからかも知れない。
大島さんなら、一週間ほど前に千葉中央支部で会った。相変わらず
元気で、好敵手のAさんと、豆をまくような早碁を打っていた。
あの大島さんが、間もなく死ぬ。とても信じられない。この男の正
体は、いったい何なのだろう。
もう一度、たしかめようと思ったとき、電車が止った。稲毛だった。
「寿命というやつですナ・・・ではご免なさい・・・」
男は、笑顔をみせると、ヨチヨチした足取りでホームの向うに消え
た。(つづく)

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"碁というゲームの本質"
 
以下は、囲碁倶楽部のホームページの「自由エッセイ」に掲載された
一文の紹介です。(◆とほる ◆03年09月16日)
 
私の碁は相手の石を取りにいき、かえってこちらにほころびが出て壊
滅してしまうことの連続です。たまに上手くいくことがあるのでこの
癖はなかなか直りません。
直らぬのならこのままいこうかと思っていました。
ところがこの度、平本弥星氏(学生本因坊・三菱レ−ヨン・プロ棋士
6段)の「囲碁の知・入門編」(集英社新書)の下記の文が目に
とまりました。
自分自身の大いなる反省を込めて、一部要約をしながら掲載させて
いただきます。
 
「碁は、生物の生存競争と同じように、より良く生きようとするゲー
ムです。より良く生きて、相手よりもわずかでも多く同種を存在させた
方が優れているというゲームです。碁は相手を否定するゲームではあり
ません。目的はより良い生存なので、必要のない限り相手を殺そうとは
しません。相手を殺そうとするより、自分の生存を増やそうとする方が
有利だからです。
ところが、人間という生物はどこかが壊れているのか、生物として合理
的な行動といえない攻撃性を現すことがあります。生物としての生存
を見失って、相違や対立を受容できなくなり攻撃性が潜在的に増幅
されからです。
碁は本質的には共生のゲームです。しかし、人によって攻撃のゲーム
になります。そして、殺そうとしては勝てないことを知ることができま
す。相手の存在を認めて、相手に劣ることがないようにしっかり生存し
ようとする、それが碁というゲームです。」
( 私は合理的な生物ではなくどこか壊れているということです。) 
 
<パロディ百人一首:伊藤>
 
お互いの布石のどけきその後にしず心なく石の死ぬらん
 
アマの碁を振り返りみれば敗因は勝負のヤマに逃げしツキかも
 
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"慾神"後日譚(上)
 
(あらすじ)
この物語は、寿命を半分提供するかわりに、日本一の碁打ちにして
くれる、という話しを安川敏男と慾神と名乗る男が交わすところから
始まった。三段の安川が名人戦を舞台にして勝ち進み、いよいよ最
終予選を突破してリーグ入りとなったが、ここである出来ごとが起った。
その出来ごとというのは、作者である城八一さんがとても信じられない
体験をしたことである。従ってストーリーを変更し、その体験談をここ
に発表することとした。
 
(本編)
10月号の原稿を編集部に届けたのは、8月9日であった。暦の上で
は7日が「立秋」だったけれど、午前中からすでに30度を超えるほど
の猛暑。秋の気配などみじんも感じられない不快きわまる日だった。
酒巻編集長と結末までの筋立てについて話合い、棋院を出たのは
午後1時頃だが、そのときは、まさか届けた原稿の後半を書き直すよう
な事になろうとは夢にも思わなかった。
先月号でもちょっと触れた友人の家は、四谷にある。私が映画会社に勤
めていたとき世話になった、先輩の倅だが、10年ほど前に芸能プロダ
クションのオーナーになり、現在はかなりの成績をあげている。交際の
間口が広いいわゆるネアカの性格と、抱えたタレントに恵まれたことか
が成功の因だけれど、若葉町という住宅街にりっぱな邸宅を構え、夫婦
と息子二人が、なんとも優雅な生活をたのしんでいる。
一年ほど前一緒にゴルフをやって以来の対面だったので、話がはずみ、
夕食後は一局五千円の碁を打ったりして、お茶の水発〇時24分の千葉
行終電車にやっと間に合う時間まで遊び呆けた。
お茶の水を発つときガラガラだった電車だが、次の秋葉原駅に着くと、
銀座をはじめ山手線沿線で働く水商売の人達がどっと乗込み、たちまち
満員になる。その半ばは女性なので、華やかであっていい訳なのだが、
なるほど脂粉の香は流れていても、彼女達の顔には一様に疲労のかげが
濃く、心にもない媚を金と代えたことへのフンマンからか、不機嫌に押
黙って周囲の空気を重くしているのだ。妙にべとついた体臭は、ナマの
女を感じさせ、裸を見るような味気なさがあるので、私はついいちばん
隅の座を占め、できるだけ女達から遠ざかる。そしてやり場のない視線
に困惑する不愉快さを避けるため、編集部で貰った「囲碁クラブ」の9
月号をひらく−−−−−−
私は巻頭のグラビアを毎号たのしみにしている。9月号は「林、本因坊
防衛、不沈艦海峰」と題した特集だが、第1局から第5局までのさまざ
まなスナップと、「強さとやさしさの同居」の見出しで、愛息敏浩君
(9歳)と代々木公園でキャッチボールに興じている父親林海峰の、ま
ことにほほえましいカラー写真が、2ページ一杯に載っている。これは
これでいい。だが欲をいえば、対局中のさまざまな表情をこくめいに追
う組写真がほしい。命がけで戦う大勝負の迫力を、読者に伝える方法は
これ以外にない。けわしい表情で盤面を凝視する棋士の顔は、無我の美
しさに満ち、いかなる文章家でも筆にはのせ得ぬものが、そこにある
。もし、盤上の動きと共に微妙な変化を見せる棋士の表情
を、活写することができたら、恐らく凡百の観戦記などふっとぶだろう。
客の大半が小岩、市川の両駅で降り、車内は急にガランとした。
「熱心ですな・・・・」
空席になった私の隣りへ、いつの間にか新しい客が来ていた。声をかけ
られ、ふっと目をあげると、年の頃は五十歳前後、オヤッと思うほど小さ
な男だった。風態が異様だった。ヨレヨレになった黒の背広はまだいいと
しても、この暑さに、きちんとチョッキを着ている。ヒモのように細く
なったネクタイも黒だった。更に目立つのは、襟にさした純白のバラであ
る。造花ではない証拠に、萎れている。
痩身小躯、どうみても奇術師のなれの果て、といった感じである。
シワの多い顔は、年令以上に老けて見える。どこかで合ったような気が
したけれど、思い出せない。(つづく)
 
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     日本棋院通教便り(第27号)  2003.09.09 発行
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"才能" 

以下は、囲碁倶楽部のホームページの「自由エッセイ」に掲載された
一文の紹介です。(◆とほる ◆03年09月01日)

私の入っているプロバイダBrobaが8月31日故障して、碁が全く打てな
い1日になってしまった。そのために我ながら真剣にNHKの小・中
学生の囲碁優勝戦を見た。勝った方も負けた方も強い。テレビカメラ
の前でも堂々としている。プロの道に行く可能性は高いのだろうがこ
の強さはうらやましい。素人の私なりに囲碁倶楽部のランクを推測し
てみると、中学生は8〜9段、小学生は7〜8段ぐらいだろう。
毎年数人こんなに強い子が出てくる。神が与えてくれる才能というの
は不思議で不公平なものだ。後輩に大学に行こうかプロの棋士になろ
うかと悩み、結局一流と言われる大学にあっさり入ったのがいた。確
率的にいえばいくら難しいといわれる大学でもプロ棋士になるよりは
楽だ。
今度囲碁倶楽部で解説してくれる石倉九段は東大を出てからプロにな
った。神は時々特定の人に二つ以上の才能を与えるときがある。その
反対に私のように何の才能ももらえないのもいる。繰り返すが不公平
だ。でもこの年になるまで大病したことはない。このことは神と先祖
に感謝している。
才能と一口に言っても大変な努力が必要であろうが、才能に恵まれな
い場合はどんなに頑張っても伸びに限界がある。これは自分の経験で
はっきりしている。ところがその才能がはたしてあるのか、あったと
したらどの程度なのか、または全く無いかなどがなかなか分からない。
恵まれたとしても中途半端な才能では危険だ。将棋や囲碁の世界でプ
ロになれずに去っていく人も多いと聞く。いろいろあるから人生は面
白い。
人生の終点近くなってきてから、やっと自分の才能の程度が見えてく
るものらしい。でも残念ながらそのころにはもうボケが始まっている
(これは自分のこと)。 

<パロディ百人一首:伊藤>

負けがこみ人の碁如何にと眺むれば いずこも同じヘボの幕切れ

かくとだに石は瀕死のさしもぐさ さしもしらじな投ぐる思いを

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【連載小説・第16回】−慾神との別れ−

【作者より】
なんとも不本意な結末になったことをお詫び致します。
初めのプランでは、リーグ戦でも安川旋風が吹きまくり、超一流の
メンバーをなで斬りにして、遂に挑戦者にのしあがるところまで書
くつもりでした。
おもしろいエピソードや、皆様の意表をつくドンデン返しなど用意
していたのですけれど、それも陽の目を見ずにおわってしまいまし
た。
本当に残念でしかたがありません。
なぜこんな幕切れになったのか−−−−。
その全容はいずれ来月号で詳しく説明致しますので、いまは発端だ
けを申上げておきましょう。
先月号の原稿を編集部に届けたあと、芸能プロダクションを経営し
ている友人の家を訪れました。仕事でカナダに行き土産にカナダイ
ンディアンの手編みで有名な、カウチンセーターを買ってきたから
暇な時に取りに来いと言われていたからです。久しぶりに会ったの
で、食事をしながら話しこみ、帰りは終電車になってしまいました。
そこからが問題なのです。
零時過ぎの終電から、翌日の夕刻まで二日間に起きた出来ごとが、
私から、この「慾神」を書く意欲をうばったのです。
いま突然、私が、慾神に、いや慾神らしき奴に出会った、と申上げ
たら、間違いなく皆様は、そんなバカな、と一笑に付されるでしょ
う。
まことに当然であります。そのことを承知の上で私は、後日譚を書
きます。
多くの読者の中には、私と同じような体験をされた方が、いらっし
ゃるのではないでしょうか−−−−−。
ある知人の急死にからむ不気味な「後日譚」、御一読をねがってや
みません。
                     城 八一拝(つづく)
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     日本棋院通教便り(第26号)  2003.08.08 発行
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「道具を大切にする心---イチローの真言」 

以下は、囲碁倶楽部のホームページの「自由エッセイ」に掲載された
一文の紹介です。(◆すばる ◆03年06月20日) 

大リーグ1年目にして旋風を巻き起こしたイチロー選手が、シアトル
の小学校のちびっこ達を前にして、「何かに上達したいと思うなら、
そのための道具を大事にしなければいけない」と、教える場面があり、
それを観ていた私は、意味はよくわからないけど、これは真実の言葉
だ、と直感したことがありました。
そのとき、手元に3万円で買った新品の桂4寸碁盤がありました。買
ってから半年、ほとんど手入れしていませんでしたが、その日から、
棋譜並べが済むと、せっせと空拭きをする毎日に変わりました。でも
「できたらやりたくない無駄な時間だ」という、消極的な気持が続い
ていました。
それから1年余、毎日毎日、碁盤の空拭きが続いていました。桂盤な
がらも、盤面、盤側、裏面とてらてらと光る碁盤に変わっていました。
そして今日、何気なく空拭きしながら、自分の内心の変化に気づきま
した。
碁盤磨きは「できたらやりたくない無駄な作業」から、いつのまにか
「自分の真心をこめての作業」に変わっていました。そして、磨かれ
ている碁盤や盤面は「自分の真心を発現するための、価値ある空間」
に変わっていました。
道具を大切にメンテする作業とは、その道に対する 真心、自発性、
価値づけ等をしっかりと養い育てていくプロセスだったのです。
そして今晩もまたパソコンの前に座って対局にいそしむそこの貴方!
上達したければ、パソコンやマウスをしっかりと空拭きするんですよ。 
 

<パロディ百人一首:伊藤>

我が囲碁は盤の片隅しかと打つ よをコリ形と人は言うなり

敵陣の囲み踏み分け逃ぐ石の 死を見る時ぞ囲碁は悲しき

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【連載小説・第16回】−慾神との別れ−

(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ち
かけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちに
してくれるというのである。対局が始まると「16の一七、小目」
といった具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
ノータイムで勝ち進む安川を、世間は、「ミラクルマン」とはやし
たてたが、安川も内心ではいろいろと苦悩があり、慾神に背くよう
なこともあった。しかしついに名人戦のリーグに入り、テレビ朝日
の「囲碁名人戦」に出演したりした矢先、思いがけないことが持ち
上がった。

(本編)
爺さんには、安川の寿命があと何年かということも判っているらしく、
つまらぬ欲望に負けず、平穏無事な家庭生活を営むことに専念すれば、
やがて孫の顔も見られるし、天命どおりの大往生をとげられる、と言
いきった。
安川の両親は健在で、埼玉県のO市に、手打ちうどんの店を経営して
いる。安川の祖父の代からの老舗だから、名も通っているし、珍しい
うどん料理が評判で、遠方からの客も多い。東京の池袋にも、安川の
妹夫婦が支店を出し、繁昌している。もともと両親は、安川がプロ棋
士になることには反対だったし、さっぱり芽の出ない成績も知ってい
る。二、三年前からしきりに帰郷をすすめていた。
「わるいことは言わない。早い方がいいよ。五段、六段というあんた
の夢は、無理だとわかっているんだ。それに、近頃のあんたは、実力
ではない虚構の上に成り立っている生活と、良心の声におびえてダウ
ン寸前だ。・・・ワシはあんたが好きだ。だから、慾神にあるまじき
忠告をしている。考えておくれ、この通りだよ・・・」
爺さんは手を合わせ、頭を下げた。
安川の心は動いた。棋士を廃業して埼玉県へ引込めば、川村先生をは
じめ、私の欲望のギセイになった人達に対する謝罪にもなるだろう。
うどんや稼業も、真剣に取組めば、棋士とは違った生甲斐が生まれる
かも知れない。女房だって、じっくり話合えば納得してくれるだろう。
「そうかい、わかってくれたのかい、ありがとう!これでワシも安心
して中国へ旅立てる。よかった、よかった・・・」
爺さんは、やっと笑顔を見せた。
「これは大事なことだけれど、変な奴に声をかけられても、決してこ
とばをかわしてはいけないよ、いいね・・・」
爺さんは安川を市ヶ谷駅まで送ってきた。
改札口を入って振向くと、子供のように手を振っていた。安川も手を
あげて応えたが、別れの感傷がどっとこみあげ、爺さんの姿がにじん
だ−−−−
(つづく)
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「碁の才能」

以下は、囲碁倶楽部のホームページの「自由エッセイ」に掲載された
一文の紹介です。(◆碁の才能 ◆とほる ◆03年06月15日) 

養老孟司著「バカの壁」の中に次のような一節があります。
「イチロ−選手がどうしてピッチャ−の球に早く反応できるか,それは、
ピッチャ−の球を見る→脳のいくつかの神経・シナプスが反応する→
脳から手足の神経に命令がいく→バットを振るいう、A→B→C→D
の流れの途中をすっ飛ばしてA→Dの反応ができているからで、これ
は常人のできることではない。脳の中の反応をすっ飛ばすことができ
るのは先天的な能力である。」
これを碁の世界で考えてみると、先天的に碁の才能のある方は、「A
と打てば→相手はBと打つ→そうしたらCと打とう→相手はDと打つ
だろう」などという一連の考えの途中をすっ飛ばしてA→Dが分かる
ではないでしょうか。常人はAからDの流れにいろいろな変化がある
ものですから、途中で分からなくなり霧の中に入ってしまいます。
もちろん先天的な才能を持っている方でも、A→Dができるためには
激しい訓練が必要でしょうが、常人がいくら訓練してもここに達する
ことはできまないでしょう。
「えとえと」さんをはじめ、この「囲碁倶楽部」の高段の方々から
「先天的な能力」についてのご意見を聞かせていただきたいと思い
ます。
私は才能に恵まれなくとも碁を楽しんでいますからこれはこれで良
いのですが。 

<パロディ百人一首:伊藤>

お互いの布石のどけきその後にしず心なく石の死ぬらん

アマの碁を振り返りみれば敗因は勝負の山に逃げしツキかも

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【連載小説・第16回】−慾神との別れ−

(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ち
かけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちに
してくれるというのである。対局が始まると「16の一七、小目」
といった具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
ノータイムで勝ち進む安川を、世間は、「ミラクルマン」とはやし
たてたが、安川も内心ではいろいろと苦悩があり、慾神に背くよう
なこともあった。しかしついに名人戦のリーグに入り、テレビ朝日
の「囲碁名人戦」に出演したりした矢先、思いがけないことが持ち
上がった。

(本編)
「碁打ちをやめる気はないかね?」
なに?碁打ちをやめる!?・・・・安川はびっくりした。ずいぶん
乱暴なこと言うじゃないか。なぜだ?・・・。
「では、説明しようかね。気を落ち着けて冷静に聞いておくれよ。
いいかい・・・」
安川は、頷くように、コップの水をゴクリと飲む。店内に流れるク
ラシック音楽のボリュウムが、いつもより高いのではないかと思っ
た。
「ことの起こりは、あんたとの契約問題で、一年間のサービス期間
を設けた、あれなんだよ。憲法第九条に違反する行為だということ
は、いつだったか話したね。それがまた、若い奴らの突上げで大会
にかけられ、とうとう解約すべしという結論になった。つまりだね、
今日からもう、あんたにはサービスできないのだよ」
「というと・・・・・?」
「ワシは今夜、中国へ発つ。そして、代わりの奴があんたを担当す
ることになる。もちろん即座に本契約だ。ワシ以外の慾神は、みん
な執拗だよ。恐らくもう、あんたの家の近くで、帰りを待っている
だろう」
「本契約になれば、寿命の方も・・・」
「むろんだよ。あんたが碁打ちでいるかぎり、いつまでもつきまと
う。おどしではない、それが慾神の仕事なんだ」
そんな・・・・そんな理不尽なやり方はひどすぎる!・・・たしか
に私にも責任の一端はあるだろう。でも、一年間はサービスすると
いうから、話に乗ったのだ。
「ワシも悪かった。あやまるよ。だが、もうグズグズしている時間
はない。頼むからワシの言うことを聞いておくれ・・・」
爺さんは、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。話すことばにも
真実味があった。その意見と対策を要約すると、こういうことにな
る−−−−
結論を先にすれば、安川は棋士をやめて生家に帰り、両親の稼業を
引継いで、平凡な生活に入るべきである、というのだ。
(つづく)

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「囲碁はボケを防ぐか」

●東游軒説

結論からいうと、囲碁はボケを防ぎません。なぜかというと、ボケの主
要原因は右脳の発達維持とあまり関係がないから。
ぼくの本職は老人ホームの生活相談員で、詳しくは特別老人ホームに併
設のデイサービスセンターのセンター長兼生活相談員です。ここでの老
人を見ていて思うのは、ボケの主要原因は本人の脳の機能の問題ではな
くて、定年後に生活環境が変わる、そのことにあるんですね。
・・・・
これは、ネット通信教授の会員広場に03年05月09日に"東游軒"という名
前で書き込まれた内容の一部である。

●林道義説

碁を打つためには頭を使うので、脳の使い方の訓練になるのは当然のこ
とである。しかし、碁は単に頭を使うというだけでなく、頭の使い方が
たいへん高級なのである。
一口に「頭」とか「脳」とか言っても、周知のように、いろいろな部分
がある。「大脳皮質」の中にも、すぐれて「人間的」と言うべき「前頭
連合野」という部分もあるし、記憶を司る部分や、左脳と右脳という分
業もある。碁を打つときには、それらのどの部分を使うのであろうか。
結論から言うと、碁を打つときには、それらの全ての分野を使うのであ
る。もちろん初心者のうちは、全部を使うわけではなく、部分的に使う
が、上達するにつれて、全部使うようになっていく。・・・・

これは、林道義 著「囲碁心理の謎を解く」からの抜粋である。

●結論(よくわからない)

ここで林道義氏も「囲碁はボケを防止する」と言っているわけでは決し
てないということに注意する必要がある。
ボケとはどのような状態を意味するのか厳密な定義はよくわからないが
、囲碁に関してはボケてはいないが、囲碁以外のことではボケてしまっ
ているという人がいれば、「囲碁はボケを防止しない」、そういう人が
いなければ「囲碁はボケを防止する」と言えそうだ。
囲碁愛好家としては「囲碁はボケを防止する」ものであってほしいと思
うが、東游軒説のようにボケの主要原因は本人の脳の機能の問題ではな
くて、その人の環境適応能力に関係するというのであれば、囲碁はボケ
を防止しないことになる。
囲碁をやっていればその人の環境適応能力が高まるというのであれば、
話は別であるが、どうもそのへんのところはよくわからない。(伊藤)


<パロディ百人一首:伊藤>

打ち過ぎて後手来にけらし白石に大場あげちゃう黒のムダ石

石の色は移りにけりないたずらに我が身白持ち慢心せしまに

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(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけ
られた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれ
るというのである。対局が始まると「16の一七、小目」といった具合
に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたて
た。そんな折、安川は尊敬する川村九段と対局。苦悩する安川は、一時
は慾神の指示に逆らうが、結局勝ち、名人戦リーグ入を果たした。

(本編)
石田九段の歯に衣着せぬ鋭い質問は、容赦なく安川を追いつめ、もう少
し続いたら真実を白状していたかも知れない、と思われるほど、安川の
良心を叩いた。
対談は10分ほどで終わったが、逃げるように日本棋院を出た安川は、
その歩調までが乱れていた。
「疲れたろうね・・・・聞いていてワシもハラハラしたよ」
坂の途中で爺さんの声が聞こえた。
「喫茶店へ行ってから、ゆっくり話すけれど、実は、大変なことがおこ
ってしまって・・・・」
姿の見えない爺さんの声は、妙に沈んでいた。大変なこととは、いった
い何だ、と気にはかかったが、いまはもう口をひらく気力もなかった。
フラフラした足どりで、やっと喫茶店に着き、ホッとした。爺さんも姿
を見せていた。心なしか顔色が冴えない。
「何から話そうかナ・・・・ワシらの世界のことは、いつだったか、ち
ょっと話したことがあるけれど、人間社会以上に生存競争がきびしくて
ナ、足を引っ張る奴がいっぱいいる。ワシもとうとうあんたのことで、
日本を追われることになったんだよ」
日本を追われる?・・・・どういうことなのだ。この私との関係は?
・・・・
思いもよらぬ事態を、爺さんは辛そうに語り始めた。
「ワシは、中国へ行く・・・・・」
爺さんは寂しそうに目を落す。
「左遷だよ・・・・。ワシたちの新しい活躍の舞台だから、ベテランに
開拓してもらうのだ、と体裁のいいことを言うけれど、日本に比べたら
、欲望のケタが違う。しかも赴任先は杭州という観光地だ。のんびりは
できるだろうが、とても仕事にはなりそうもない・・・」
仕事になろうとなるまいと、それは爺さんだけの問題だ。こっちにとっ
て重大なのは、爺さんが中国へ行ってしまった後がどうなるか、という
ことだ。
「そう、そのことなんだよ、ワシがあんたに相談したいのは・・・」
爺さんの表情がこわばった。
(つづく)
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【美しい碁】
よく人は「美しい碁」という言葉を口にする。
「美しい碁」とはどういう碁のことだろうかと、前々から疑問に思っていたが、
最近『ひとはなぜ「美しい」がわかるか』という橋本治の本を読みかけて、
少しは「美しい碁」というものがわかったような気になった。
橋本治によると、人は「美しい」を直感的に判断できるが、それがなぜ
「美しい」のか「美しくない」のかを後から分析してみると、結局「美しい」と
は「合理的」であるということだそうな。
ただその対象が男から見た「女」の場合は「美しい女」よりも
「いい女(=**たい女)」という邪念的判断の方が先に来て、物事をや
やこしくするということだそうな。(原文にある**をここで表記するのはは
ばかられるので読者の想像にまかせる)
しかし、対象が「女」や「男」と違って「囲碁」の場合は、
「美しい」=「合理的」と考えてまず間違いなさそうである。
私はかってプロ棋士に一対一で指導碁を打ってもらったことがあるが、そ
の対局中に先生の打つ手をことごとく美しいと感じたことがある。それは結
局のところ、相手の打つ手は自分の手にくらべてなんと理にかなっているこ
とかといちいち感心した結果、美しいという感情が生じたと思われる。
碁を打つときは、勝負にこだわるよりも美しさにこだわりたいと私はつねづ
ね思っている。ところが、いざ対局を始めて手数が進むにつれ、美しさを求
める心はどこへやら、ただただ勝負にこだわったきたない碁になってしまうの
はどうしてなのだろう。
(伊藤)
 
<囲碁のことわざ-004>
●碁で負けたら将棋で勝て
あることで失敗しても、くよくよせずに他のことで取り返せ、
という教え。
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【連載小説・第14回】−安川、テレビ出演−
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ち
かけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちに
してくれるというのである。対局が始まると「16の一七、小目」
といった具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたてた。
そんな折、安川は尊敬する川村九段と対局。苦悩する安川は、一時
は慾神の指示に逆らうが、結局勝ち、名人戦リーグ入を果たした。
 
(本編)
「囲碁名人戦」の録画どりは。日本棋院の二階ホールで行われる。
安川としてはもちろん初めての経験だった。こうこうたるライトがやたらに
まぶしく、デンと据えられたカメラに睨みつけられる。
「生放送ではありませんからNGを出してもいいんです。気楽にやってくだ
さい」というディレクターのいたわりも上の空で聞いた安川は、どうにもなら
ぬほど上気していた。
竜騎兵の司会のことばと、石田、安川の紹介が終了、いよいよ対談開
始だ。
「安川さんは、ノータイムの連続とか、第一着に4時間というような、前代
未聞の記録をつくられましたけど、何か特別なお考えがあったのですか?」
竜騎兵がまず安川に水を向けた。
「・・・・いいえ、何もありません・・・・」
「いつだったか、週刊誌で、あなたには神様がついている、というふうな発
言をしていたようですが・・・・」
「・・・・そうですか・・・・」
「その辺のところを、ちょっと話していただけませんか?・・・」
「打っているのは私だ、ということだけです」
微妙な答えだったが、これでは竜騎兵も二の矢がない。石田さん、
何か・・・・と石田にバトンを渡した。
「どうも、神様がどうのこうのといった話は、バカバカしくて・・
それに、ノータイムのことも、打とうと思えば、僕にだって打てるし、神様に
結びつけるほどのことじゃない。問題は碁の内容ですよ。
・・・・僕は、今日の対談のために、名人戦の棋譜も連敗している大手
合などの碁も、調べたんですがね、正直なところ、碁を打つのが厭になり
ましたよ」
面白そうな話ですね、と竜騎兵が相槌をうつ。
「いや、深刻な話ですよ。・・・・そこで安川さんに訊きたいんだけど、名人
戦以外の碁は、全部捨ててるんですか?」
「・・・・?・・・・」
「いいかげんに打っているのですか、ということです」
「いいえ、そんなことは・・・・」
「名人戦の碁と、他の碁とでは内容がまったく違う。同じ人の碁とは思え
ない。失礼かも知れないけど、片方はまるで碁になっていないし、名人戦
の方は道策と丈和と秀栄が一体になっているような、驚嘆の一語につき
る内容なんですね。僕なんか足下にも及ばない。
・・・・不思議なのはその点です。どっちが本当の安川さんなのか・・・・」
(つづく)
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     日本棋院通教便り(第22号)  2003.04.04 発行
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<朝ドラ何でだろう>
NHKの朝の連続テレビ小説(朝ドラ)を見始めて10年ちょっとになる。
それまでは、会社の出勤時間が早く、とても見る時間もなかったし、
そのためかそれとは別の理由からか、朝ドラそのものにもまったく興味が
なかった。ただ、世間では「お花はん」とか「おしん」とかが話題になって
いたことは知っていたが。
ところが、この10年、朝ドラの時間が過ぎてから出勤できるようになって
から何とはなしに朝ドラを見るようになってしまった。
それからこれまでに20本近くの朝ドラを見続けて一つ疑問が湧いてきた。
どうして朝ドラは次から次へとこうも女ばかりの主人公が続くのだろう。こ
れでは男は主人公オーディションから閉め出されてしまい、新人登竜門
が入り口のところで閉ざされてしまっている。これって男女雇用均等法に
反する不当な差別ではないのか。
何、大河ドラマの方は大体男が主人公と決まっているから、朝ドラの主
役が女ばかりでも、全体として男女のバランスがとれているからいいじゃな
いかだって。
ドラマの世界のもそれぞれ男女の役割があるのだからといって、
    朝ドラ   = 女主人公 = 日常性
    大河ドラマ = 男主人公 = 時代性
というふうに、十把一絡げしてしてしまって本当にいいのだろうか。
 
それはさておき、かっての将棋をテーマにした「二人っ子」のように、
今度は囲碁をテーマにした朝ドラがそろそろ登場してもいいのではな
かろうか。(伊藤)
 
<囲碁のことわざ-003>
●碁で勝つものは将棋で負ける
一方で得ることがあれば、他方で失うことがあるということ。また、
ある一面で長所を持つものは、他の面で短所があるということ。
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【連載小説・第13回】−安川、テレビ出演−
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ち
かけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ち
にしてくれるというのである。対局が始まると「16の一七、小目」とい
った具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたてた。
そんな折、安川は尊敬する川村九段と対局。苦悩する安川は、一
時は慾神の指示に逆らうが、結局勝ち、名人戦リーグ入を果たした。
 
(本編)
安川の名人戦リーグ入りが、主催紙の朝日新聞によって報じられる
と、碁界の話題は、さまざまは憶測と共にとどめなく発展していった。
川村九段との碁で、立上りの大斜定石を間違えたのも、勝利をドラ
マティックにすためのもので、いやらしい作意が匂う、というような説まで
出てきた。そして更に、大手合や他の棋戦で14連敗しているのも、
同じ意図による産物で、明らかに計算された話題作りなのだ、と断じ
る者もいた。
しかし、そんな力が、安川といううだつのあがらなかった男にあるのか、と
いうことになると、誰もが否定せざるを得ない。そこで神様説が浮上する。
対佐野八段戦、対川村九段戦で見せた綱渡りも、すべてノータイム
の連続でしめくくる離れ業も、到底人間の芸とは思えぬ。どんな神かは
不明だが、安川の背には神がいる。安川はその神のあやつる、
傀儡にすぎないのだ。・・・・たび重なる奇怪な出来ごとを根拠とする憶
測や推理は、かなり真相に近い。だが、ここでストップする。
そして解明できぬいらだちが、新たな好奇心を生み、安川旋風は全国
的な規模で吹きまくった。当然、安川の周辺はさわがしくなり、
次々と変化が起った。
まず稽古先の態度が変った。稽古料が倍増され、扱いもばか丁寧に
なった。そこまではいいのだが、以前は三、四人しか集まらなかったのに、
最近は十人、二十人とふくれ上ってきた。しかもその人達のほとんどが、
話題の人との接触だけを目的としたものだった。
自力で獲得した名声だったら、よろこんで受け入れることもできたろうが、
安川には胸を張る何ものもない。ただ、虚名の重さと苦痛だけがあった。
碁とは全く無関係な週刊誌から訪問記事を、と申込まれたり、ある製
薬会社のコマーシャルに出演してくれないか、と口がかかったりしたが、
安川はそのすべてを断った。
狂った生活の波長は、次第に安川の精神状態をも乱しはじめた。眠
れぬ夜が多くなり、灰色の日が続いた。極端に無口になった夫の様子
を気づかい、なぜ、と原因をたずねる細君に、答えられぬもどかしさから、
つい怒声がとぶ。所得倍増の喜びなど、みじんもない毎日だった。
そのようなとき、朝日の田村竜騎兵から、テレビ朝日の「囲碁名人戦」
で、リーグ入りを決定した対川村九段をとりあげたいのだが、
あなたに是非出演して頂きたい、という話がきた。解説は石田芳夫
九段で、二人でやってほしい。また、解説の前に、竜騎兵の司会で、
石田九段との対談もお願いしたいのです、と言う。
・・・・困った・・・・
慾神のことがなかったら、即座にOKするのであろう話である。
・・・・断る理由がない・・・・
でも安川は一応断った。自分には解説する力などありません。喋ること
もニガ手なのでご勘弁願いたいのですが・・・・。薄弱きわまる理由だと
安川は思った。
やっぱりだめだった。視聴者からの希望もテレビ局に殺到しているし、喋
る方は自分がうまく司会するので、対談だけでも出てほしい、
と結局は納得させられてしまったのだった・・・・。
(つづく)         
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     日本棋院通教便り(第21号)  2003.03.04 発行
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<白を持ちたがるのはなんでだろう>

白と黒の碁石で争う囲碁では、なぜか皆白石を持ちたがる。
それは上級者側が白を持つことになっているからなのか。
それとも白のほうが黒より尊い色だと思っているからなのか。
碁の故郷である中国では、20世紀初めまで黒=上級者だったそうな。
エッ、ウソー!
その理由としてものの本には次のように書いてあるから、まんざらウソでも
ないだろう。
中国では、赤味がかった黒色を意味する「玄(くろ)」を奥深い色とし、一
方白は無位無冠の平民の服の色だったのだ。
「素人」「玄人」という言葉も、「素」は染めのない白い布から「物事に未
経験」を意味し、「玄」は何度も染め返して生まれる黒い色、つまり「経験
の豊かさ」の意からきているそうな。 
そういえば、外国には黒が美しさの象徴としての意味も合わせ持っている固
有名詞が意外と多い。「黒竜江=アムール川」とか「黒海」とかである。
なぜ日本人だけが白を尊い色とみなし、白に執着するのか理解できない。
我々はもっと黒の美しさに目覚め、黒を愛そうではないか。こういう自分が
碁に弱いから負け惜しみで言っていると勘違いされては困るのだが。
(伊藤)

<囲碁のことわざ-002>
●碁を打つより田を打て
碁をする暇があったら、農業に精を出すほうが有益だということから、
つまらないことに時間をつぶすより、仕事に精を出せということ。
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【連載小説・第12回】ー大逆転ー

(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけら
れた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれると
いうのである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神
が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたてた。
そんな折、安川は尊敬する川村九段とリーグ入りを賭けた一局を打つこと
になった。安川の苦悩が始まった。

(本編)
ところが、この人たちのドギモを抜くような事態が、再開後の盤上に起った
のである。川村九段はやはり間違いなく次の一手で安川のミスをとがめ、
大利を得た。しかし安川は投げなかった。昼食を済ませて記者室に戻った人
びとの予測は、その時点で外れた。誰一人として安川が打続けるとは思って
いなかったのだ。テレビに映るのは盤上の進行だけで、対局者の姿はない。
石を持った手だけが、左右から伸びるのだが、川村九段の手が消えると、数
秒後にはもう安川の手が出る。いつものノータイムがはじまったのだ。
「こんな碁を・・・・みっともない・・・・」
誰かが呟く。
「神様も、少々血迷ったらしいね」
吐きすてるような評判だった。当然である。尋常では勝負にならぬ形勢だ。
潔癖な棋士の神経からすれば、再開後の川村九段が打った一手で、安川はき
れいに頭を下げるべきなのである。
記者室の痛烈な批判をよそに、盤上はどんどん進行する。そして1時間余り
経過した。テレビに映し出された盤面は、意外な変化を見せていた。勝勢を
意識した川村九段の着手はユルみにユルみ、いっぱいに打廻す安川の追込み
に押されて、はやくも形勢不明になっていたのだ。
「どうかしているよ、川村先生・・・・」
「こんなことじゃア、やられるね・・・」
その通りだった。いったん後退しはじめると、よほどの気力がなければ、踏
みとどまることはできない。60歳の川村九段は、あっという間に、敗北へ
の急坂を転落していった。--------
終局は夕食前、コミガカリで白番安川の三半目勝ちだった。
「久しぶりに汗をかいたよ・・・・・」
さすがに疲れたのだろう。爺さんの呼吸が、めずらしく乱れていた。
これでついに晴れてのリーグ戦入りだ。せめて五段になりたいと願った安川
の夢を遙かに飛越え、超一流の達人と肩をならべるのだ。
しかし安川の心ははずまない。何かが胸につかえているのだった。
(つづく)

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     日本棋院通教便り(第20号)  2003.02.06 発行
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<還暦とは!>
先日、大学の同窓会に出席したら同級生の一人がこんな挨拶をした。
「自分は昨年還暦を迎えたが、皆さん、還暦のことを英語でどう言うか
知っていますか。辞書にはちゃんとその訳が載っているのですが、自分は
 recycling age という言葉を使いたい。」
この話を聞いて、なるほどこのようなとらえ方もあるのか、我が昔の同級
生もたまにはいいことを言うわい、と感心した。
今や産業廃棄物(我々も含まれるか)もリサイクルの時代である。
この「リサイクル年齢」という言葉は直訳ながら言い得て妙である。
家に帰ってから念のため辞書を引いてみたら、還暦は sixtieth 
birthday と出ていた。(伊藤)
 
<囲碁のことわざ-001>
●相碁井目(あいごせいもく)
同じ事をしても、人によって力量に大きな差があること。

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【連載小説・第12回】ー大逆転ー
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけ
られた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてく
れるというのである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に
慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたてた。
そんな折、安川は尊敬する川村九段とリーグ入りを賭けた一局を打つ
ことになった。安川の苦悩が始まった。
 
(本編)
「幽玄の間」での対局の盤面は記者室のテレビに映し出され、棋士や
ライター達はその進行を別の盤にならべながら、ああでもないこうでもな
いと、無責任ではあるが、かなり突込んだ意見を出し合う。
観戦記などにも「記者室では・・・」と時折その雰囲気が伝えられるが、
シニカルなジョークも飛び、発言の自由は、思いがけぬ妙手や奇手を
生む場合もあり、なかなかに貴重な一室なのである。
今日も十数人の棋士やライターが集まっていた。もちろん川村、安川
戦がお目当てである。「神を背負った奇蹟の人」が、相変わらずのノー
タイムで打ちまくるかどうか。碁の内容もさることながら、多くの人びとの
関心は、リーグ戦入りを前にした安川が果たしてどのような盤外作戦を
とるのか、というところにあった。佐野八段との対局で第一着に4時間と
いう空前の記録をつくったばかりでなく、残りの1時間をそのまま余して
勝つという芸当を見せつけているだけに、おかしな興味が生まれるのも、
当然といえば当然であった。
だが、期待はみごとに裏切られた。立上がりから安川の着手は渋滞の
連続、しかも、大斜定石で手順を誤り、星目碁ならいざ知らず、プロど
うしではほとんど息の根がとまるような大打撃をうけてしまった。いや、
川村九段がまだ次の一手を打っていないから、過去形ではないけれど、
百パーセント間違う筈はない。すでにもう勝負はきまったも同然だった。
二つの流れが、室内の空気を重くしていた。一つは、失望からの腹ただ
しさのようなものだった。これですべてが終った。実にあざやかなあのノー
タイム戦法ももう見られないだろう。いったいどこでどう歯車が狂ったのか。
リーグ戦で超一流のメンバーを相手に、ノータイムで暴れまわる素晴らし
いドラマを期待していたのに・・・。
もう一つの流れは、神様説から発した異常な人気に反撥する人達の、
複雑な思いがつくっていた。大手合や他の棋戦では十数連敗という
記録を重ねている男が、名人戦では、まるで遊んでいるような勝ち方を
している。まさしく神がかりとしか云いようがないけれど、この道に、このよ
うな事があってはならない。求道の苦しみとたたかっている棋士の苦しさ
が、この男のどこにあるのだ。かりに神を背負っていたとしても、それは邪
神だ。ざまあみろ!
いつもはにぎやかな記者室だが、誰もが固い表情で押黙っていた。
「神様もこれで退敗だナ。ながいことご苦労様でした・・・」
テレビの前にいた一人が、やれやれといった様子で立上った。
それでやっと室内がほぐれた。-------
(つづく)
 
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     日本棋院通教便り(第19号)  2003.01.07 発行
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遅ればせながら、7日正月を迎え、あけましておめでとうございます。
本年もどうかよろしくお願いします。

さて、年の初めにあたっては、わが家へきた年賀状のうちから、これは
と思われるものを二つほど紹介したいと思います。
 
 
●ビール会社に勤めている奴からきた賀状:
 
 
●これから会社を立ち上げようとしている人からの賀状:
 
日本海地方の生まれの者には、正月のこの晴天は何年東京に住んでいても
まぶしいものです。かの地ではこの季節、浦西(冬の北西風)が吹き、
低い鉛色の雲にずっと包まれています。山は雪です。
雪道の靴跡をたどって行くと、知らぬ間に山道に迷い込んでいて、
先を行く靴跡はいつの間にか、山深く続く一本の狐の足跡に変わっている。
冬の日はもうとっぷりと陰って、後ろの森からドサッと落ちる雪音に、
一歩も動けなくなり、しゃがみ込んだ両膝からしんしんと冷気が身体中に
凍み込んでくる。それでも帰らなくてはと思い、来た道に自分の靴跡を
探すのだが、雲間から出た月に照らされた銀色の林道に残っているのは、
時々ちょんちょんと飛び跳ねている子狐のものだけです・・・
こんな夢を見られるのも故郷のおかげです。新鮮で良いお年をお迎えください。
 
それでは、今年も皆様にとっていい年でありますように!
(伊藤)
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(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ち
かけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ち
にしてくれるというのである。対局が始まると「16の十七、小目」とい
った具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、皆は「ミラクルマン」とはやしたてた。
そんな折、安川は尊敬する川村九段とリーグ入りを賭けた一局を打
つことになった。安川の苦悩が始まった。
 
(本編)
幼年の頃安川は、生家の納屋で、大きな野良猫が、半死のネズミ
を見下し、舌なめずりをしている無惨な光景を目のあたりにしたこと
がある。足がすくみ、声が出なかった。その時から、安川は猫に出逢
うと、背すじに悪感がはしるようになった。妙なはなしだが、姿は見え
なくても、近くに猫がいると、その気配を感じとれるほどなのである。
川村九段の口元にうかんだかすかな微笑を見た瞬間、猫の顔がダ
ブった。ぞっとする思いだった。そして、安川の気持ちが変わった。
理屈はない。幼時にやきついた恐怖と憤りが、川村九段に対する
情や尊敬の念を吹っ飛ばしたのである。
勝利を九分通り手中にすることのできる次の一手を、あの時の猫の
ように、ゆっくりたのしんでいる冷酷さは、相手が温情の人だとばかり
思い込んでいた川村九段だけに、いっそう許容し難いのだった。
負けたくないと思った。いや、負けてはならぬ、と肚がきまった。
「よかった、よかった。その通りだよ。勝負師はみんな冷酷なんだよ。
盤に向えば師匠であろうと、親友であろうと、みんな敵だ。この世界
を生き抜くための鉄則を忘れなさんな・・・」
嬉しそうな慾神の声が、大きく響いた。だが、ほとんど致命的な失着
を打ってしまったこの局面、果して挽回できるのだろうか。いかに爺さ
んが神通力をもっていても不可能ではないか--------。
「たしかに容易でない。でも大丈夫だよ。向うさんはきっとユルむ。
つけ入るスキはいくらでも出てくるよ。まあ、ワシにまかせておくれ・・・」
自信たっぷりの爺さんの声が消えると同時に昼食休憩のブザーが鳴
った。
川村九段はゆっくり顔を上げ、笑顔で会釈をすると、手合時間を止
めて立上った。
「さあ、いつもの喫茶店へ行くんだね。もう、変な気は起さないだろう
けれど、くれぐれも頼んだよ。冷静になるんだよ」
慾神の忠告を背に安川も部屋を出た。肚はきまったとしても、棋士
としての良心を、自らの手で握りつぶすことになった苦しさは否定でき
なかった。川村先生はどうしてトドメの一手をすぐ打ってくれなかった
のだろう。敗者への思いやりを、ほんのちょっぴりでも見せてくれていた
ら、よろこんで石を投じられたし、正道に立戻ることもできたのに・・・・
身勝手な逆恨みかも知れないが、と思いつつも、安川は川村九段
の微笑がうらめしかった-------。(つづく)
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<懐かしい人との出会い>
先日、通信対局に関してテレビで放映するするというので、八重洲囲碁
センターへプロダクションの人と一緒にいって録画撮りに立ち会いました。
日本棋院の八重洲囲碁センターは今年の8月に新装オープンしたばかり
ですが、新しい企画として通信対局を体験できるデモ機が3セットおいて
あり、それぞれ異なる通信対局を誰でも体験できるようになっています。
最近はそれを使って通信対局される方も増えてきたようで、このような通
信対局の人気もあいまって来年の1月からはデモ機を3台から5台に増や
すとのことです。
テレビの録画撮りの間に、自分はあまりすることがなくて手持ちぶさたなの
で、ロビーに飾ってある写真を眺めていました。
その中に、相撲取りやプロ野球選手が碁をやっている写真がありました。
碁をやっている相撲取りは誰かとよく見ると、それは二所の関親方と
大天竜関でした。この碁を打っている二人とそれを見ている二人の相撲
取りは皆上半身裸で、親方を除きちょんまげ姿で写っていました。もっとも
裸のちょんまげ姿は相撲取りなのだから当然といえば当然のことですが。
ところで、この大天竜関こそ、二所の関一門が私たちの町に巡業に来た
とき私がサインをもらった関取だったのです。
当時中学生だった私は、大天竜が宿泊している町家の前で待ちかまえて
いて、銭湯にゆくために出てきた大天竜にサインをもらったのでした。
一緒に待っていた相撲キチガイの同級生は、大天竜が銭湯に行くのを知
って自分も一緒に銭湯へいくんだといってあわてて銭湯へいくための道具を
とりに家に引き返していきました。
これは今から45年も前のことです。その時サインをもらったきりの関取に写
真とはいえ八重洲で再会することができ、本当に懐かしく思いました。
                                     (伊藤)

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【連載小説・第10回】ー安川の造反ー
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけら
れた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれる
というのである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神が
打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界ばかりでなく世間一般も「ミラクル
マン」とはやしたてた。しかし慾神の力を借りて勝つことに、安川は必ずしも
満足はしていなかった。そして安川の苦悩が始まった。
 
(本編)
日本棋院に着いたのは、定刻10分前の9時50分だったが、六階「幽玄
の間」には、既に川村九段が、折目正しい和服姿で正座していた。
「ご無沙汰しております」
安川は敷居ぎわで両手をつき、ていねいに挨拶した。
「たいへんな成績だね。かげながら喜んでいましたよ」
「ありがとうございます」
「碁は、囲碁クラブの先月号に出たのを、一局だけしか拝見していませんが、
敬服しました。名局ですね」
他の人が言えばいやみに聞こえるだろうが、川村九段の場合は、
そのまま素直にとび込んでくる。
しばらく雑談をかわしたが、意識してかしないでか、川村九段は「奇蹟」に
関する世間の評判には一言もふれなかった。
そのことが、安川には嬉しかった。
このような人をだましうちにすることなんか、俺にはできない・・・・。
安川の心はようやく決まった。
華やかだった数ヶ月をふり返れば、未練はあった。だが、その未練も65歳
にしてなおかつ芸道への情熱を失わず、弟子のような後輩にも、対等な座
を与えて悪びれない川村九段の信念と温情がきれいに洗い流してくれた。
午前10時、ブザーが鳴り、対局開始である。
川村九段は姿勢を正し、和服の袖口をたくし上げながら、白石を一握り
盤上に置いた。安川の指先からは黒石が一個・・・・
奇数先、の意志表示だ。盤上の白石は14個、安川の白番と決まった。
瞬時の間があって、川村九段の第一着は3十六の小目。
「16四、星・・・」
いつもと変わらぬ慾神の声が響く。だが安川は、石を手にしようとはしない。
「どうしたのだ、迷いは捨てるのだよ。打つのだよ、わしの言う通りに打てばい
いのだよ」
慾神の声がうわずっている。その声を払いのけるように、安川はガチャリとゴケ
を鳴らし、16十七の小目へ打つ。高い石音だった。
「違う!・・・・考え直しておくれ。人情に負けたら、二度と機会は来ないの
だよ。いいかい、次の手からは、ワシの指示に従うのだよ!」
二度と来ない機会・・・それを川村先生に渡すのだ。
「バカなことを・・・やっとここまでもって来た、ワシの苦労はどうなるのだ!」
頼む、頼むから以前のあんたに戻っておくれ!とせっぱつまったような爺さん
のしゃがれた声が、耳をつき抜ける。思わず両手で耳を覆うのだが、だめだ。
「どうかしたの?・・・・」
安川の奇妙な動作に気づいた川村九段が顔を上げる。
「いいえ・・・・なんでも・・・・」
ありません、とつぶやくように言う安川の目はうつろだった。
慾神の指示に逆らう安川の着手は、まったく支離滅裂、布石の常識をふ
みはずしたものになった。しかも、左上隅に出来た大斜定石で手順を間
違えた。ほとんど致命的といえるミスだった。
安川は投げようと思った。もし川村九段が、猶予なく次の一手を打ってい
たら、いさぎよく安川は頭を下げていただろう。
ところが、ちょっと首をひねった川村九段はおもむろに腕を組み、宙に目を
やった。その口元に微笑があった。その微笑が、安川の気持ちを変えたの
である。             
                                  (つづく)
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     日本棋院通教便り(第17号)  2002.11.05 発行
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囲碁倶楽部のホームページの「自由エッセイ」欄に次のようなすてき
なエッセイが載っていたので紹介します。
 
◆みすずの詩心で宇宙遊泳(囲碁賛歌) ◆バニラ◆2002年10月02日 
 
青いお空のそこふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまでしずんでる、
昼のお星はめにみえぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ、
  見えぬものでもあるんだよ。
 
金子みすずの詩「星とたんぽぽ」の一節です。
普通、碁盤は縦横各19本の線しか見えませんが、彼女の詩心で読むと
ちりばめた星が輝く如き無数の線があるのです。
先ず始めに、囲碁を初めた人が必ず悩まされるシチョウの線。あのギザギザ
斜めの線。いわゆるコモクの線。若し碁盤にこのコモクの斜線が描かれてい
たらシチョウアタリが一目で判るでしょう。
次にケイマの線。大ゲイマの線。大大ゲイマの線。…。更に垂直方向のケ
イマの線。・・・。と限りがない。
正確には碁盤の、361の各交点(天元、星目星含む)から、残りの360交
点に向けた放射線。恰も夜空に(いや昼間でも)輝く無数の星から発射さ
れる無限の光線の如くです。
みすずの詩心で読むと小さな碁盤が忽ち宇宙凝縮の世界となる。私達碁
打ちはこの凝縮宇宙の中を角力斗雲に乗って空中戦を楽しむ。何と幸せ
ではありませんか!・・以上囲碁賛歌まで。
 
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【連載小説・第10回】ー安川の造反ー
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけら
れた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれる
というのである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神が
打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界ばかりでなく世間一般も「ミラクルマ
ン」とはやしたてた。しかし慾神の力を借りて勝つことに、安川は必ずしも満
足はしていなかった。そして安川の苦悩が始まった。
 
(本編)
今まで通り慾神の力を借りて川村九段と戦うこと、つまり負かすことを拒否
するのは、安川の良心であった。だが、栄達への慾望がまったく消えたわけ
ではない。このまま行けば、天下を手中にする日も目前である。だから安川
は苦悩する。
温厚な人柄の川村九段は、棋士達の信望をあつめていたけれど、中でも
安川は特に心服していた。まだ素人だった頃、その教室へ通って稽古をつ
けて貰ったこともある。はっきり師弟の縁を結んだわけではなかったが、他に
芸道上の身寄りをもたぬ寂しさもあって、川村九段に対する安川の感情は、
弟子としてのそれに近かった。
安川の良心がうずく-------
正々堂々の戦いなら、勝負は時の運、というなぐさめもあるけれど、慾神の
力で、尊敬するひとの最後の機会をつぶすとなれば、これはもう、自らに言い
きかせる何もない。
野望と良心が、安川の心中で花火をちらし、苦悩は深まるばかりである。
いずれとも意の定まらぬまま、遂に手合日の朝を迎えたのであった。
「あなたの気持ちもわかるわ。でも、勝負の世界では仕様のないことなのでは
ないかしら。川村先生にだって、わかっていただけると思うわ」
細君は、慾神の存在を知らず、勝ってきたのは安川の実力だと思っているか
ら、一躍スターになった亭主の地位を失うまいとして、数日前から懸命に激
励しつづけた。
安川にしてみれば、事情も知らない女房の常識的な意見など、うるさいだけ
で解決の足しにはならぬのだが、うっかり話し込んで秘密をかぎつけられては
一大事だから、ただ、ウン、ウンと肯くだけで胡魔化していた。
「じゃア、しっかりね。行ってらっしゃい」
不思議なものだ。なが年の習慣は、気持ちの中にもしみ込んでいるのか、手
合日の朝になり家を出ると、何となく闘志に似た緊張感が、身内を流れはじ
める。勝つか負けるか、ただそれだけを生活の中心にしている者の、戦いを前
にした本能的な身構えなのであろう。
勝つことの魅力が、昨夜までの動揺にベールをかけ、良心のかげが次第にう
すらぎはじめた。
「どうしたね、決心はついたかね?」
バス通りへ出る道の角に、爺さんが立っていた。
機嫌のいい笑顔だった。
「あんたの気が変わりはしないかと、ずいぶん心配したよ。
やっと立直ったらしいね。よかった、よかった・・・」
爺さんの奴、やっぱり何もかも知っていたのか。だが、まだ俺の心はきまったわ
けじゃアない。
「ばかばかしいことだよ。義理だの人情だのと言って、折角の出世をフイにする
ようでは、人間としての資格がないようなものだ。勝負師は、ただ勝てばいい。
勝つことだけを考えていればいいのだよ」
「そうかも知れない、然し・・・」
「あんたはもう、むかしの安川さんじゃないんだよ。あんたの奇蹟を期待している
日本中のファンに対しても、このまま勝ち続けて名人になる義務があるんだよ」
------俺に義務が?
------どうして?
「理屈はどうでもいい。打って勝つ、いまのあんたは、ほかに考えることなんかな
いのだよ。わかったね?妙な気をおこさないでおくれよ」
珍しくおさえつけるような口調で言うと、爺さんは姿を消した。
(つづく)
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     日本棋院通教便り(第16号)  2002.10.03 発行
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10月1日の夜、台風21号が東京を直撃し、あわただしく駆
け抜けていきました。さいわい大きな被害はなかったようですが、
久しぶりに強烈な雨風に見舞われ、少し緊張しました。
今年は台風の当たり年のようで、7月にも2つほど台風が来た
記憶があるのですが、もうその印象も薄れてしまい、今度の21
号もそのうち忘れてしまうことでしょう。
やはり何年の第何号というのではどうしても印象が薄くなってし
まいます。
その点、私の記憶にいつまでも残っている台風は立派な名前
を持っていました。
その名はジェーン台風と伊勢湾台風です。
こんな話をすると歳がわかってしまいますよね。
実際に体験はしていないんですが、当時ジェーン台風の他に、
キティ台風とかカスリーン台風とかもありました。
このカスリーン台風というのは、本当に正しい名前なのでしょう
か、今でも疑問に思っています。正しくはキャサリン台風という
べきところ、誰かが Catherine をカスリーンとローマ字的に訳し
て、それがそのまま使われてしまったのではないかという気がし
てならないのです。
 
それにしても、あの麗しき名前の彼女たちはどこへいってしまった
のでしょうか。
 
(伊藤)
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【連載小説・第10回】 − ミラクルマン −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を
持ちかけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強
い碁打ちにしてくれるというのである。対局が始まると「16の十
七、小目」といった具合に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然となったが、対
佐野八段戦、いつも聞える慾神の声が聞えない。悶悶として
待つ安川だったが、残り一時間になったとき、やっと慾神がやっ
て来た。
 
(本編)
慾神の誘惑さえなかったら、多少の不満はあっても平凡な生活
の中でコツコツと棋士としての道を歩んでいたことであろう安川は、
根が正直なタチだから記者の質問を巧にあしらうというようなこと
は出来ず、奇蹟の正体を何となく明らかにしてしまったが、どんな
神様ですか?という質問に、それは言えません、と正直に答えた
ことが一層のサスペンスをもたせる結果となった。世間の興味は
安川そのものより、その背後にいるという「神様」の方へ移行する
ことになった。
奇蹟に類することへの憧憬は、決して少年時代だけではない。
その名残りを、誰でも心の隅にちょっぴりもっている。***を歩
かせたり、明日の事件を予言したりする便利な神の存在など、
あろうはずがないとわかっていても、モーゼの祈りが大海を真っ二
つに割る「十戒」の物語に快哉を叫んだり、女房には内緒でこっ
そりとテレビのダイヤルを「スーパーマン」や「どらえもん」に回したり
するのである。
安川の奇蹟は、神話でもテレビ映画でもない現実の出来ごとで
ある。
それも、偶然を頼みとする占師の予言などとは性質が違う。
碁界のワクを越えて街へ流れ出たこの話題が、碁とは無関係な
人をも捉え、半信半疑の旋風を巻き起こしたのも、けだし当然の
ことといえよう。
挑戦者決定リーグ入りを賭けた、川村九段との一戦は、このよう
な情勢をバックに行われることになった。
川村九段は、現在棋士の中では長老であり、かつてはビックタイ
トルを取ったこともあるが、65歳という年令は、現役としては限界
に近いものであった。常人ならば、激しい勝負にたえ得る心身で
はなかったが、碁一筋に生きた五十年の情熱だけを支えに、容
赦なく足下をすくおうとして迫る気鋭の後輩達と闘っていた。しか
し最近は成績も芳しくなく、そろそろ引退という声もあるのだが、ど
うしたわけか名人戦になると見違えるような気魄を見せ、みごとな
勝ちっぷりで決勝へ進出したのであった。燃えつきようとするローソ
クの火が、直前に光を増すのと同様に、その輝きは、不気味でさ
えあった。
困ったことになった・・・・・
決勝の相手が川村九段ときまったときから、安川に新たな苦悩
が生まれたのだった。
(つづく)
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      日本棋院通教便り(第15号)  2002.09.03 発行
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何ごとによらず自分の力を正確に把握することは本人にとって大変むつかしい。
こと棋力に関してはなおいっそうむつかいい。
それは、段級位のレベルが国際的にも統一されいないし、日本棋院と巷の碁
会所によっても、またその地方によってもレベルが少し違うことも影響しているの
であるが、それよりも大きいのは、本人の自分の棋力についての思いこみや過
信の影響である。
特に問題になるのは、通信教育を受けようとする際の受講コースの選択を誤る
ことである。たいていの人は、自分の棋力を過信して、適正ランクより2つも3つ
も上のコースを受講して、自分に囲碁の基礎的な力がないことを痛感しながら
青息吐息で課題をこなしても期間延長を申請しなければならなくなったりする。
ネット通教はどちらかというと国際レベルに近く、これまでの自分が考えている棋
力はいったん捨て置いて、最初から学習し直すつもりで受講コースを選択する
と、しっかりとした基本が身に付き、伸びも早い。
急がば回れである。ゆめゆめ受講コースの選択を誤らないように願いたい。
(事務局)
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【連載小説・第10回】 − ミラクルマン −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけられた。
安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれるというのである。
対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神が打つ手を指示し
てくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然となったが、対佐野八段戦、
いつも聞える慾神の声が聞えない。悶悶として待つ安川だったが、残り一時間
になったとき、やっと慾神がやって来た。
 
(本編)
あと一時間たらずという、きわどいところで慾神が間に合い、相変わらずのノータ
イムで佐野八段を降した安川は、その帰路、電車の中で慾神から遅刻の理由
を聞かされた。爺さんの説明はこうだった。
慾神の世界にも憲法があって、その第九条に、人間の寿命と交換することなく
みだりに欲望達成の便宜を与えてはならぬ、という事が規定されている。従って
安川に約束した、本契約までの一年間をサービス期間にするという条件は、
あきらかに第九条違反である、と
多くの慾神からクレームがつき、爺さんは査問委員会にかけられた。
そこで爺さんは、現在の人間社会における商取引が、すべてサービス精神を基
に行われている実情をくわしく述べ、もしわれわれが五百年も前に制定された
カビ臭い憲法をそのままに遵守するならば、生活水準の飛躍等によって次第に
欲望を減少しつつある人間から、貴重な寿命を獲得することは困難となり、や
がてはわれわれの世界を滅亡に導くこと必定である、と大演説をぶった。
爺さんの説得が効を奏し、どうやら憲法改正の賛成者も出て、一応
安川問題はおさまったが、まだまだ楽観はゆるされぬ情勢らしい。
「こんなわけだから、今日のところはかんべんして貰うとして、本契約のときにはま
ちがいなく頼むよ。サービスがフイになるようなことがあると、オレの顔が立たんか
らナ」
話を聞けば、爺さんもなかなか苦労をしているようだ。慾神の世界というのはどん
なものなのか、これだけの話では窺知することも出来ないが、どうやらセチ辛くは
なっているらしい。
「次回は間違いなく行くから、心配しなさんナ・・・・」
ひとの良さそうな笑顔を残して、慾神は目白駅で消えた。
やはり勝利の魅力は大きかった。敗北を覚悟していただけに、その反動は、頭
をもたげかけた小さな良心を一挙に押しつぶしてしまったのである。
名人戦における安川の連勝は続いた。一ヶ月後には昌山七段を白番で、つづ
いて力石七段を黒番で破り、二ヶ月後にはいよいよ挑戦者決定リーグ入りが決
まる、川村九段との一戦を迎えることなった。
相撲界だったら、服部や小錦のように、体力にめぐまれてさえいれば、一年ほど
で人気者になることができるが、碁界では不可能だった。事実、慾神との出会
いがなかったら、安川もまた無名の三段にすぎなかったのである。
しかし、慾神とのいきさつを知らぬ世間は、不可能を可能にした大天才ともては
やした。三段の下位でくすぶっていたことが、却って神秘的な匂いをもたせ、さま
ざまな憶測をまじえた評判は、全国に広がった。名人戦の主催紙である朝日新聞も、
ついにコラム「ひと」にとりあげ、いみじくも安川を「神を背負った奇蹟のひと」と肩書きした。
素人からプロ入りして三段までどうやら進んだが、そこでピタリと足がとまり、十年
近くも芽の出なかった、いってみれば新人のための踏台でしかなかった安川が、
一流新聞のコラムに「神を背負った奇蹟の人」というような呼称をもって紹介されたのだから、
これはもう、まさしく奇蹟というほかない出来ごとだった。
しかもその奇蹟の内容が、単に三段が六段、七段の高段者を破って勝ち抜いた、
という勝負だけの問題ではない。ノータイムの連続という空前の記録を残したり、
白を持った最初の一手に延々4時間を費やすというような、常識では考えら
れぬ離れ業をみせながら、一流の棋士を手玉にとったというのだから、常に英雄
を求めてやまぬ世間は「ミラクルマン」という言葉の魅力もあって、たちまち安川
をスターダムへ押し上げたのであった。
囲碁雑誌はむろんのこと、週刊誌までがセンセーショナルな見出しをつけ、ミラク
ルマンらしい雰囲気などみじんもない、白けきった安川の写真と共に、ヘタな万
才のような一問一答を掲載したりした。
試みにその一部を抜粋してみよう。
----奇蹟の人と呼ばれていますが、あなた自身はどうお考えですか?
「なんとも考えておりません」
----ノータイムで打ったことも、偉い先生方を片っぱしから負かしたことも、あなた
にとっては当然のことであって、奇蹟でもなんでもないというわけですか?
「神様なら当然のことでしょうね」
----というと、神様だというわけですか、あなたは?
「ぼくは人間ですよ」
----では神様があなたについている?
「そうかも知れませんね」
----どんな神様ですか、それは・・・
「それは言えません」
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今回は、囲碁倶楽部という通信対局などをやっているホームページ
サイト http://igoclub.com/の自由エッセイコーナーに載っていた、
つもり違い「千日の稽古、万日の稽古」を紹介させていただきます。
ハンドル名「すばる」という方が、自由エッセイ欄に書き込まれたも
のです。 
-------------------------------------------------------------------
◆千日の稽古、万日の稽古 ◆すばる ◆2002年06月11日 02時42分48秒 
齋藤孝・著『声に出して読みたい日本語』の中に、宮本武蔵の『五輪書』
の解説がありました。以下、引用です。
-------------------------------------------------------------------
千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。
よくよく吟味有るべきもの也。
『五輪書』宮本武蔵
-------------------------------------------------------------------
千や万という単位の設定は適当な比喩ではなく、技の習得にとっての具体
的な目安である。スポーツでも芸事でも千日(約三年)の練習を経た動きは、
一生の技として身につく。百回の練習では起こらない質的な変化が、千回の
練習によっては起こるのである。
万日という十年単位の稽古が積み重なると、千日の稽古で得たものより格
段に質的に高い技と認識を得ることができる。量が蓄積すると質的な変化
が起こる「量質転化」を、武蔵はこの言葉で表現している。
この言葉は、質的な変化が起こる前に、反復練習を途絶えさせてしまいがち
な私たちの気を引き締め、希望を支えてくれるものだ。
【感想】
学校時代のある先生が、「新聞の切り抜きでもいいから、一つのことを十年
続ければ、日本有数の専門家になれる」と言っていました。
また、将棋の米長名人も、「一つの分野に7000時間を注ぎ込んだ時には
じめて、一流の技を持った人間になれる」と言っています。
我々勤め人は、短期集中の土砂降り型訓練こそ効果的とわかっていても、
ちょっと望めないですが、気長にこつこつなら出来そうなので、なかなかの希望
の言葉です。
 
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【連載小説・第9回】 − 慾神、大遅刻 −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけられ
た。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれるという
のである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神が打つ手
を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然として来た・・・・しかし名人戦
二次予選の対佐野八段戦、いつも聞こえる慾神の声が聞こえてこない。
 
(本編)
気持ちのいらだちをそのままに、先刻からタバコばかりをふかしている佐野八段
が、癇高く合槌をうつと、その声に、ふっと目を開いた安川は、手合時計に視
線をやる。対局再開から既に一時間三十分を経過していた。
満座の注視を浴びながら坐り続ける安川にとって、一時間三十分は平常の
半日にも匹敵する。息がつまるようだ。
「ちょっと失礼します・・・」
安川が座を立って室外へ消えると、やれやれという風に背筋を伸ばしながら、
佐野八段も立上がった。
「疲れたア・・・十番も碁を打ったようだ。ひどいね、あの人は・・・」
無理におどけていることは、一座の人々にもわかった。調子を合わせるように、
重い笑声が起った。
「気を抜いてこよう、僕も・・・・」
佐野八段が安川の後を追うように姿を消すと、室内のしこりがとれて、誰の
顔にも和やかなものが浮んだ。
安川が手洗いから戻り、それから十分ほどして佐野八段も座に就いたが、両
手を膝にきちんと正座した安川は、依然瞑目したまま動かなかった。 
ー そして、時計の針は一時間進んだ。
もうだめだ・・・・敗北は覚悟の上だけどみじめな負けかたはしたくない。ざまあ
みろ、という声が聞こえるようだ。数ヶ月間の虚名も、いよいよ今日で吹っとぶ。
 ー それにしても、慾神の奴、どうしてここで背負投げをくわせたのだろう。欲望
の神でも神は神だ。手玉にとって遊ぶのだったら、何も俺のような弱い人間を
選ばなくたって手玉にとられても文句の言えない種類の奴が沢山いる。しかし
考えてみれば、慾神の力を借りて我身の栄達のために、真剣に碁と取組んで
いる人達を犠牲にしている俺は、世の中の誰よりも悪人だといえぬこともない。
だまされても仕方がないのか ー 。
でもどうやら肚はきまった。
安川はやっと目が醒めたように盤上を見た。左下隅の黒石が、自分をにらみ
つけているようだった。ちょっと呼吸を整え、右手をゴケへ伸ばそうとした瞬間、
まぎれもない慾神の声が耳元に響いた。
「すまん、すまん、ちょっと我々の社会で問題が起きてナ」
慌ててかけつけた様子が、声の乱れにうかがえた。
「事情はあとでゆっくり話す。まだ一時間ある、充分だよ」
(つづく)
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       日本棋院通教便り(第13号)  2002.07.03 発行
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つもり違い「十戒」を紹介させていただきます。
ハンドル名「サース」という方が、自由エッセイ欄に書き込まれたもの
です。 
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◆命屋さんがあればいいね ◆すばる ◆2002年05月27日 00時57分26秒 
読売新聞の5月26日の <こどもの詩> 欄からの引用です。
-----------------------------------------------------------
       命屋
              東郷 史敬(ふみたか)
 
 『 命屋 』さんがあればいいね
   でも
   命を買い替えられたら
   みんな 一生けん命
   生きないかもね
   そしたら
   つまらない人生になるね
 
        (東京都小金井市・小金井第四小学校3年)
-----------------------------------------------------------
 ううむ、小学校の低学年でも、なかなかいいこといいますね〜。v(^_^)v
 
 ここで、私のへぼ碁の話に急に変わりますが、1局打った後、ためしに
棋譜に記入を試みたところ、なんと、たったの40手目で、その後が
あやふやになってしまいました。 (*_*) バカタレ〜
 
一生けん命打っていないな〜と反省させられました。m(..)m ペコリ
 
【蛇足】小さい子のなかなか素晴らしい言葉をもうちょい紹介しておきます。
 
 ◆ 小学校の3年生くらいの女の子が2人、ランドセルで下校中。
   すれちがいながら聞いた一言、
     「人間って、そんなものよね」
 
 ◆ 私の娘がまだ2歳少々の頃、冬の朝、こたつから顔を出して、
   たたみに寝っころがりながら、ため息とともに、
     「ああ〜ぁ、智ちゃん、今日は何したらいいんだろう」
 
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【連載小説・第8回】 − 慾神、大遅刻 −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳・三段)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけら
れた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれる
というのである。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾神が
打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然として来た・・・・しかし名人
戦二次予選の対佐野八段戦、いつも聞こえる慾神の声が聞こえてこない。
 
(本編)
他の人々は、昼食のために階下へ降り、四局の盤だけが黒白の模様をの
せている。妙に深閑と静まり返っている室内に、安川はひとりポツンと坐って
いた。目の前の盤上には、佐野八段の怒りが見えるような黒石が、ただ一
個、肩をいからせ、安川を睨んでいる。
安川は寂しかった。やたらに寂しかった。痛いような孤独感であった。
安川はそっと座を立ち、逃げるように手合室を出た。もちろん食事を摂る元
気はない。重い足どりで、いつも喫茶店へ向った。
夢中で過ごした数カ月をふり返ってみる。
そこには、画期的な勝利と慾神の声があった。だが、どうしたことか、自分の
姿はない。そして、あれほど勝ち続けたのに、その喜びすら遠くかすんでいる。
更に気づいてみれば、本来ならはっきり脳裡にきざみ込まれている筈の、勝
局の数々がどうしても想い描けないのだ。恐らく盤に向っても並べ返すことは
出来ないだろう。当然のことながら愛着もない。自らの力で生み出したもの
ならば、それが敗局であっても、愛情は永久に消えはしない。
 ー 畢意、無縁のものなのだ。あの記録も勝利も ー 。はじめて突当たった淋
しさに全身が凍るようだった。
味のないコーヒーを二杯のみ、時間をはかって棋院へ帰った。もしや慾神が
現れはしないかと、ひそかな期待もあって、周囲に気を配りながら歩いたけれ
ど、明るい陽ざしに影もなかった。
再開をきっかけに、思いきって自分の碁を打ってやろうか。所詮勝つ望みは
ないが、慾神の現れるのを待っていれば、時間的にも打てなくなるだろう。 
ー 安川は迷いに迷った。だが、まだ勝利への未練を捨てきれなかった。持
時間は五時間、対局開始の十時から昼食休憩の十一時四十五分まで、
一時間四十五分を消費しているから、残るは三時間十五分という勘定に
なる。負けるつもりなら、秒ヨミもあることだし一時間あれば打てるだろう。どう
せバクチをうっているのだ、あと二時間に望みを託し、慾神の現れるのを待っ
てやろう。 ー 捨てバチな気持ちがやっと結論を出してくれた。
手合室には既にみんな揃っていた。座に着くと同時にブザーが鳴った。
恐らく食事中の話題は、安川への批判に集中されたことだろう。室内の空
気の不自然な固さが、それを物語っていた。
「じゃ、始めましょうか・・・」
佐野八段が音をたてて手合時計を押した。安川は、一同の視線を全身に
感じながら、ていねいに礼をした。そして、それが自然な態度であるかのように、
眼を閉じた。その様子にジロリと一瞥をくれた佐野八段は内心の忿懣を押さ
えつけるように、ウン、ウン、と気合をかけながら、力をこめた両腕を、体操のよ
うに上下させる。
「ばかに張りきってるね」
隣りの高倉六段が、意味ありげに言う。
「カラ廻りだよ・・・」
ばかな話さ、といいたいところを、ぐっとこらえてゆがんだ笑いを口元に見せる。
入口に行儀よくならんでいる観戦者達の間にも、声のない笑いが流れた。
理事会でもあったのか、坂田理事長をはじめ加納、榊原、大枝、中岡、石
毛の各理事が、次々と前代未聞の対局をのぞきに来た。盤上には黒点のよ
うな黒石が一個あるだけで、手番の安川三段は眼を閉じたまま打つ気配が
さらさら無いのだから、その奇妙な情景をちょっと眺めるだけで、一様に複雑
表情を見せながら出て行く。
人の出入りが次第にひんぱんになり、成りゆきを最後まで見届けようと、腰を
落着ける者も多くなった。
「にぎやかなことです・・・・」
高倉六段がやや皮肉な口調で呟く。
「おかげで退屈をしないよ」
(つづく)
 
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     日本棋院通教便り(第12号)  2002.06.06 発行
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◆つもり違い「十戒」 ◆サース ◆2002年04月26日 21時34分22秒 
次の様な「十戒」がありました。碁にも通じるかもしれません。
 
高いようで低いのが教養  低いようで高いのが気位
深いようで浅いのが知識  浅いようで深いのが欲望
厚いようで薄いのが人情  薄いようで厚いのが面皮
強いようで弱いのが根性  弱いようで強いのが自我
多い様で少ないのが分別  少ない様で多いのが無駄 
 
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【連載小説・第7回】 − 慾神が来ない! −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけられた。
安川の寿命を半年分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれるとい
うのである。まず一年間のサービス期間が設けられ、安川は岸田三段との
名人戦予選に臨んだ。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合
に慾神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然として来た・・・・。
 
(本編)
「失礼致しました」
座に戻った安川は、ゆっくりいずまいを正すと、静かに眼を閉じ、考える風
でもなくただうつらうつらとした様子で、座りつづけるのである。
遂に一時間を過ぎた。もはや観念するより致し方ない、と安川は思った。
だが、このようなことをつづけていることは、如何に消費時間が自分の負
担になる時間制とはいえ、相手に対して明らかに礼を失する。しかも自分
は三段、相手は八段だ。思い切って打とうか ー 眼を開いた。
「新定石が出来たね」
隣りの碁を眺めていた佐野八段が、笑いながらいった。その声が、打とう
か、と思った安川の気持ちをピシャリと叩いた。反発ではない。キッカケを
はぐらかされたテレ臭さだった。ー 安川は再び眼を閉じなければならなか
った。
佐野八段は、しきりに周囲の人達に話しかけた。それは明らかにいらだち
を押さえようとするためのものだった。
手合時計は既に十一時三十分を指している。十時の対局開始から、実
に一時間三十分。それも相手は決して考えているのではない。ただ無意
味に座っているだけである。これが作意でなくてなんだろう。無礼この上な
い態度だ。もし許されるのなら、席を蹴って帰ってやりたい。 
ー 佐野八段がこう考えるのは当然だし、他の棋士達にしても思いは同じ
だった。
「ほう・・・・もう11時半か・・・・」
佐野八段が腕時計を見ながら、押えたような口調で言う。その態度には、
はっきりいらだちがあった。正座し、塑像のように動かない安川をにらみつ
けると、黙って座を立ち、一礼もせずに室を出て行った。
昼食の打掛けまであと十五分。
重い空気だった。
名人戦の担当記者である田村竜騎兵が、静かに入ってきた。恐らく、こ
のような事態を誰かにききつけて来たのだろう。常と違う固さで入口近くに
巨体を置いた。
一番奥の佐野・安川戦までは5〜6メートルの距離があり、盤面へは目
の届かぬ位置だが、黒石一個の盤上には用はない。一手も打たず、一
時間半も瞑目したままの安川の様子をただ凝視しつづける。この一局は
多分囲碁欄に掲載はされないだろうが、観戦記者としては、絶対に見逃
がせぬなりゆきだ。
ようやく昼食の休憩を知らせるブザーが鳴った。しかし室内に声はない。安
川はまだ動かない。果して慾神はどうしたのだろうか。 (つづく)
 
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         日本棋院通教便り(第11号)  2002.05.02 発行
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昨今の囲碁界は、もはや「ヒカルの碁」を抜きにしては語ることはできないよう
です。各地の子供教室に空前の大ブームを引きおこし、囲碁のイメージアッ
プに大いなる貢献をしてくれました。
その数多くのヒカル効果のひとつに、「ヒカルの碁」ゲームの大ヒットがあるそう
です。
これはゲームボーイアドバンス、という携帯用のコンパクトゲーム機のソフトとし
て発売されたものです。
「ヒカルの碁ゲーム」をプレイした印象と効用については、囲碁倶楽部
http://igoclub.com/
のメールマガジン13号をお読みください。(事務局)
 
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【各棋戦に思うU】
名人戦リーグで趙治勲王座が星を伸ばしている。3月14日に行われた全勝
対決、林海峰九段(2勝)との一戦を制し、4連勝で首位に躍り出た。やは
り3戦全勝で山下敬吾七段がいるものの、挑戦権に最も近い存在となった
のは間違いない。その他の棋戦では、碁聖戦でベスト8に進出しているくらい
で目立った活躍はない。「名人戦に全力投球中」といった現状だ。
 
二年前に名人位を手放し無冠となった。碁の内容に以前の気迫や粘りがま
ったく感じられず「もう終わったのでは…」とか「碁に対する情熱が無くなった
のでは…」といった憶測・不安が取り沙汰された。しかし、ちょうど一年後の
昨年暮れには王座位に復帰。決して「終った」わけではないことを証明して
くれたのである。
 
だが僕は「復活」という言葉は使わないようにしている。というか、使いたく
ない。
 
以前このコラムで「我が愛しの趙治勲」と題して、趙への想い(?)を書いた
ことがある。その中で「僕がもし趙治勲に対して“復活”という言葉を使うとし
たら、それはタイトルを一つや二つ取った時ではない。再び碁界の覇者とな
った時だけである」という内容の意見を述べさせてもらった。王座一冠では
物足りない。仮に今年、名人戦で挑戦者となって名人を奪還したとしても、
まだ物足りない。もっともっと上を目指してもらいたいのである。
 
そこで注目したいのが世界戦。趙治勲が世界戦で優勝したのは、十一年
前の富士通杯のみである。何とも納得の行かない実績であるが、ずっと国
内の大三冠に照準を絞っていたので、ある意味では仕方がないかも知れ
ない。だからこそ、趙治勲の世界戦に注目したい。今年は腰を据えて世界
戦に集中できる環境にある。3月19日にはトヨタ・デンソー杯が開幕する。
真価を見せてほしい……と思っていたのだが、1回戦で中国の邵偉剛九段
に敗れてしまった。「復活」への道は遠い。
(佐野 真)
 
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【連載小説・第6回】 − 慾神が来ない! −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳)は、慾神と名乗る老人から妙な話を持ちかけられた。
安川の寿命を半年分提供すれば、日本一の強い碁打ちにしてくれるという
のである。まず一年間のサービス期間が設けられ、安川は岸田三段との名
人戦予選に臨んだ。対局が始まると「16の十七、小目」といった具合に慾
神が打つ手を指示してくるのである。
全てノータイムで勝ち進む安川に、碁界は騒然として来た・・・・。
 
(本編)
まだ29歳、記録的なスピードで昇段してきた気鋭の佐野八段と安川では、
尋常ならとても勝負にならぬと見るのが妥当だった。が、ここ三ヶ月の間に
捲き起こした異常な事態ともいうべき、すべてノータイムで圧勝してきた安
川の異変は、情勢を大きく変えていた。
当日は他の予選手合が十局ほど同時に行われたが、六階の「洗心の間」
にはジャーナリズム関係の観戦者が、対局前からつめかけていた。いうま
でもなく、佐野・安川戦への期待と関心がそうさせたのである。
「大変な人気ですね」
陽性の佐野八段が、観客者の顔を見回しながら笑う。
「君の人気じゃないよ」
佐野八段と仲のよい高倉六段が、チラリと安川を見ながら野次る。
「すみません、どうも」
とぼけた様子で佐野八段がペコリと頭を下げると、一座にどっと哄笑がわ
く。
安川もつられて微笑はしたが、いつもと変わらぬ対局前の不安はあった。
「ではお願いします」
佐野八段がザクリと白石を摘み上げた。
「奇数先・・・」
安川はボソリと言う。
佐野八段の指先が器用に動いて、残った石は二個。安川の白番である。
一瞬、室内に緊張の気配が流れる。
「では・・・」
佐野八段は16の四の星へ静かに石をすべらすように置く −。
どうしたことなのか!
今までなら間髪入れず響いて来る慾神の声が、聞えて来ない!
三十秒、四十秒 ーおかしい!
こんなことはなかった。動悸が全身を突き抜ける。・・・・もう一分は経った
ろう。耳に全神経を集中する。・・・・駄目だ!ジーンと虫の鳴くような空鳴
りが聞こえるだけで、聴きなれた慾神の声はしない。二分、三分・・・・安川
の顔から血の気がひいて行く。
他の対局者も、観戦の人々も、安川のノータイムを期待していた。だから
固い表情で考え込む安川をみて、誰もが失望の色を浮かべた。 −相手が
佐野八段ともなればやはりノータイムでは打てないのだろう。がっかりした
様子で、無遠慮に手合室を出て行く者もあった。
最も気合いをそがれたのは、相手の佐野八段だった。ノータイムで打たれ
ることを覚悟して、その心構えをつくって来ただけに、第一着から考えてい
る安川の態度は、意外だったと同時に、それが相手を迷わせる作戦から
出たものではないかとさえ思った。だが、ノータイムで打たれるより、この
方が打ちいい。佐野八段の口元に微笑がうかび、悠々とタバコを口にした。
十分 −十五分 − 安川は半ば諦めた。これでもう俺の虚偽の座も崩れる。
慾神のやつ、相手が強くなったので、逃げ出しやがったのか。 −仕方が
ない、あいつの力を借りずに打ってやろう。だが待てよ、あれだけかたい
約束をしたのに、今になってすっぽかすというのもおかしい話だ。慾神だ
って色々と都合があるのかもしれない。爺さんだから、よちよち歩いて来
れば遅れることもあるだろうし、途中で事故の起こることだってある。
自分の力で打ったところで、運悪く白番ときては、どうせ勝てる相手ではな
い。勝てないとなれば、どんな負け方をしても五十歩百歩というわけだ。よ
し、思いきって慾神が来るかどうかに勝負を賭け、ぎりぎりのところまでこ
のまま待ってやろう − 
肝を据えた安川は、顔を上げると大きく呼吸をして、しばらく瞑目していたが、
やがて眼をひらき、
「ちょっと失礼します」
と丁寧に頭を下げて、座を立った。対局開始から、既に二十分を経過してい
た。
「どっちにしても、ただでは済まされないといわけか・・・」
安川の姿が部屋から消えると、隣で対局している高倉六段が、つぶやいた。
終局までノータイムというのも異例だが、白の第一着から長考というのも珍
しい。かつて橋本昌二九段が一手目に長考したことがあるが、それ以来の
ことである。
ともあれ高倉六段の言葉ではないが、ただでは済みそうもない、何か凄愴
な感じさえ漂って来た。
「うむ・・ただでは済みそうもないね」
佐野八段も腕を組んだまま、押さえつけるような口調でいう。佐野、高倉の
二人以外に、口を開く者はない。安川三段のノータイム対局を期待して集
った観戦者達は、はじめは失望したが今は違った興味にひかれて、座を立
つ者は一人もいない。よく磨かれた盤上にポツンと置かれた一個の黒石を、
じっと眺めつづけているのだった。(つづく)
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先日のNHKのテレビで、今年の正月に放送された、女流棋士による9路盤対局
のトーナメント戦をやっていました。
これまで9路盤というと初心者だけがやるものとばかり思っていたが、どうしてどうして、
9路盤も結構お奥が深くて難しそうである。それになにより早く勝負がつくのがよい。
ネット通信教授が提携している囲碁倶楽部通信対局では、9路盤・13路盤も
用意されていて、無料体験の対局数がこれまで5局だったのが、9路盤・13路盤
に限って近々無制限に対局できるようになるといううれしいニュースが伝わっている。
それに9路盤・13路盤ではGOROという対局ソフトがいつでも相手をしてくれるの
もうれしいサービスである。
ということなのでこれからは、初心者も上級者も9路盤・13路盤で気軽に対局し
てみよう。(事務局)
---------------------------------------------------------------
【各棋戦に思うT】
ご存じの人もおられることと思うが、僕は棋聖戦第5局の観戦記者だった。そう、あ
の「事件」が起こった碁である。僕にとっては初のタイトル戦の観戦記、並々ならぬ
期待と興奮を携えて、北海道・洞爺湖へと向かったのであったが…。
事件発生の瞬間は、さすがの僕も、頭が真っ白になった。王立誠先生が僕に「何
も言ってないよね」と同意を求めてきても何も言えなかったし、言う権限もない。ただ
無言で、首を傾げたことだけを覚えている。そして思ったーー初のタイトル戦でいきな
り、こんな事件と遭遇するなんて…。
しかし、そう思ったのも一瞬のことだった。関係者すべてが協議のため別室へ移り、
部屋にポツンと残された両対局者を見ているうちに、僕の内部から沸々と、闘志と
も使命感ともつかぬポジティブな気持ちが生まれてきたのである。
「むしろ俺は幸運なのではないか? よし、この勝負を描き切ってやろうじゃないか」
そして出来上がったのが、読売新聞に3月6日から17日まで連載された観戦記で
ある。出来の善し悪しについては、僕には分からない。判定は、読んでくださった皆
さんが下すものだから…。でも一つだけ自信を持って言えるのは「自分の持てる能
力すべてを出し切った」ということ。大した出来でなかったとすれば、それは僕の現時
点での能力が、その程度でしかないということだ。(佐野 真)
 
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【連載小説・第5回】 − ノータイムの圧勝 −
 
安川にとって、この一、二ヶ月は夢のようだった。
初めのうちは、慾神の声を耳元に聴くだけで疲労していたが、いまではその指示する
着点を確かめるにも余裕ができ、同じノータイムでも落着いた態度で打てるようにな
った。
とはいっても、時折胸の奥底で何か呟く声が聞こえるのだが、かつて味わったことのな
い圧倒的勝利のよろこびが、その声を消し去るのだった。
確かに焦慮と苦悩の色の明らかに窺える相手を見下しながら、ノータイムで打ちまく
る快感には、小さな良心の呟きなど、到底抗し得ぬものがあった。しかし異常な勝
利感に酔っているこのような安川にも、心に秘密を持つ者の翳はさし、それが孤独
を誘った。そして家庭生活にも、うすい雲が流れはじめた。
「ねえ、あなた、手合に勝ってくださるのは嬉しいのだけれど、手合に勝つようになって
から、あなたはどうもおかしいわ。何か大きな秘密を持っているみたいに、なんとなく落
着かないし、時々、深い穴でも落込んだように考えている・・・どうも普通じゃない。何
かあるの?」
女の勘は鋭い。細君は、安川の機嫌の波に不自然な高低があることを感じとり、そ
の原因を探り出そうとする。
「べつだん、何もないさ・・・」
「でも、突然変異みたいに急に碁が強くなったのも不思議だし、それに雑誌に出てい
たけど、あなたは全然考えないで打っているそうじゃないの。・・・私、なんだか怕いの。
このままいくと、こんどはあなたの身体に異変が起こるような気がして・・・」
いかに勘がよくても、慾神という奴がついていて、うっかりすると寿命が半分になるかも
知れない、ということまでは察し得ない。が、大病を患うか、頭が狂うか、いずれにして
も取返しのつかぬ事態に追い込まれそうな予感がしてならないのである。
「大丈夫だよ。何となく神の啓示みたいな閃きを感じたから、ためしにノータイムで打っ
てみたら、それが運よく当ったまでのことさ。僕が以前と変わったように見えるのは、君
の思い過ごしだよ」
なんとなく胡魔化しはしたようなものの秘密を打ち明けられない苦しさは、負けと決ま
った碁を打っている時の辛さに似いる。
「碁も勝って貰いたいけど、身体の方が大切なんですからね、気をつけて下さいよ」
どうやらこれで細君の質問は終ったが、今後のことを考えると、安川はいよいよ気が
重くなるのだった。
名人戦の第二次予選手合が開始された。どっちを見ても、五段以上のそうそうたる
人ばかりだったけれど、安川が一回戦でぶつかる佐野八段は、かつてリーグ戦に入っ
たことのある天才型の棋士だった。
アマチュアだった安川とは違って、年少の頃から内弟子となって本格的な修業を積ん
で来た、一流の棋士である。
本来の実力からすれば、安川など物の数ではない相手だった。ただし、今の安川に
は慾神という最大の味方がいる。ところがこの一局でとんでもないハプニングが起ころ
うとは、この時点では安川は夢にも思っていなかった。  (つづく)
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       日本棋院通教便り(第9号)  2002.03.01 発行
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先日の棋聖戦第5局で、終局の合意をめぐって悶着が起きたことが話題にな
っています。これはルールの問題なのか、マナーの問題なのか、いろいろな意見
がありますが、プロの世界でもいまだにこんな問題が起こるなんて信じられませ
ん。
我々アマのほうも、ルールとマナーには日頃から気をつけたいものです。
(事務局)
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【雑記V】
 
小林覚九段が10月から手合に復帰しているのは、皆さんよくご存じのことと思
う。復帰後の成績は●勝●敗と非常に優秀で、休養前と何ら変わらぬ安定
感。というより、休養前よりも“冴え”や“切れ”に磨きがかかっているような気¥
がするのは僕だけだろうか。
1月22日にはついに、富士通杯の日本代表に名乗りを挙げた。碁の内容も、
趙治勲王座に白番中押し勝ちという立派なもの。覚先生にとって9カ月のブ
ランクなど、何のハードルでもなかったようだ。
でも僕は、今回の「日本代表・小林覚」に出来る限りの拍手を贈りたい。
本当に長く苦しい9カ月だった筈。親しくさせてもらっている柳時熏七段の苦
悩を見ているが故に、覚先生の苦悩もまたよく分かるのである。何より、一時
は碁界の頂点にも立った棋士が碁を打てない・・・これが一番つらかったので
はないかと思う。
これらを乗り越えての日本代表、本戦でもぜひ頑張ってもらいたい。
<P・S> 僕が駆け出しの編集者だった頃のこと。ある七番勝負の記事を書く
為、覚先生にお話を伺った。結構突っ込んだことまで訊いたのだが、覚先生
は嫌な顔ひとつせず、思っていることを正直に話してくれた。質問を終え「あり
がとうございました」とお礼を言った時に、覚先生が返してくれた言葉が忘れら
れない。「愛情さえあれば、どんな厳しいことを書いてもいいと思うよ。頑張って
ね」“書く”ということに迷った時、この言葉が僕に勇気を与えてくれる。(佐野 真)
 
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詳細は  http://www.igoclub.com/soft/softnew.html 参照
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【連載小説・第4回】 − ノータイムの圧勝 −
 
(あらすじ)
安川敏男(35歳)は、ある夜、慾神と名乗る小人のような老人から妙な話
を持ちかけられた。安川の寿命を半分提供すれば、日本一の強い碁打ちに
してくれるという。しかしこのことを他言すると、一年後に安川の命は終わって
しまうという。
まず一年間サービス期間が設けられ、安川は岸田三段との名人戦予選に
臨んだ。「16の十七、小目」。なんと、対局が始まると慾神が次の打つ手を
指示してくるのである。
 
(本編)
「ではお願いします」午前中とは違った固さが岸田三段にはみられた。石音
もたてず、ノータイムで打ち進んでくる相手の不気味さが、若い岸田三段の
集中力を乱す。闘志がカラ回りするのだ。
手合室すべての対局が同時に開始されたのだが、多くの棋士は自分の碁を
忘れた様に、安川・岸田戦へ視線を集めていた。阿倍八段は、岸田三段
のななめ後に座を占め、盤面をじっと見つめている。
− 数分・・・
岸田三段の五笥がガチャリと鳴り、手がのびて、再開の第一着が打ち下さ
れた。「5の十、ボウシ・・・」
間髪入れず、慾神の声が耳元に響く。安川の態度には、午前中のような戸
惑いが無くなっていた。ゆっくり石を取ると、慾神の指示通り、いま打込んで来
たばかりの白にボウシする。
注視していた人々の間から、ホーというような吐息に似た声がもれた。阿倍八
段の顔にも愕きの色が見える。それもそのはず、5の十のボウシなど常識では
考えられぬ手であり、見ようによってはいかにも相手をみくびった強圧戦法と受
取れるからだ。
しかもそのような手を相変わらずノータイムで打つのだから、慾神の存在など夢
にも知らぬ人々が、思わず歎声を発したのも当然だろう。
「恐れ入ったナア・・・」
岸田少年の呟きの底には、激しいものがあった。第一着からノータイムの連続、
その上に人をナメてかかったような強圧手段である。若い岸田三段が平静で
いられるはずがない。
白のボウシに、黒5の十一とツケ、白6の十一とハネ、黒4の十へヒキ、白6の
十二とノビきったとき、黒6の十と切って勢いのおもむくところ、必然的に烈しい
中盤戦へ突入した。石と石がからみ合う鍔ぜり合いになれば、一手一手に勝
負が掛る。だから、深い読みが必要なのはいうまでもない。岸田三段には長考
がつづいた。
しかも安川は以前ノータイムである。そしてその着手にはいささかの誤ちもない
のだ。阿倍八段は座を動かなかった。三段と三段との手合を、八段の先生が
これほど長時間にわたって観戦しつづけるというようなことは、まったく異例のこと
といわねばならない。余りにみごとな安川の打振りと、この対局を包む異様な雰
囲気が、阿倍八段に座を立たしめる余裕を与えなかったのだ。
勝負がついたのは、慾神が予言した通り夕食になる前、午後四時を少し回った
頃だった。徹底的に攻め立てられた岸田三段は、遂に反撃のチャンスを掴めぬ
ままに中盤戦を終わった所で投げた。しばらく呆然として口もきけなかった岸田
少年は、やがて気をとり直し阿倍八段に調べを乞うた。
「サア・・・わからないね。・・・黒のどこが悪かったのか・・・」
初めから並べ直して検討したが、黒には悪手と思われるような手は一手もなか
った。阿倍八段にも勝因がつかめない。不思議な一局だった。
「白の打ち回しがうますぎたのかな。僕なんかには、とてもこう巧くは打てな
いよ。驚いた・・・神様だよ、これは」
神様、と言われて安川はドキリとしたが弁解もしなかった。ただ、先刻から困って
いたのは、打った手のねらいや方針についての感想を阿倍八段に訊かれること
だった。慾神は、手の内容については説明してくれないから、安川に感想などあ
りようもない。夢中で打っていましたから、と胡魔化していたけれど、故意に感想
を述べないのだ、と思われても仕方がない。
困ると同時に、ちょっと寂しかった。
この一局は、たちまち棋院内部の評判になった。しかし勝敗に関しては、フロック
だろう、という程度で片づけられた。
だが数ヶ月後には、安川は一躍碁界の話題をさらう存在になったのである。低段
者の一次予選四局を、全部ノータイムで、しかも間然するところのない打ち回しで
みごとに勝ちつづけ、一流の高段者が揃っている二次予選に駒を進めたからだ。
                                 (つづく)
 
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       日本棋院通教便り(第8号)  2002.02.06 発行
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●202年も早や1ヶ月が経ち、節分、立春も過ぎて春も間近です。
時間ばかり順調に進みますが、皆様、学習の方は順調に進んでいますでしょうか。
何事も持続することが肝心です。囲碁のお稽古も間を空けずに続けましょう。
(事務局一同)
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【雑記T】
 今年ももうすぐ終わろうとしている。今日(12月28日)日本棋院の経理部か
ら源泉徴収票が郵送されてきて「ああ、もうそんな時期か」と気が付いた。元
来が大雑把なタチで、しかも常に「前進あるのみ」と思い続けているようなタイ
プの人間であるから、まず一年を振り返ったりすることはない。
だが今年は違った。というより、あまりにも早く年末が来て「えっ、もう一年が経
ったの!」と驚いてしまったのである。
今年の三月に日本棋院を退社して、フリーのライターになった。サラリーマンに
まったく向いていなかったということもあるが、それ以上に「物書きになりたい」と
いう思いが強かった。収入の保証が無くなるという不安はほとんど持たなかった。
先程も言ったように「不安」という言葉とは、まったく無縁の性格なのだ。僕の
周りの人たちは、それを「錯覚」とか「自信過剰」「無神経」と褒め讃えて(?)
くれている。
そんな僕でも、九カ月経った今思うのは「恵まれ過ぎるほどに恵まれたスタート
だった」ということだ。まがりなりにも今こうして、好きな囲碁と野球の文章を書く
ことで生活できている。フリーの立場だとはいっても、これは決して、自分一人だ
けの力ではない。僕のことを理解してくれた出版社、編集者、協力者の人たち
がいてくれたからこそだと思っている。そして僕の文章を今もこうして読んでくれて
いる皆さんーー本当にありがとう。(佐野 真)
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【雑記U】
1月17日、天元戦本戦(岩田達明九段ー苑田勇一九段)の観戦記で名古
屋・中部総本部へ行ってきた。東京から新幹線で2時間弱だし、これまでも何
度か行っているということもあって、あまり「出張」という感じもしなくなってきた。
でも、たまに家を離れてホテルに泊まると妙に新鮮な気分、その感覚は僕に「自
分を見つめ直す時間」を運んできてくれる。
ところで中部総本部に行くと、いつも思うことがある。それは「棋士とファンの関係
が、実にスムーズ」ということだ。
例えば囲碁教室。先生の講義中、生徒は疑問点があると、すぐにその場で気
軽に質問する。というより、講義のスタイルが「言葉のキャッチボール」形式なので
ある。肩肘張った緊張感はまったく無い。アットホームな雰囲気と言ってもいいだ
ろう。教える側も教えられる側も、実に楽しそうなのだ。
「教える・学ぶ」という関係は、こうでなくてはいけない。残念ながら東京本院の囲
碁教室で、こういった家族的な雰囲気を見ることは少ない。大学の授業のような、
一方通行的なものが多いのが実情だ(もちろん松本篤二先生の教室のように、
素晴らしい教室もある)。
『ヒカルの碁』が大ヒットしたことで、囲碁が空前のブームとなりつつある。囲碁を覚
えたい子供たちが、各地の囲碁教室に、もの凄い勢いで押し寄せているという。
日本棋院でも「ヒカルの碁・囲碁入門教室」なるものを3月に全国各地で一斉ス
タートさせる予定とのこと。単なるブームで終わらせない為にも「教室」の在り方が、
いま改めて問われているのではないだろうか。(佐野 真)
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【連載小説・第4回】
 
−異様な対局(2)−
 
棋院を出て右へダラダラ坂を行き、更に右に折れ、五番町の交差点を左に行くと
「日本テレビ」がる。
その手前の「可否道」という喫茶店の雰囲気が好きで、手合日の休憩時間はたい
ていそこで過す。
棋士達の姿を見ることがないのも好ましかった。交差点を曲がったあたりで、背後に
慾神の声がした。「どうだね、疲れたかね・・・」
ふり向くと、爺さんがニコニコしながら、安川と並んだ。「初めてだから疲れるのだよ。
慣れれば楽なものさ。気楽にやるのだね」
誰かに見られては困る、と辺りを見回したが、棋士や棋院関係者の姿はない。
「相手は若いのでじれだしたね、晩めしまでには勝負がつくよ。もちろん、あんたの勝
ちだがね」安川は、昨夜この慾神に会ってから、ずっと夢を見つづけているような思い
だった。「アハハハ、夢ではないよ。あんたはもう誰にも負けない、日本一の碁打ちに
なれるんだよ。
すくなくとも一年間は保証するし、もし本契約を結ぶことになれば、あんたの寿命の
ある限り、勝ちつづけることになる。
わしがあんたの寿命を、半分貰うことになっても、間違いなく天下無敵の名人になれ
るのだよ。どうだね、悪い話ではないだろう?」
果して慾神のいうように、天下無敵になれるかどうか、甚だ疑問だとは思ったけれど、
一年間は試練期間なのだから寿命を失うこともない。
事実かどうかを今後の手合の勝負で確かめることができるとすれば、これはたしかに
悪い話ではなさそうだ。
「では、またあとでナ。あんたはここへ入るのだろう」慾神にいわれて目を上げると、いつ
の間にか喫茶店の前へ来ている。
「気を楽にしなさいよ」爺さんはシワだらけの顔で笑うと、よちよちとした足取りで、棋院
の方へ引返して行った。
どうやら夢ではないらしい。だとすれば、もう肝を据えるよりない。安川はいくらか気分が
楽になった。
コーヒーを二杯のんで棋院へ帰ると、5階の記者室あたりからにぎやかな声が聞こえて
きた。6階の安川・岸田戦の盤の前に、研究熱心な阿倍八段が坐っていた。
安川が一礼すると、阿倍八段は微笑しながら、「記者室で大変な評判なんでね・・・」
という。
肝を据えたつもりでも、正直な安川の良心は痛む。顔を赤らめ、はア、といいながら自
分の席についたが、心の動揺は容易におさまらなかった。
対局開始のブザーが鳴ると、対局者はそれぞれ席に坐る。いつもならば昼食後は盤
に向い合っても、気分が落ち着くまで軽い冗談などいい合うのだが、今日は安川の姿
を見ると、一様に口をつぐんでしまった。
安川の周囲に何か不気味なものが漂い、うっかりそれに触れると、とんでもない事態が
すぐにも起こりそうな雰囲気だった。(つづく)
 
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       日本棋院通教便り(第7号)  2002.01.07 発行
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●明けましておめでとうございます。
本年も、囲碁を楽しく学びながら実力が付くようにネット通信教授の内容充実を
はかってゆきたいとかんがえております。
皆様のあたたかいご支援を期待しております。(事務局一同)
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●二段コース開講!
やっとの思いで二段コースを昨年中に開講することができました。(川中)
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棋譜管理ソフト「碁マネージャ2」\8,800円(エンテック発行)2月初旬発売予定
このソフトは「碁マネージャ」をバージョンアップしたものである。
詳細は、http://www.igoclub.com/cgibin/Number.cgi 参照
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【初段とは?】
 
「アマチュア初段の基準ってなにかな……?」
10年以上も前の話になるが、某棋士と飲んでいたとき突然こんな質問をされた。
「初段は初段」としか考えていなかった私は、返答に詰まってしまった。
 
初段の実力が認められれば、日本棋院から免状というものが交付される。例えば
棋士が実力を認めて日本棋院に推薦すれば、免状(有料)を取得できる。ここま
はご存じの方も多いと思うのだが、問題はその人の実力。
 
某棋士には教室や稽古先の生徒が多く、今までかなりの免状を取ってあげたらし
い。そのときの基準が、指導碁の七子局でまずまずの内容の碁が打てた人は、
「あなたは初段の実力は十分」というものだった。
しかし、同じ初段の免状を取得したもの同士で対局をさせてみるとびっくり仰天。
なんと三子も四子もの実力差がそこには存在したのだ。
 
某棋士、このままではいかん……と冒頭の質問になった次第。
そのあと、初段の基準についていろいろと意見を出し合った。主だったものは、
 @1万局対局する
 A認定大会で勝ち取る。
 B紙上認定などの試験に合格する。
 C棋士と真剣勝負、九子局で勝つ。
などであったと記憶する。
 
@については、1万局くらい対局すれば、初段の実力は必ずついているはず、と
いうあいまいな予見。個々の学習の仕方や能力にも差があるので即没。
Aは集団の実力が問題。例えば5級の人しか集まらなかったとすれば優勝したと
ころで初段の実力は伴っていない。
Bはもっともな意見でこれで解決かと思われたが、認定試験は実戦試験ではな
いので、ペーパードライバーのような状態にはならないだろうか。
Cもなかなかの意見なのだが、置き碁には滅法強く互先の碁はさっぱりという人
もいる。
 
結局はこれぞという妙案は出ずじまいだった。
 
そもそも初段というものはなんだろう。
中国の古典、玄々碁経によれば、囲碁には九つの品格の段階があり、下から守拙、
若愚、闘力、小巧、用智、通幽、具体、坐照、入神に分け、これをまとめて九品と
呼んでいる。現在でも日本の初段、二段……を中国では一品、二品……と書くのは
なるほどここからきているのである。
 
日本で段位制度が確立したのは、四世本因坊道策の時代であるが、その際九品の
考え方を取り入れたものと思われる。守拙を初段、入神を九段と当てはめてみれば、
入品は入段を意味し、芸道上のひとつのけじめとなる品格が備わったということになる。
また、日本棋院の免状には段位によってそれぞれ書かれている言葉が違っているのだ
が、初段は守拙、二段は若愚……九段は入神。これはプロの免状も同じである。
 
ここで守拙(しゅせつ)を広辞苑で調べてみると、
「世渡りのへたな性格を守って、うまく立ち回らないこと」とある。
なんだか分かったような分からないような……
 
私なりに解釈すると、欲を出さずに一歩一歩日々精進せよ、ということか……。
初段の基準というものは碁の技術以外にも大きななにかがあるようにも思えてきた。
碁に対する情熱、対局中の態度、マナーなどが備わってこそ初めて入品できるので
はないだろうか。
とすれば、強い初段、弱い初段があってもいいじゃないか。
初段は碁の品格が備わったということになり、また、免状はその品格の証明であり
さらなる向上の糧なのだから。
                 
                  日本棋院ネット通信教授担任 田部英進
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【連載小説・第3回】
 
−異様な対局(1)−
 
安川の異様な声は、岸田三段をはじめ周囲の人々の耳にも入った。岸田三段は
驚いて目を上げた。「どうかしましたか?・・・」
安川は宙をみつめ肩で呼吸をしていた。すると、再び慾神の声が響いた。「16
の十七、小目。早く打つのだよ」
強い圧力を感じる声だった。安川は、夢中で盤面の目を追い、右下の小目に打っ
た。
かすかに指先がふるえている。
岸田三段は、ちょっと小首をかしげながら、予定の構想らしく石をすべらせる様
に星を打つ。三連星の布陣だ。「16の三、小目」
慾神は耳の中にいる。混乱した頭が、ガーンと鳴っていた。全然予期しないこと
ではなかったが、あまりに鮮やかである。
全身がシビレたように無感覚だった。「早く、早く打たなければいけない。考え
てはいけないのだよ」
安川の打った向い小目の石は、盤の目から半分もずれていた。「こちらですか?」
岸田三段が微笑をうかべながら石の位置を直した。
「ああ、そう・・・」落ち着くのだ、落ち着かなければ・・・と思うのだが、呼
吸の乱れは治らなかった。
安川の様子が尋常ではないことに、岸田三段はむろんのこと、手合室すべての人
達が気づいていたのは、昼食になる少し前頃からだった。
比較的長考派の安川が、気の抜けたような態度で、着手の全部を、ノータイムで
打っているということは、誰の目にも不自然に映ったからである。布石の頃には
ノータイムがつづいても、岸田三段は苦笑しながら、「予定の行動ですか・・・」
といったりしていた。しかし、序盤から中盤へ移ろうとする難しい時になっても
依然としてノータイムの連続だし、安川三段の様子に奇妙なものがあることを感
じて、岸田三段は漸く気持ちが落着かなくなった。
この頃には、両隣りで対局していた他の四人も、その不自然さが気になり出した。
岸田三段が打つと安川はちょっと目を閉じ、首をかしげると何かを聴き取ろうと
するような様子をする。そして目を開くと、キョロキョロ盤面を見回し、その視
点が一点に止るや、一考もせずに石を置くのである。 
−室内の空気が次第に重くなっていった−
安川は一手を打つのに十秒か二十秒である。些かの休息も与えまいとするような
態度である。
岸田少年の若さが反発し、それが気持ちのいらだちを誘う。固く結んだ口元と、
打下す石音の響きに闘志をこえた感情が見られるようになった。
早くも中盤戦、といった辺りで昼食を報せるベルが鳴った。岸田三段は、ホッと
したように顔を上げた。無言だった。
周囲の人達もしばらく岸田三段と安川の様子を眺めたまま動こうとしない。不思
議なことは、ノータイムで打ち続けた安川に、疲労の色が濃かった。
「凄いもんだなあ・・・」大井四段がつぶやいた。
「神様だね、まったく・・・」畑山四段がつられていう。
その声に安川はぎくりとした。思わず畑山四段を見上げたが、その視線をまとも
に受けた畑山四段は、ちょっと慌て、
「うらやましいナア・・・」といいながら席を離れた。安川は食事をする気になれ
なかった。頭が重く、耳が鳴っていた。
(つづく)
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       日本棋院通教便り(第6号)  2001.12.04 発行
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ウィルス騒ぎ
 
またまた新種のウィルスが急速に蔓延したようです。
事務局にも感染メールが毎日のようにたくさん送られてきます。
事前にウィルス対策ソフトが起動して、被害はありませんでしたが、それでも感染メール
をチェックし検疫フォルダへ入れるだけで大変です。
まだウィルス対策ソフトをインストールされていない方はこれを機会にインストールされる
ことをおすすめいたします。
参考までに、今回のウィルスに関する記事を以下に掲載しておきます。
(事務局)
 
新種のウィルスで警告 IPA
情報処理振興事業協会(IPA)は二十七日、新種のコンピュータウィルス
「Badtrans.B(バットトランスB)」の被害が国内で増えていると警告を出した。
同ウィルスはマイクロソフトのブラウザー(閲覧ソフト)「インターネットエクスプローラー(IE)
5.01」「同5.01サービスパック(ST)1」「同5.5」「同5.5SP1」と電子メールソフト「アウトルッ
ク/アウトルックエクスプレス」を使っているとパソコンに感染する。
「Re・・」や空の件名で送られてくるメールや添付ファイルを開くと感染する。
感染したウィルスはそのパソコン利用者のキーボード操作を記録してウイルス作成者など
に知らせるため、パソコンに不正侵入される恐れがある。感染したパソコンからはアドレス
帳の中のある未読メールにウィルスを張り付けて勝手に返信し広がる。
トレンドマイクロやシマンテック(東京・渋谷)も情報提供しており、両社などの対策ソフト
の定義ファイルを最新版に更新すれば同ウィルスを防げる。
同ウィルスは「バットトランス」の変種だが、感染力はより強力。二十三日ごろから英国を
中心に世界的に広まっているという。
 
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●二段コース開講迫る!
 
初段コースを7月に開講しましたが、二段コースを11月中には開講すべく努力してまいり
ましたが、教材開発に手間取り、開講が遅れて申し訳ございません。
なんとか12月の早い時期に開講できるようがんばっていますので、もう少しお待ちください。
(川中)
 
======================================================================
【野球好きたちV】
日本棋院野球部の面々を紹介するこのコーナーも三回目となった。今回は、とびきり若
い二人の登場。
 
〔林子淵五段〕
チームのエースで4番もしくは5番バッター。
筋力トレーニングで鍛え上げられた肉体を生かして、バズーカ砲のような打球を飛ばし、ピッ
チングでは日に日に目覚ましい成長を遂げる、
まさに“日本棋院のリーサル・ウェポン”。
数年前までは、ただの野球好きの少年だったのだが、碁と同様とにかく研究熱心で、プロ野
球を見たりして勉強しているらしい。23歳という若さでもあるし、今後さらに成長することは間
違いない。
チームの浮沈は彼の双肩にかかっている、と言っても決して過言ではない。
 
〔林漢傑三段〕
今年ドラフト?位で日本棋院ブレンズに入団した17歳のルーキーで、文字通りの
“秘密兵器”。
とにかく足が速い。これはもうチョットしたもので、内野ゴロが転がれば、まず内野安打。この
「内野安打のパーセンテージ」ということになれば、あのイチローをも全く寄せ付けない。なん
せ、つい先日、生まれて初めてクリーンヒットを放ったくらいなので…。
チームとしては、彼をサードとして育てようとしている。捕球の形はまだまだだが、それでも何と
かグラブの中にボールを納めるセンスには秀でている。
レギュラーの座をつかみ“棋院のスピードスター”として、塁上を走りまくってもらいたい。
(佐野 真)
 
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【連載小説・第2回】
 
─ 慾神との出会い(2)─
 
「そんなに怖がることはない。ワシは、あんたの碁が強くなれば、寿命を十年ぐらい縮めてもい
い、という考えが気に入ったんだよ。どうだね?こっちの条件を承知してくれれば、六段どころ
ではない、あんたを日本一の碁打ちにしてあげるがね」
爺さんの声が、こだまのように響く。
そんなバカなことが出来る筈が・・・、と言おうとしたが、喉がカサカサで言葉にならぬ。
「出来るのだよ。あんたが碁を打つときに、ワシが打つ手を全部教えてあげる。あんたは、た
だ石を置くだけでいいのだよ。絶対に負けることはない。その代わり・・・」
爺さんはちょっと真剣な顔つきになった。
「あんたの寿命を、ほんの少しばかり貰うことになるのだよ」
爺さん、つまり「慾神」の条件というのはこうだった。
まず、今日から向う一年間は契約の準備期間として無料サービスするが、一年後、もし本
契約をすることになった場合は、安川の寿命の半分を提供しなければならない、というので
ある。
「ワシは、あんたが気に入ったから、一年間だけ奉仕する。その間、まあゆっくり考えて貰うん
だね。ただ来年の今月今夜が過ぎると、自然に契約が成立することになっているから、もし、
契約する意志がない場合は、間違いなくその前にワシを呼出して、そのことを知らせてくれな
くてはいけないよ。いいかね、わかったね」
 
慾神は、人間の生命を食いながら自らの生命を維持するのだという。
他の慾神はみんな無断で契約してしまうのだが、ワシは良心的だから、話をした上に一年
間のサービスまでするのだ、と爺さんは笑った。
「それから、断っておくが、このことを誰かに喋るとあんたの命は一年後に終わってしまうのだ
よ。忘れてはいけないよ」
これはきっと夢だ、夢に違いない、と安川は思った。
「明日、あんたは手合をするね。では明日の碁から始めることにしよう」なんということだ。た
しかに明日は、名人戦の一次予選を岸田三段と打つのだ。
「ワシの指示する通りに打てば、きっと勝つ。では、明日までお別れだよ」慾神は、くるりと背
を向けると、よちよちした足どりで、闇の中に消えた。
 
息せき切って飛び込んで来た安川の蒼白な顔を見て、細君は、強盗にでも襲われたのか
と思った。
「強盗? 違うよ、爺さんだよ。妙な爺さんなんだ」
「お爺さん? なあんだ、お爺さんならあなたでも負けないじゃないの。だらしがないわ、そんな
に慌てたりして・・・」
「ばか、それが普通の爺さんじゃないんだ。慾・・・」
慾神、と言いかけた安川は、ハッと口をつぐんだ。あの爺さんが単なる狂人なら問題はない
が、もし、事実慾神なるものだった場合は、大変なことになる。一年後には命がなくなるのだ。
「欲の深そうな爺さんでね・・・」
「お金をくれ、って言うんでしょ」
「そ、そうなんだよ」
「誰かに見られたら、みっともないわ」
女房の誤解も不愉快だったが、それよりも奇妙な出来ごとを、話すことの許されない辛さは
一層だった。
やや落ち着きを取り戻し、もう一度先刻の出来ごとを追ってみると、慾神と称する爺さんの
話の内容は、常識からすれば荒唐無稽に類するものである。
が、一方、明日の手合のことまで言い当てた神通力は、まったく人間の業ではなく、半ば慾
神の存在を肯定せざるを得ない。
その夜、安川は一睡もできなかった。
 
翌朝、定刻の十時より十分ほど早く棋院についた。まだ十九歳の岸田三段は、張り切った
様子ですでに六階の「洗心の間」に坐っていた。
岸田三段が仲間たちと雑談をしているうちに、定刻を知らせるブザーが鳴った。
不安と期待が安川の表情をこわばらせる。
「顔色が悪いですね」
岸田三段が遠慮がちに言う。
「そう・・・」
眠れなかったのだ、とも言えない。
黙って碁笥から白石をひとつかみした。岸田三段が「奇数先」と黒石を一つ盤上に置いた。
石を二個づつ並べていく安川の指先がかすかに震えていた。安川の白番だ。
「では、お願いします」
岸田三段が静かに第一着を星に打った。
するとどうだろう!
次の瞬間、明らかに昨夜の爺さんのものと判る声が、安川の耳に響いたのである。
「16の十七、小目」
安川の、色を失った唇から、ウーッ!という叫びがもれた。
(つづく)
 
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       日本棋院通教便り(第5号)  2001.11.01 発行
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慾神の思い出
 
今月から、ネット通信教授のメールマガジンに短編小説「慾神」が連続掲載され
ますが、「慾神」は昭和59年、日本棋院の月刊誌「囲碁クラブ」(現在の「碁ワ
ールド」)がB5判サイズからA4判サイズへと大きくなったときに、一年間掲載され
た小説です。
 
当時、囲碁クラブの編集員であった私には、実に懐かしい小説です。この小説は、
冴えない平凡な中年棋士が、欲望の神と命と引き替えに碁が強くなる取引をす
る話で、読者の人気を集めました。掲載が終わったとき、読者から連載を続けて
欲しいという投書が非常に多く、当時の編集長が作者に連載のお願いを何回も
したのを思い出します。(結局、作者に「私の命が縮まる」と断られましたが)
 
現在、漫画で「ヒカルの碁」が大好評ですが、ヒカルの碁では平安時代の女性の
高手が、ヒカルという少年にだけ見える霊として現れて少年を育てるのですが、
「慾神」はそれと似たような話でも、それが「命と引き替え」というシリアスなものです。
 
この囲碁クラブでの「慾神」、実は2回目の掲載なのです。昭和30年代、やはり
日本棋院の月刊誌「棋道」で、最初に掲載されました。当時、この「慾神」は周
囲のプロ棋士が実名で登場し、物議を醸しだして、棋院東京から掲載中止命令
が出されたという、いわくつきの小説です。
 
読者に人気が出るものは、物議が生じる、変なものです。時代もかなり変わってき
ていますから、今回3回目の登場は、また、新たに反応も違うかと思います。とにか
く、アマの夢である、無敵の強さを手に入れる話、楽しんでいただきたいと思います。
 
昭和59年の囲碁クラブでは、「必殺打ち込み三番勝負 趙治勲VS新撰組」と
いう過激な企画も行った年でもあります。当時の第一人者である棋聖・名人の趙
治勲に、若手精鋭の小林覚、王立誠、山城宏が三番手直りという激しい勝負を
挑んだ企画です。当時の第一人者が負ければ定先、二子と打ち込まれるわけです
から、これも話題を呼びました。
 
私も三十代、張り切っていたのを思い出します。とにかく、再々登場ですが、「慾神」
をお楽しみください。(鉄平)
 
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●二段コース準備中!
 
初段コースを7月に開講しましたが、二段コースを11月中には開講すべく教材開発
に汗を流しています。有段コースともなると、教材の内容はよほどしっかりしたものを作
らなくてはならず、問題素材の作成はプロの棋士にお願いしています。乞う、ご期待!
(伊藤)
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【野球好きたちU】
 
前回から、日本棋院野球部の面々をご紹介している。今回はチームの中核を担うこ
の二人を。
〔玉城忍六段〕
我がチームの4番。ボールを投げればどこに飛んでいくか分からないくらいの恐ろしい(?)
コントロールをしているが、ボールを打てばどこまで飛んでいくか分からないくらいの恐ろし
いパワーの持ち主。打球の飛距離という点では、文句無しにチームナンバーワン。問題
はバットにボールが当たってくれるかどうかという一点に尽きる。
タイプ的には、阪神にいた頃の新庄を思い浮かべるとピッタリで、潜在能力という点では、
チームでも屈指の存在。ポジションは、セカンドおよびファースト。
 
〔中小野田智己八段〕
この数年で最も成長を遂げた選手。
正式に記録はつけていないが、おそらく打率部門ではトップだろう。
特に今年の活躍は目覚ましく、ノーヒットの試合はゼロだと思う。タイミングの取り方が抜
群にうまくなり、スイングスピードも増した。
今や不動の3番打者。ポジションはサード、ショート、外野と、全てにおいて平均以上で、
今や守備面でもチームに欠かせない存在となった。ついでにもう一つ付け加えておけば、
試合後の酒の席では、チーム一の論客へと変身する。
(佐野 真)
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【連載小説・第1回】
 
慾神との出会い1
 
安川敏男は現役の棋士である。といっても三十五歳で三段なのだから、棋士としての
将来には望みがもてない。恋愛結婚の細君と五歳になる男の子が一人。
収入は附き三万円程度の稽古が五〜六カ所、他に棋院の給料や時折まわって来る
新聞碁の手合料などがあるから、豊ではないがまあまあの生活だった。
地味な性格の安川には、大きな欲望はなかった。ただ、五段か六段になりたいという望
みは、素人から転向した十五年前から待ち続けていた。
それが、三段でストップしてからもう十年になる。焦りも加わって今では執念のようなもの
になっていた。「六段になれば、十年ぐらい寿命を縮めてもいいが・・・」
稽古を終え、目白駅から十五分ばかりの我家への道を、とぼとぼ歩いていると、「もしも
し、安川さん」背後から突然声を掛けられて、安川はぎょっとした。
振返ると、小人のような老人がニコニコしながら近寄って来た。全然見知らぬ顔である。
「あんたの願いを、かなえてあげてもいいのだがね・・・」
安川の背後を冷たい風が吹き抜けた。いま、六段になれれば、と考えていたところである。
願い、とはそのことなのだろうか。そんなバカなことはありえよう筈がない。
「ウフフフ、驚くのも無理もないが、ワシには、あんたの思っていることが、全部わかるのだよ」
「君は、誰なんです!?」「ワシかね、ワシは慾神だよ」
「ヨクシン?・・・」「欲望の神だよ」この爺い、気違いかナ、と思った。「ウフフフ、狂人ではな
いよ」
全身から、血の気がひくような感じだった。
聴覚だけが妙に冴え、他の機能はすべて停止したように思えた。 (つづく)
 
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       日本棋院通教便り(第4号)  2001.10.02 発行
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●二段コース準備中!

初段コースを7月に開講しましたが、二段コースを11月中には開講すべく教材
開発に汗を流しています。有段コースともなると、教材の内容はよほどしっかり
したものを作らなくてはならず、問題素材の作成はプロの棋士にお願いしていま
す。乞う、ご期待!
(伊藤)
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【面白い囲碁用語A】
囲碁用語の中には、動物や、ものの名前から取ったものも少なくありません。
囲碁を上達するにしたがって、それぞれの形があらわれてくることでしょう。
これから、言葉だけでも先にいくつかご紹介しましょう。

まずは動物から。最初に出てくるのは「鶴の巣篭もり」でしょうか。これは相手の
石を取る手筋の名前です。白石を取る基本形を見れば、なるほどと思える美
しいネーミングです。名付け親のセンスの良さがうかがわれます。
皆さんでしたら、この手筋をみてどのような名前を考えるところでしょうか?
しかし、白い鶴(石)を取る時は美しいのですが、黒石を取るときはどうなので
しょうね?

次に「イタチの腹ヅケ」が便利な手筋です。これはなぜイタチかよくわからない形
なのですが、一説によると、「二立ちの腹ヅケ」という手筋が、いつのまにかイタチ
に転じたらしいのです。
確かに、「二立ち」ならば良くわかる形の手筋ですが・・・・

想像上の動物としては、「天狗の鼻ツケ」というのがあります。
天狗の長い鼻を、先の方からバシッと指ではじいてしまうような手筋です。言葉
を知っていると、実際に手筋が決まったときは、実に爽快ですよ。

有段者ともなれば、「狸の腹鼓」といった手筋も使いこなしておいた方が良いで
しょう。
狸が左右のお腹を交互にたたく様を表したのでしょうが、手筋としても意表をつ
く手で、確かにこんな手で石を取られたら、相手は狸に化かされたと思うかもし
れません。

ヨセの手筋で「サルスベリ」というのがあります。サルがスベリ落ちる様子からき
た。
と書いてあることが多いのですが、以前ナナメに育ったサルスベリの木を見たとき
に、こちらが語源なのでは、と、思ったことがあります。真相はわかりませんが、便
利な手筋です。

他にも色々な動物が、出てきますが、竜や虎、鷲や鷹などはあまり聞いたこと
はありません。皆さんが、自分だけの新しい言葉を作るときにでも、登場させて
あげてはいかがですか?   (伊瀬 英介)

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【野球好きたちT】
日本棋院には野球部が二つある。棋士チームと職員チームだ。といっても、この
二つは互いに独立しているわけではなく、両方を掛け持ちという人が多い。職員
チームはメンバーがもともと少ない上に、仕事の関係で出席できない人が必ず数
人出てくるからである。
僕もその“掛け持ち組”の一人なのだが、今回から数回に分けて、そんな野球好
きの棋士たちを紹介していきたいと思う。
まずはこの“島根の怪童”から。

〔桑本晋平五段〕
本人いわく、地元の島根県・出雲市では、相当な有名人(?)らしい。
中学時代、卓球では島根県代表に近いところまで行った。
だがそれ以上に碁の才能を示し、現在に至っている。
実際、卓球の腕前は相当なもの。本人は謙遜しているが、僕の目にはセミプロ
としか映らない。
というわけで、運動神経は抜群。「器用」という言葉は、彼を形容する為に存在
するのではないだろうか。9ポジションすべてをこなすし、ピッチャーとしても、
新しい変化球の投げ方を教えると、その場ですぐマスターしてしまう。バッティ
ングでも“チョコン”と、実に器用な芸当を見せる。
ピアノも弾くし、文章も書く。彼こそ、碁界ナンバーワンのエンターテイナー!
(拍手)
ちょっと褒め過ぎてしまったようだ。割り引きしておいてください。      
                         (佐野 真)

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                      日本棋院通教便り(第3号)
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●バージョン1.1準備完了!
 
通信対局ソフトはCD−ROMに入れて受講者の皆様にお配りしていますが、このソフトは、
担任側のソフトも含めて、いろいろ細かな点で改良すべき点があり、その修正を今年の春か
ら鋭意進めてまいりました。
この改良ソフトがこのほどようやく完成し、バージョン1.1としてリリースできることになりまし
た。
主な改良点は、Windows2000に対応したこと、担任が受講者の面倒を見るのにより便利な
ように配慮したこと、説明文を随所に入れたこと、細かなバグや改善に対応したことなどで
す。
このバージョン1.1は、9月中旬から新しい受講者に対して配布してゆく予定でおります。
ご期待ください。
(伊藤)
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【強くなる楽しみ】
囲碁を強くなりたい。これは、囲碁ファンの99%の人がそう願い、日夜努力しいるところであ
ります。
では何のために強くなりたいのでしょう?
こちらもほとんどの人が、「○○さんに勝ちたいから。」こう思っているのでしょうか。もちろん、
囲碁は勝負のゲームですから、勝ったときの喜びは格別です。
そして5級の○○さんに勝てるようになると次は△△3級に勝ちたくなり、いずれは□□初段と
勝負してみたくなる。これは普通の話ですが、でも上達の目的は本当に勝つことだけなのでし
ょうか?
そもそも囲碁の力(棋力)、とは二つの要素から成り立っています。
一つは、碁盤のどこを地にしようか、どのような展開で打ち進めようかを考える構想力。
そして、もう一つはその構想を実現する実行力です。この実行力だけを磨き続けて勝つ人を、
周囲は我流の筋悪と言います。この人達は、不思議と初段以上になれません。
逆にプロは実行力には大差がありませんから、この構想力を戦わせているわけです。構想は
プロ同士でも千差万別、人によって考えていることが全然違います。
プロではなくとも、自分が懸命に考えて全く思いもつかなかった素晴らしい発想を示されたなら、
負けても大きな感動があります。この感動こそ、囲碁の持つ最高の楽しみです。そして、この感
動は心の持ち方しだいで、棋力に関係なく味わえるものです。
自分の構想を阻止する手を相手が打ってきた時、勝負にこだわり「ちぇ、気づかれた」と思えば
それまでですが、逆に、「ああ相手も同じことを考えていたのだな」と思うなら、こちらは、また別
の構想を考えれば良いのです。
それに対して、また相手が応じてくる・・・。それこそが手談の喜びといわれるものです。
勝ち負けの前に、対局中の一手一手を楽しむために強くなりたいものですね。 
(伊勢 英介)
 
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【我が愛し(?)の趙治勲V】
平成2年から4年にかけての本因坊戦七番勝負は、僕の趙治勲観を根底から覆した。それまで
の「趙治勲憎し」から、畏怖・尊敬の対象へと、形を変えたのである。
本因坊位を十連覇、大三冠の維持…。勝ち続けるその姿を見ていくうちに、いつしか僕は、趙治
勲を応援するようになっていた。と同時に、その姿から、どれだけ多くの事を学ばせてもらったこ
とか…。
話の流れもあって、ここまで意図的に「趙治勲」と呼び捨てにさせてもらってきたが、僕にとっては
紛れもなく「趙治勲先生」である。僕が今こうしてライターとしてやっていけるのも、先生が“勝負“
というものの厳しさ・素晴らしさを、自らの生き様で示してくれたお陰なのだ。
その趙先生も、今や無冠。本因坊戦では、張栩・21歳という若き挑戦者が名乗りをあげたように、
世代交代の波が確実に、そして急速に押し寄せてきている。
これまで「碁盤」と「自分」を相手に闘ってきた趙先生だが、これからは「時代」との闘いとなる。
強力な時代の波に対し、先生がどう立ち向かうのかを、これからしっかりと見ていきたい。
奇跡ーーこの言葉を実に安易に使うマスコミに、僕は強い反発心を抱いていて、これまで一度も
使ったことはない。使う日が来るとすれば、それは、趙治勲が時代を相手に勝利した時以外にない。
(佐野 真)
 
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             日本棋院通教便り(第2号)
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●ネット通信教授・初段コース開講!

今年の1月に入門・基礎・初級・中級・上級の5コースでもってネット通信教授
を開講しましたが、その時点では各コースの課題1の教材をそろえるのがやっと
のことでした。
それ以来、開講した5コースの課題2,課題3、認定試験1,認定試験2といっ
た教材作成に追われ、まさに受講者の受講速度との競争でした。
これらの教材がすべて完成したのは4月に入ってからでしたが、開講したコース
の受講結果を振り返ってみると、上級コースの課題内容やテスト問題が難しすぎ
ることが確認されました。
そこで上級コースの教材をみなおし、難しいものは初段コースへ、やさしいもの
は上級コースへと分割し、さらにそれぞれ新に作成した教材を付け加えて、新し
い上級コースと初段コースが出来上がりました。

なお、初段コースを終了すれば初段の免状を日本棋院に申請することができます。

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●ネット通信教授受講者の声

受講者に聞いたネット通信教授の評判は次のとおりです。

・とにかく課題や教材の分量が予想していたよりも多くて、ひととおりやってみ
 るだけで大変だ。分量が多いだけ得した感じにはなるが。

・感性鍛錬ドリルで1手10秒の問題をゲーム感覚で次から解いていくのは1種
 の快感である。

・応答型、自由着手型、選択型、テキスト型といった問題形式の中から、問題内
 容に最もふさわしい形式を選んで編集されているので、理解しやすい。

・受講終了後も教材がそのまま自分のパソコンに残り、大変な分量の問題やテキ
 ストをいつでもみることができるので、下手な囲碁ソフトを買うよりはずっと
 よい。

・通信対局ができるようになったことはうれしいかぎりだ。

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囲碁をはじめると、色々な囲碁の言葉がでてきます。俗に言う「囲碁用語」とい
うものです。初心者のうちはどうも、この用語というものに苦しめられる方が多
いようです。
ノビとオシの違いってなに?とか、アキ三角?グズミ?アタリ?ポンヌキ?等々
……
数多くの囲碁用語に戸惑うこともあるでしょう。

囲碁の歴史は4千年とも言われていますが、囲碁の用語もまた長い時を経て現在
まで伝えられているものが多いのです。現在でも、特徴のある言葉が数多く残っ
ています。
「それはダメです。」などと日常で使いますね。この「ダメ」というのは、もと
もとは囲碁の言葉なのです。囲碁では、打っても価値のないところという意味で
す。だから、本来「ダメ」は、「〜はいけない」というほど強い意味ではないは
ずですが、日常の方が厳しく使っているようです。それとも、囲碁においては一
手を無駄に使うということが、強く戒められるべきなのでしょうか。私達はよく
ダメを打ってしまいますけれども、気をつけなければいけませんね。

「私は彼に一目置いています」、これも出典は囲碁のようです。置き石を置くと
いうことは、相手の力を認めているわけです。決して「目をつけている」という
わけではありません。大変尊敬している人には「星目おいています。」と言って
もよいことになりますね。

「定石」というのも、日常ではたまに使います。プロ野球などで、この場面では
送りバントが定石、という解説を聞きます。定まった石で定石。セオリーという
ことですね。ちなみに将棋では「定跡」(ていせき)こちらは定まった跡。石を
置いていく囲碁と、駒を動かす将棋の違いがここに現れています。

そういえば、昔の囲碁は上手が黒を持ったそうです。熟達した人を玄人(くろう
と)、初学者を素人(しろうと)と言うのはここが語源であるという説もありま
す。
いつのころからか、上手の方が白になってしまい、言葉だけがそのまま残ってし
まったのでしょう。玄人・素人は、もう囲碁の言葉ではないですね。
囲碁用語には動物も数多く登場します。鶴の巣篭もり、イタチの腹ヅケ、狸の腹
鼓。天狗の鼻ツケなどというのもあります。一体誰がいつごろ命名したのかわか
りませんが、きっと想像力豊かな方だったのでしょう。これらは有名な手筋です
から、興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか、棋力も向上するかもしれ
ません。

長い時を経て伝えられてきた囲碁用語。これもまた昔と今をつなぐ掛け橋だと思
って、楽しく学んでみてはいかがですか。 (伊瀬)

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【我が愛し(?)の趙治勲U】
前回では“あまりに強すぎる趙治勲”が憎くて仕方なかった、という僕の中学生
時代の思いをお話しした。
かつて横綱・北の潮がやはり「憎たらしいほど強い」と言われていたのと同じ思
いを、僕は趙治勲に抱いていたわけである。でも、北の潮がなかば尊敬の意味を
込めてそう言われていたのに対し、僕は本気で「趙治勲憎し、打倒・趙治勲!」
と思っていた。
その思いが、少しずつ変化を見せ始める。
転機は、平成2年から4年にかけて、趙治勲にvs小林光一棋聖・名人が挑戦した、
本因坊戦七番勝負。
 3年間のスコアは次の通り(趙から見たもの)。
 <平成2年> ○●●●○○○
 <平成3年> ●●○○○○
 <平成4年> ●●●○○○○
どんなに「アンチ趙治勲」を謳っていても、これだけの事実を見せつけられて、
心を動かさない者はいない。 平成2年の時は「ウ〜ン、またか…」としか思わ
なかったが、翌年、僕の心に変化が生まれた。
「光一先生をもってしてもダメなのか…。趙治勲とは、そんなに強い碁打ちなの
か…」
そして平成4年の大逆転後には、こう思った。
「なんて凄い奴だ。なんて偉い奴なんだ…」
                        (佐野 真)

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            日本棋院通教便り(第1号)
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            日本棋院ネット通信教授開講のご挨拶   
                                                                    
財団法人日本棋院 普及財担当理事 石田 芳夫     

囲碁愛好家の皆様には、ますますご研鑽のことと存じ上げます。
二十一世紀を迎え、今やどちらを向いてもコンピュータの話を聞かないこと
はありません。幸い、囲碁はインターネットを利用しての通信対局が、あち
こちで行われるなど、コンピュータにきわめて相性がよいと聞き及びます。
私のニックネームもコンピュータですが、何だかうれしく思います。
遅ればせながら、このたび、日本棋院がコンピュータ時代にふさわしい
「ネット囲碁通信教授」を、本年4月から本格的に開講することになりまし
た。現在はまだ、入門から初段までの6コースだけですが、二段コース、三
段コースと準備が整い次第、六段まで順次開講していく予定です。
ネット通信教授は、囲碁を覚え、強くなるには最適の教材を用意しています
が、メールで担任教師と直接質疑応答などができ、習うには最高のシステム
ではないかと思っています。
碁を勉強したいが時間がない、遠隔地なので教える人がいない、本での勉強
だと難しくて大変、もっと日本棋院のことを知りたいなどという方には、こ
のネット通信教授は、時間の制約がなく、一手一手学ぶことができ、非常に
役立つと確信します。年内には、会員の皆様専用の指導碁システムもできる
そうです。
そうなれば、もっと身近に私たち棋士とメールなどで接することもでき、新
しいふれあいが広がりそうです。また、提携サイトでの、会員だけの通信対
局大会も近々実施されます。実戦対局で腕を磨くこともでき、担任教師も席
亭として皆様の碁を見、学習の成果を確かめたいと、意欲満々です。
ぜひ、画期的システムのネット通信教授を受講してくださるようここにお願
い申し上げます。
最後に、皆様のネット通信教授に対するご意見、ご要望もお寄せください。
ますます最高の学習システムにしたいと思います。
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              スタッフ挨拶
 
日本棋院は、2001年4月からインターネットによる本格的な通信教育を
開始しました。
それに合わせて、通信教育担当者によるメールマガジンを、月1〜2回のペ
ースで発行することになりました。
通信教育にまつわるおもしろい話や日本棋院内外のこぼれ話、それに囲碁上
達のためのヒントなど、あまり形式にとらわれずに気軽な形で皆様へお届け
したいと思います。ご期待ください。
 
2001年7月11日 日本棋院ネット通信教授 担当者一同
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【我が愛し(?)の趙治勲T】
十数年前、つまり中学生の頃、僕は趙治勲が憎くて憎くて、どうしようもな
かった。理由は簡単、“あまりに強すぎた”からである。
僕が碁を覚えて最初に手にした棋書が、大竹英雄先生の著書だった。つまり
最初に覚えた棋士の名前が「大竹英雄」であり、そんな子供が大竹ファンに
なるのに、さして時間はかからなかった。
その十数年前というのは、名人戦七番勝負で趙治勲vs大竹英雄が3年連続で
雌雄を決した時期にあたる。
結果は、いずれも趙治勲が名人防衛。特に昭和59年・第9期、3年連続の3
年目となる七番勝負は、皆さんもよくご存じのように、3連敗4連勝の結末
である。
大竹先生3連勝の時点で「今年こそは間違いない」と思い込んでいた僕は、
あまりの悔しさに涙を流した…。子供の頃の記憶がどんどん無くなり、今や
中学時代の事もほとんど覚えていない僕だが、この悔しさだけは、未だ鮮明
な記憶として残っている。
年が明けての棋聖戦七番勝負は、武宮正樹九段が趙治勲に挑戦した。僕がど
ちらを応援したかは、言うまでもないだろう。結果はーーついに悔しさのボ
ルテージが最大値まで跳ね上がったのだった。
「なんて強い奴だ…。どうしたら倒せるのだろう…」
本気でそんな事を考えていた。
でもある時を境として、この悔しさの形が、少しずつ変わっていくことにな
るのだ。

                            (佐野 真)
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